全 情 報

ID番号 07970
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 創栄コンサルタント事件
争点
事案概要  測量、土木工事の設計・管理等を業とする会社Y2に入社後、三か月間の試用期間を経て正社員となったXが、賃金は年俸制(年額三〇〇万円(一二等分して毎月二五万円))で時間外労働手当のほか賞与等も含まれるとなっていたところ、正社員になってからは時間外割増賃金が支払わず、またその後の業務担当の変更により時間外労働時間が増えたにもかかわらず相当の賃金が支払われなかったため(Xは出勤していない)、〔1〕在職中の時間外手当等及び〔2〕割増賃金が支払われなかったことについての慰謝料等の支払、平成一三年一月二〇日に退職したと主張して、〔3〕退職金の支払及び〔4〕年休消化分の買上げを請求したケースで、本件年俸制は時間外割増賃金分を本来の基本的部分と区別して確定できないから労働基準法三七条一項に違反しているとされて時間外割増賃金等の支払請求の一部が認容されたが、その他の点については、使用者の義務は、規程、慣行法上は存しないとして請求がすべて棄却された事例。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法11条
労働基準法2章
労働基準法115条
労働基準法114条
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定方法
雑則(民事) / 時効
雑則(民事) / 附加金
裁判年月日 2002年5月17日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 5964 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例828号14頁/第一法規A
審級関係
評釈論文 ・労政時報3549号74~75頁2002年8月2日
判決理由 〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 年俸制を採用することによって、直ちに時間外割増賃金等を当然支払わなくともよいということにはならないし、そもそも使用者と労働者との間に、基本給に時間外割増賃金等を含むとの合意があり、使用者が本来の基本給部分と時間外割増賃金等とを特に区別することなくこれらを一体として支払っていても、労働基準法37条の趣旨は、割増賃金の支払を確実に使用者に支払わせることによって超過労働を制限することにあるから、基本給に含まれる割増賃金部分が結果において法定の額を下回らない場合においては、これを同法に違反するとまでいうことはできないが、割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は、同法同条に違反するものとして、無効と解するのが相当である。
 そうすると、上記認定事実によれば、被告における賃金の定め方からは、時間外割増賃金分を本来の基本給部分と区別して確定することはできず、そもそもどの程度が時間外割増賃金部分や諸手当部分であり、どの部分が基本給部分であるのか明確に定まってはいないから、被告におけるこのような賃金の定め方は、労働基準法37条1項に反するものとして、無効となるといわざるを得ない。
 したがって、被告は、原告に対し、時間外労働時間及び休日労働時間に応じて、時間外割増賃金等を支払う義務がある。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定方法〕
 上記認定事実によれば、被告は、原告の担当業務については当然に時間外労働が伴うものであることを予定しており、また、被告では、従業員の勤務時間の管理を基本的にタイムカードを使用して行っており(原告本人及び被告代表者)、これをもとにして計算した所定時間外労働時間数(ただし、休日労働時間数は含まない。)を毎月の給料支払明細書に記載し(被告代表者)、Y1社長も原告は同明細書に記載していた所定労働時間外時間数にみあった時間外労働をしていたと認識していた(被告代表者)のであるから、同明細書記載の所定労働時間外時間数については、被告の業務命令の範囲内の労働であり、これをもって、原告の時間外労働時間と認めるのが相当である。〔中略〕
〔雑則-時効〕
 上記認定事実によれば、平成12年4月に、原告は、被告に対して、時間外割増賃金等の支払を請求(催告)している(それ以前に原告が、被告に対して支払請求をしたと認めるに足りる証拠はない。)が、その後1年以上が経過してから本件を提起しているから、本件訴状送達日(平成13年6月16日)より遡って2年を超える時間外割増賃金等については時効により消滅している。
 そうすると、原告が、被告に対して、未払時間外割増賃金を請求することができる期間は、平成11年6月17日以降に支払期が到達する分、すなわち平成11年6月末日支給分以降から平成12年8月末日支給分までの分となる。〔中略〕
〔雑則-附加金〕
 被告は、時間外割増賃金を含むものとして原告の賃金を定めとして時間外割増賃金を支払っておらず、これは、このような方法をとることによって、個別の割増賃金等の計算の煩瑣を避ける目的であったにすぎないから、このような事情からすれば、ことさら付加金の支払を命じることを妨げるような事情があるとはいい難い。
 よって、被告は、原告に対し、時間外労働割増賃金に関し、原告主張の範囲内である46万8650円(原告が時間外労働割増賃金の付加金として請求しているのは46万8650円であり、同金額は、認容時間外労働割増賃金の額の範囲でありかつ労働基準法114条ただし書に定める期間内のものである。)の付加金を支払うべきである。