全 情 報

ID番号 07934
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 森下仁丹事件
争点
事案概要  医療品等の製造・販売を営む株式会社Yに雇用されYの支店等で就業し、その後平成一二年からY本社マーケット開発部の職にあったXが、この間、コンピューター入力等のミスが発覚し、決済までに修正するよう命じられたもののこれを放置し新たに別のミスを生じさせていたことなどから、技能発達の見込みがないと認めたときとの解雇事由に該当するとして、解雇されたのに対し、本件解雇は解雇権の濫用により無効であると主張して、Yに対し、雇用契約上の地位確認及び未払賃金の支払を請求したケースで、Xはリストラの対象とされた平成八年以前には成績は標準との評価を受けていたこと、その後のXの営業成績不振はYの営業自体が不振であったことなどをも考慮すれば、それを一概に非難できないこと、コンピューターを使って大量の伝票処理を一人でやる業務はXにとって慣れない業務であったことが容易に推認できることのほか、Yの就業規則では人事考課の著しく悪い者等については、降格ということも定められていることなどに鑑みれば、いまだXについてYの従業員としての適格性がなく、解雇に値するほど技能発達の見込みがないとまではいえないなどとして、本件解雇はYの解雇権濫用であって無効であるとして、Xの請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法89条3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 解雇事由 / 已ムコトヲ得サル事由(民法628条)
裁判年月日 2002年3月22日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 1914 
裁判結果 認容(確定)
出典 労働判例832号76頁/労経速報1815号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
〔解雇-解雇事由-已ムコトヲ得サル事由(民法628条)〕
 前記認定のとおり、平成8年度以降の原告の成績は、芳しくなく、主にC評価がつけられてきた。そして、このCという、標準より劣るという評価も、札幌支店での盗難事件や、A会社での販売職としての業績不振、また、同社業務課での大量の伝票処理ミスとそれによる誤った決算書の作成という結果などに鑑みれば、不当な評価であったとまではいえない。
 しかしながら、〔1〕原告は、リストラの対象とされた平成8年以前には、概ねB、標準という評価を受けていたこと、〔2〕平成8年4月以降平成11年3月までのA会社での営業職としての勤務については、原告の後任の者でも予算を達成できなかったことや同社の営業自体が不振であったことなどをも考慮すれば、原告の成績不振を一概に非難はできないこと、〔3〕平成11年10月以降のA会社での業務課での業務は、かつての札幌支店での業務では女性の部下がいたことと異なり、コンピューターを使っての大量の伝票処理を1人でやるというものであり、原告にとって慣れない業務であったことが容易に推認できること、〔4〕被告では、本社物流課での業務のように、原告がミスなく業務を行なうことができる職種もあること、〔5〕被告の就業規則では、人事考課の著しく悪い者等については、降格ということも定められていることなどに鑑みれば、未だ原告について、被告の従業員としての適格性がなく、解雇に値するほど「技能発達の見込みがない」とまではいえない。
 また、被告は、原告の札幌支店での盗難事件やA会社での経理ミスが、「業務上やむをえないとき」という解雇理由に該当するとするが、前者はすでに約6年ほど以前の事柄であるうえ、それぞれ、顛末書、始末書等の作成を命ぜられていることや、さらには、いずれの事由も通常考えられる「業務上やむをえないとき」の文理に合致するものではないことからすれば、これらが前記解雇事由に該当するという被告の主張は採用しえない。
 よって、本件解雇は、被告の解雇権濫用であって、無効であるから、原告の本件地位確認等の請求は理由がある。