全 情 報

ID番号 07938
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 協和精工事件
争点
事案概要  建設機械部品等の製造販売を業とする株式会社Y(従業員三〇名)で溶接工あるいは仕上げ工として稼働してきたXら二名が、六〇歳を経過後も就労していたにもかかわらず、就業規則上の定年退職規定(六〇歳を定年年齢とする)に基づき雇用契約の終了を申し渡されたことから、〔1〕当該就業規則は、周知義務(労働基準法一〇六条)等を履行しておらず、労働基準法の要件を欠き本件退職規定も効力がない、〔2〕仮に効力があるとしても、定年退職到達日を経過した後も契約が継続していたXらには定年規定本文は適用されないと主張して、Yに対し地位保全及び賃金の仮払を申し立てたケースで、〔1〕について、周知義務違反は罰則の適用問題が生じるにとどまり就業規則の効力を否定する理由とはならず、上記各手続を履行しなかったことにより就業規則の効力が否定されるとのXらの主張は採用できないとされたが、〔2〕については、本件定年規定は、使用者が定めた定年年齢の到達による自動退職を定めたものをいうとするYの主張は採用できず、定年年齢到達後も雇用契約を継続していた場合に、従業員との雇用契約を終了させるためには、解雇の意思表示を必要とするが、本件で定年退職通知を解雇の意思表示と解しうるとしても、Xらの就業規則所定の解雇事由に該当する事実に関する主張がなく、そのような事実があったとも認められないことから、Xらとの雇用契約が終了しているとのYの主張は認められないとして、賃金の仮払についてのXらの申立てが認容された事例(地位保全申立ては却下)。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条3号
体系項目 退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 2002年3月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成13年 (ヨ) 10099 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労経速報1812号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-定年・再雇用〕
 債務者において、六〇歳または六一歳で退職した者がいないばかりか、債権者Xに対して定年退職の通知がなされる以前に、債務者を定年を理由に退職した者はいない(争いがない事実)。そして、他に債務者が定年一律一年延長制度を採用していたと認めるに足る疎明はないから、債務者が同制度を採用していたという債務者の主張は、採用できないし、そもそも定年退職制度を採用していたのか否かについても、疑問が残るといわざるを得ない。
 その点はひとまず措くとしても、定年自動退職制度は、我が国の企業で広く採用されているが、一定の年齢への到達が当然に雇用契約の終了事由となるものではなく、定年による自動退職というのは、特殊な契約終了原因であり、定年年齢の到達が契約終了原因となる理由は、企業によって様々であるが、定年年齢到達を理由に、雇用契約が自動的に終了するとの効果を生じさせるには、定年年齢への到達が、就業規則によって退職事由として明文で規定され、雇用契約の内容となっていることが必要である。
 本件定年規定は、本文で、六〇歳を定年とすることを定めつつ、ただし書で、「役員又は役員の認める例外はこの限りではない」との留保をしているが、それは、本件定年規定本文の定める、六〇歳到達を理由とする雇用契約の自動終了による退職の効力は生じないというに止まり、さらに雇用契約の自動終了事由たる定年年齢を使用者が自由に定め得る根拠とみるのは相当ではない。
 まず、本件定年規定二項が、定年退職者の再雇用を定めていることと対比すれば、本件定年規定一項ただし書は、定年到達後にも雇用関係が継続する場合で定年後も定年年齢到達前の雇用契約が引き続き存在する、勤務延長の場合を定めた規定であると解される。本件定年規定一項ただし書には、勤務延長後の雇用契約の期間又は終期の定めはない以上、定年年齢到達後の雇用契約は、定年年齢到達前の雇用契約と同じく、期間の定めのない雇用契約であると解され、それを使用者が終了させるには、解雇の意思表示(又は、その他の契約終了原因)が必要である。