全 情 報

ID番号 07948
事件名 雇用関係存続確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 群英学園(解雇)事件
争点
事案概要  進学予備校を経営する学校法人Xの指導部長兼国語の専任教師と事務次長であったY1・Y2二名が、〔1〕Xの理事長Aらに不正経理の疑いがあり、職員の退職が勧められていることなど職場環境が悪化していると考え、Aらに文書交付とともに退陣要求を申し入れ、話し合いがなされたが結論が出ず、その翌日、〔2〕第三者である高校及び短大の教職員労働組合DにAらの不正経理問題や右申入れの経緯等を報告して右文書を交付したところ、XはY1・Y2に対し、右問題解決まで自宅待機する旨命令し、謝罪がなければ懲戒解雇の措置をとる旨を通知するとともに、Y1・Y2の依願退職を念頭において人事委員会を数回開催したが、結局、Y1・Y2は〔1〕〔2〕の行為を理由に人事委員会の答申書に基づいて普通解雇通知がなされたことから、本件解雇は無効であるとして、雇用契約上の地位確認及び賃金の支払を請求したケースの控訴審で、本件各解雇が合理的根拠を欠き社会通念上に照らして相当でないということはできず、本件解雇には解雇権行使に当たっての裁量の範囲逸脱、濫用等の違法があるものとは認められないとしてY1・Y2の請求は棄却を免れないとして、本件解雇を解雇権濫用により無効としていた原判決が取り消された(Xの控訴が認容された)事例。
参照法条 労働基準法89条3号
労働基準法89条9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2002年4月17日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ネ) 2907 
裁判結果 認容(上告)
出典 労働判例831号65頁
審級関係 一審/07549/前橋地/平12. 4.28/平成10年(ワ)122号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換・関係〕
 使用者はその裁量に基づき労働者に対する解雇権を行使することができる。したがって、就業規則所定の懲戒事由に当たる事実がある場合において、解雇権を有する使用者が裁量により労働者を懲戒解雇に処することなく、通常は退職金の支給や解雇後の再就職等において有利と解される普通解雇に処することは、それが懲戒の目的を内包することがあるとしても許されないものではないというべきであるから、特段の事情のない限り懲戒解雇事由に該当する事実をもって普通解雇処分に付することもできると解するのが相当である。
 イ ところで、控訴人の就業規則56条1項1号は「懲戒解雇の決定があったとき」を普通解雇事由としているところ、この規定が文理上は「懲戒解雇事由の存在」ではなく「懲戒解雇の決定」と定めていることからすると、懲戒解雇事由が存在する場合において、同号により普通解雇をすることができるのは、当該事由について懲戒解雇の決定行為がいったんされた場合に限定したものと解し得ないではない。しかし、そもそも「懲戒解雇の決定」なる規定自体があいまいであり、職員に対する最終的な処分権限は任命権者である理事長にあること(就業規則41条1項、3項)、仮に懲戒解雇処分の決定行為までを要求するものとすれば、これを普通解雇にするためにはいったんした懲戒解雇処分を取り消して再度普通解雇処分の決定手続を取ることになるが、そのような手続を踏むことにいかなる合理性があるのか明らかではない。そもそもこの規定は控訴人の職員に懲戒解雇事由があり控訴人の経営及びそれによって得られる職員の生活の補償等からすると懲戒解雇処分が相当な場合であっても被懲戒者の個人的事情その他諸般の事情から被懲戒者に有利な処理をする余地を控訴人の裁量にゆだねたものと解するのが合理的というべきである。したがって、上記「懲戒解雇の決定」とはせいぜい控訴人組織内において懲戒解雇が相当であるとの判断がされているような場合であれば足りると解するのが相当である。
 ウ そうすると、控訴人は就業規則56条1項1号に基づき被控訴人らを普通解雇に処することができるというべきである。〔中略〕
 〔編注・以下は控訴審における控訴人の追加的・補充的主張に対する判断である。〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
 群馬県内では名の通った予備校の理事長が刑事犯罪行為を行っているというにほかならない本件のような不正経理問題をこのような形でマスコミに公表する行為は、仮にこれが真実であったとしても明らかにA理事長個人や控訴人の名誉・信用を著しく毀損し、その経営活動に重大な影響を与えるものであることは多言を要しない。控訴人は、学校法人ではあるが予備校経営を目的とするものであって公的補助のない全くの民間企業である。このような企業が予備校間の競争に打ち勝つためには生徒の募集や著名な講師の勧誘などが求められるのであり、常にこうした配慮を不可欠とする経営を継続していく上では社会的信用・評判をより高め、これを保持していくことが経営の基本姿勢であると考えられるところ、被控訴人らが指摘するような不正経理問題が新聞報道され公にされることは予備校経営上取り返しのつかない悪影響を与えることは明らかというべきである。殊に、控訴人は地方の県内の企業であり、前記のとおり募集対象の生徒数自体が減少している中で、全国展開の大手予備校の進出を始め多数の各種予備校が凌ぎを削って厳しい経営競争をしている最中に、このような記事が報道されれば控訴人の予備校経営に致命的な影響を被ることになるのは容易に予測されるところである。現に控訴人は入校生徒数の激減という状態に追い込まれ、かつてない経営難に陥っており、このため控訴人の職員らの給与の切下げを余儀なくされ(B舘長の給与は月額20万円程度に切り下げられている。)、職員の生活が圧迫される厳しい事態を招いているのである(〈証拠略〉)。
 ウ しかも、前記のとおりC工営の工事が架空のものであることは何ら裏付けを持たないものであったばかりか、かえってこの工事が行われた事実が認められ、これを架空工事であると広言しA理事長ら4名の理事らの責任を追及していたほかならぬ被控訴人Y1自身が当時の経理担当者としてC工営の工事が事実であることを知っていたことが推認されるところ、同被控訴人の行為は控訴人との雇用契約の根本的な信頼関係を踏みにじるものでありその違法性は極めて高いものといわなければならない。また、被控訴人Y2にしても何ら真実性について調査、検討をすることもなく同Y1の言辞を鵜呑みにして行動を共にしたのであるから、同様に非難を受けるべきものであることは前記のとおりである。
 このように、被控訴人らの上記マスコミ発表行為は何ら正当性を有しない上に、控訴人及びその職員に重大な損害を与えたものである。
 (3) 以上のとおりであり、被控訴人らには就業規則81条1号ないし3号、5号及び9号所定の各事由に該当する懲戒解雇事由がある。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 本件各解雇は控訴人の裁量に係るものであるから、被控訴人らがした上記各行為の原因、動機、性質、態様、控訴人及びその職員に対する影響、勤務態度等を併せ考察してみると、被控訴人らにとって今回が初めての処分であること、本件各解雇が被控訴人らの生活に及ぼす影響等諸般の事情を考慮しても、本件各解雇が合理的根拠を欠き社会通念に照らして相当でないということはできず、本件各解雇には解雇権行使に当たっての裁量の範囲逸脱、濫用等の違法があるものとは認められないから、被控訴人らの解雇権濫用の主張は理由がない。