全 情 報

ID番号 07951
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 育英舎事件
争点
事案概要  札幌市内に二〇の学習塾を経営する会社Yの元従業員で、在職中、五教室の人事管理を含む管理業務全般の事務を担当していた営業課長Xが、時間外労働についての割増賃金が未払であったとして右時間外割増賃金の支払及びそれと同額の付加金請求したのに対し、YがXは労働基準法四一条二号の管理監督者に該当し、時間外賃金請求権を有しないとして、Xの管理監督者該当性が争われたケースで、Xは、人事管理を含むその運営に関する管理業務全般の事務を担当していたものであるが、それらの業務全般を通じて、形式的にも実質的にも裁量的な権限は認められておらず、急場の穴埋めのような臨時の異動を除いては何の決定権限も有しておらず、勤務形態についても、いつどこの教室を回って、どのようにその管理業務を行うかについての裁量があるというにすぎず、本部及び教室における出退勤についてはタイムカードへの記録が求められていて、その勤怠管理自体は他の従業員と同様にきちんと行われており、各教室の状況について社長に日報で報告することが例とされているというその業務態様に照らしても、事業場に出勤をするかどうかの自由が認められていたということはないし、賞与の支給率も、他の事務職員や教室長と比べ、総じて高いといはいえ、Xに匹敵する一般従業員もいることからすると、役職にふさわしい高率のものであるとはいえず、Xの課長としての給与等の面からみても、管理監督者にふさわしい待遇であったとも言い難いとして、Xは、Yの営業課長として、その業務に関する管理者としての職務の一部を行っていたとはいえ、その勤務実態からみても、いまだ管理監督者に当たると解することはできないとしてXの請求が一部認容された事例(付加金請求は棄却)。
参照法条 労働基準法41条2号
労働基準法37条
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 管理監督者
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
裁判年月日 2002年4月18日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 2590 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例839号58頁
審級関係
評釈論文 小畑史子・労働基準56巻2号36~41頁2004年2月
判決理由 〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕
 労働基準法は、管理監督者に対しては、労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないと定めている(41条2号)が、その趣旨とするところは、管理監督者は、その職務の性質上、雇用主と一体(ママ)なり、あるいはその意を体して、その権限の一部を行使する関係上、自らの労働時間を中心とした労働条件の決定等について相当な程度の裁量権を認められ、その地位に見合った相当な待遇を受けている者であるため、強行法規としての労働基準法所定の労働時間等に関する厳格な規制を及ぼす必要がなく、かつ、相当でもないとするところにあるものと解される。したがって、管理監督者に当たるかどうかを判断するに当たっては、その従業員が、雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められているかどうか、自己の出退勤を始めとする労働時間について一般の従業員と同程度の規制管理を受けているかどうか、賃金体系を中心とした処遇が、一般の従業員と比較して、その地位と職責にふさわしい厚遇といえるかどうかなどの具体的な勤務実態に即して判断すべきものである。〔中略〕
 原告は、第3営業課長として、その課に属する5教室の人事管理を含むその運営に関する管理業務全般の事務を担当していたものであるが、それらの業務全般を通じて、形式的にも実質的にも裁量的な権限は認められておらず、急場の穴埋のような臨時の異動を除いては何の決定権限も有してはいなかった。
 また、原告は、営業課長として、社長及び他の営業課長ら及び事務局とで構成するチーフミーティングに出席し、被告の営業に関する事項についての協議に参加する資格を有していたが、そのミーティング自体が、いわば社長の決定に当たっての諮問機関の域を出ないものであって、それへの参加が何らかの決定権限や経営への参画を示すものではない。
 さらに、原告は、その勤務形態として、本部に詰めるか、あるいはまた、いつどの教室で執務をするかしないかについては、毎週本部で開かれるチーフミーティングに出席する場合を除いてその裁量に委ねられていたけれども、それは、市内に点在する5教室の管理を任されている関係上、いつどこの教室を回って、どのようにその管理業務を行うかについての裁量があるというに過ぎず、本部及び各教室における出退勤についてはタイムカードへの記録が求められていて、その勤怠管理自体は他の従業員と同様にきちんと行われており、各教室の状況について社長に日報で報告することが例とされているというその業務態様に照らしても、事業場に出勤をするかどうかの自由が認められていたなどということはないし、現に原告は、公休日を除いて毎日事業場には出勤をしていた。
 そして、原告が課長に昇進してからは、課長手当が支給されることになり、それまでの手当よりも月額で1万2000円ほど手当が上がったため、月額支給額が上がり、賞与も多少増額となり、接待費及び交通費として年間30万円の支出が認められ、また、業績に応じて平成11年に1度だけとはいえ、課長報奨金として70万円が支給されるなど、給与面等での待遇が上がっていることは確かであるが、賞与の支給率も、他の事務職員や教室長と比べ、総じて高いとはいえ、原告に匹敵する一般従業員もいることからすると、それは、その役職にふさわしい高率のものであるともいえない。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 賞与及び期末手当について、他の一般従業員と比較して、原告に対して明らかに高率な賞与が支給されているとまではいい難く、時間外労働に対して支給された部分があると認め得る証拠もなく、また、期末手当は教室長時代から支給されていて、年度に応じて高低があり、特にその職種や時間外労働時間に応じて算定されて給付されたとも認め難いから、その全部又は一部を時間外労働に対する給付として控除することは相当ではない。
 (3) また、各種の報奨金について、まず、平成11年4月に支給された報奨金1万円及び同年5月に支給された課長報奨金については、臨時の支給であることからすると、賞与と同様の業績評価報酬と考えられ、後者は課長職にある者に限って支給されたものであるとはいえ、課長手当のように課長職にあることだけで支給されたものではないし、その支給に当たり課の職員らへの還元を示唆されるような支給目的からみても、時間外労働に対して給付された部分があるとはいい難いのであって、これらを時間外労働に対する給与の一部として算定することは相当ではないというべきである。