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ID番号 07949
事件名 賃金等請求事件(18628号)、損害賠償請求事件(13699号)
いわゆる事件名 コーワフューチャーズ事件
争点
事案概要  〔1〕商品の先物取引等の受託業務等を目的とする会社Yの取締役であったX1・X2の二名が、Yに対し、委任契約に基づく報酬の支払(Yの定款では取締役の報酬は株主総会で決定すると規定されていたが、株主総会において取締役会を一任する旨の決議がなされ、その結果取締役会でそれぞれの報酬が決定された(X1は一七〇万円、X2は一三〇万円))及び報奨金の支払(X1のみ、営業成績に応じて報奨金を出す制度に基づくX1は営業本部長として及び個人賞として報奨金を取得する地位にあった)を請求したのに対し、〔2〕X1・X2はYとの間で退任後五年間、競業行為や在職中の社員を競業会社に就職するよう退職勧奨しないよう合意していたが、X1・X2の退任当時Yの従業員がYを退職し競業関係にあるAに入社していたことから(X1・X2も競業会社に就職)、X1・X2が共謀の上Yの従業員を勧誘して同業他社に移籍させYに損害を与えたとして、X1・X2に対し取締役としての委任契約に基づく忠実義務(商法二五四条の三)及び善管注意義務(商法二五四条の三、民法六四四条)違反の責任(商法二六六条一項五号、民法四一四条)並びに不法行為責任に基づく損害賠償、及び営業本部長であったX3~X8の六名に対し雇用契約に付随する忠実義務の債務不履行責任及び不法行為責任に基づく損害賠償の支払を請求したケースで、〔1〕については、X1が本件報奨金を受給しない旨の合意をYとの間でなしたと認めるに足りないとして、その他の請求を含めて認容されたが、〔2〕については、X1・X2に移籍勧誘行為があったと認めるに足りる証拠はなく、又仮に移籍勧誘行為があったとしても、これによって従業員らが右退職をしたものとはいえず、Yの損害と移籍勧誘行為との間には相当因果関係を認めるに足りないとしてYの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
民法709条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 取締役報酬・報奨金
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 2002年4月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 18628 
平成13年 (ワ) 13699 
裁判結果 認容(18628号)、棄却(13699号)(控訴)
出典 労働判例829号47頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-取締役報酬・報奨金〕
 平成12年4、5月当時、関門商品取引所で従来の商品に比較して取扱手数料が低廉なNON大豆などの商品が上場されており、平成12年5月末までの残玉アップ月間制度で目標を達成したものの、手数料は残玉数ほどは伸びていなかったこと、被告代表者が被告経理部から、売上げも伸びず、客からの出金要請も重なっているから報奨金の支払はできない旨告げられたこと、被告代表者が原告X1と1、2回残玉アップ月間制度の報奨金が支給されていない旨の話をしたことは認められるが、原告X1が本件報奨金を受給しないと被告と合意したことは、これを認めるに足りる証拠がない。〔中略〕
 したがって、原告X1と被告間で、本件報奨金を受給しない旨の合意が成立したとは認められない。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 反訴被告らによる移籍勧誘行為があったとしても、これによって6月退職者が退職したとはいえず、被告主張の損害と移籍勧誘行為との間には相当因果関係を認めるに足りない。すなわち、前記2(2)のとおり、原告X1及び原告X1を除く6月退職者は、被告の退職を決意した理由について、被告は、返還遅延行為により2回にわたり過怠金を科されたにもかかわらず、主務大臣が行う検査で分離保管義務違反が発覚したこと、社宅、社会保険料及び加給金を滞納していることの各事実を聞いて、被告の経営に不安を感じて退職を決めた等と述べるところ、この供述は、当時の被告の客観的状況及び6月退職者の辞表提出の経過(2(1)カキ)とも一致し,不合理な点はなく、十分信用できるところである。そうであるなら、6月退職者らは、移籍勧誘を受けたことによって被告の退職を決意したとはいえず、移籍勧誘行為と6月退職との間には条件関係が認められないからである。