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ID番号 07959
事件名 保険金請求権確認請求控訴、訴訟手続承継参加事件
いわゆる事件名 住友軽金属工業(団体定期保険第1)事件
争点
事案概要  非鉄金属部品の製造、販売を業とする株式会社Y1の従業員であって心筋梗塞により死亡した(業務外)Aの妻Xが、Aを被保険者としてY1と保険会社Y2(九社)との間で締結されていた団体定期保険契約の保険金受取人指定部分がY1となっていたところ、〔1〕主位的に他人の生命保険契約における被保険者の同意(商法六七四条一項)は、被保険者になることの同意と、受取人指定についての同意に分けられ、後者についてはAは同意をしていたとはいえないか、仮に同意していたとしても当該受取人指定は公序良俗に反し無効であるとして、Y1に対し保険金請求権がXに帰属することの確認請求、及びY2に対して保険金の支払請求を、〔2〕予備的に特別の合理的事情がない限り保険金相当額はAもしくはその遺族に弔慰金等として支払う旨の合意があったと推認できるか、Y1には信義則上、Aもしくは遺族に受領した保険金相当額を引き渡す義務があるとして、Y1に対して保険金相当額の支払を請求したケースの控訴審(X・Y1らともに控訴)。4 〔1〕については一審とほぼ同様の理由によりXの控訴が棄却されたが、〔2〕については、事実認定によれば、Y1は団体定期保険契約に基づいてY2から支払われる保険金の受け取り契約であり、従業員又はその遺族に対する給付については、労働協約等によって約している以上のものを支払う義務を負わないという態度を一貫して維持していることが明らかであり、Y1がAとの間で保険契約に基づいて支払を受けた保険金の全部又は一部をA又はその遺族に対して支払うことにつき黙示的に合意したものと認める余地はないとして、退職金とは別に、Y1が受領できる保険金額のうち特別弔慰金等の上限額を超える部分から保険料総額を控除した額の二分の一に相当する部分についてXの請求を一部認容していた原審部分が取り消され、Y1の控訴が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
商法674条1項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 団体生命保険
裁判年月日 2002年4月26日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ネ) 211 
平成13年 (ネ) 474 
裁判結果 一審原告控訴棄却、一審被告控訴認容(上告、上告受理申立て)
出典 金融商事1143号31頁/労働判例829号12頁
審級関係 一審/07712/名古屋地/平13. 2. 5/平成8年(ワ)4341号
評釈論文 水野幹男・労働法律旬報1539号6~11頁2002年11月10日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕
 商法674条1項は、他人の生命の保険契約について被保険者の同意を要求しているが、その趣旨は、他人の死亡を保険事故とする保険契約が、賭博の目的に利用されたり、保険金を取得する目的で被保険者の生命を害しようとする犯罪を誘発する危険ないし被保険者の人格権を侵害する危険があるなど公序良俗に反する目的に悪用されることを回避するために、予想される危険について最も利害関係のある被保険者の同意を要求し、これを契約の有効要件とすることで上記危険を政策的に防止しようとしたものと解される。上記趣旨に照らすと、被保険者が保険契約締結に対して同意をするに際しては、保険契約者及び保険金受取人を認識した上で、上記の危険性の有無を判断することが最も重要な要素となるから、保険金受取人が誰であるかという事項はその中心的なものであり、不可欠の要素であるということができる。そうすると、受取人指定の同意を切り離した被保険者になることのみの同意はその存在意義を失うというべきであって、上記の規定がこのような無意味な同意を予定しているものと解することはできない。商法677条2項、674条2項、3項後段の規定も、保険金受取人の指定、変更等をする場合に上記の危険を防止するために改めて被保険者の同意を必要としたものであって、その際に保険金受取人指定についての同意と新たに被保険者となることの同意とを共に求めているものではない以上、これらの規定が存在することをもって同法674条1項の同意につき被保険者になることの同意と受取人指定についての同意とに区別する根拠とすることはできない。
 したがって、被保険者となることの同意と保険金受取人指定についての同意を区別することを前提とする1審原告の主張は理由がない。〔中略〕
 上記認定のとおり、平成5年には、1審被告Y1は、労働組合に対し、団体定期保険契約の目的及び内容等について相当程度詳細に説明をしているところ、そのころには、亡Aは、自己を被保険者とする本件契約が締結されていることを認識していた。そして、1審被告Y1は、平成8年7月22日ころ、亡Aを含む全従業員に対して、団体定期保険契約の目的、内容等を説明する文書を配布するなどし、これに承諾しない場合には同年8月19日までにその旨の届出をするようにと通知したが、亡Aは、その期間内に上記届出をしなかったのであるから、遅くともそのころには本件保険契約における被保険者となることについて同意したものと推認することができ、この同意の効力を否定すべき事情が存在することを認めるに足りる証拠はない。〔中略〕
 上記認定事実によると、1審被告Y1は、団体定期保険契約に基づいて本件各契約会社から支払われる保険金の受取人は契約者である1審被告Y1であり、従業員又はその遺族に対する給付については、労働協約等によって約している以上のものを支払う義務を負わないという態度を一貫して維持していることが明らかである。そうすると、1審被告Y1が亡Aとの間で本件保険契約に基づいて支払を受けた保険金の全部又は一部を亡A又はその遺族に対して支払うことについて黙示的に合意したものと認める余地はないものといわざるを得ない。したがって、黙示の合意があることを前提とする1審原告の主張は採用することができない。