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ID番号 07971
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 日本郵便逓送(臨時社員・損害賠償)事件
争点
事案概要  郵便局の郵送物の運送等を行う会社Yにおいて、三か月の雇用期間で雇用される期間臨時社員として業務に従事し、四年から八年にわたり契約を更新されてきたXら四名が、正社員と同一の労働を行っているにもかかわらず、Yが正社員と同一の賃金を支払わないことは、同一労働同一賃金の原則に反し公序良俗違反であり不法行為に当たるとして、賃金差額相当の損害金の支払を請求したケースで、Xらが主張する同一労働同一賃金の原則が一般的な法規範として存在しているとはいいがたく、一般に期間雇用の臨時従業員について、これを正社員と同様の労働を求める場合であっても、契約の自由の範疇であり、何ら違法ではないといわなければならないとしたうえで、Yにおいては臨時社員運転士を採用する必要があり、Xらの締結した労働契約上、賃金を含む労働契約の内容は、明らかに正社員と異なることは契約当初から予定されていたことであり、賃金格差が生じることは労働契約の相違から生じる必然的結果であってそれ自体不合理ではなく、臨時社員制度自体を違法ということはできず、結局のところ、その労働条件の格差(同年度入社の本務者と比較した場合、臨時社員の年収は、およそ七割程度、賞与を除いた平均賃金日額では、六割程度)は労使間における労働条件に関する合意によって解決する問題であり、雇用形態が異なる場合に賃金格差が生じても、これを憲法一四条、労働基準法三条・四条違反ということはできないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法3条
労働基準法4条
日本国憲法14条
民法90条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 男女同一賃金、同一労働同一賃金
裁判年月日 2002年5月22日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 14386 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例830号22頁/労経速報1813号3頁
審級関係
評釈論文 阿部未央・法学〔東北大学〕67巻3号155~162頁2003年8月/橋本孝夫・労働法律旬報1547号26~33頁2003年3月10日/香川孝三・ジュリスト1253号216~218頁2003年10月1日
判決理由 〔労基法の基本原則-男女同一賃金、同一労働同一賃金〕
 原告らが主張する同一労働同一賃金の原則が一般的な法規範として存在しているとはいいがたい。すなわち、賃金など労働者の労働条件については、労働基準法などによる規制があるものの、これらの法規に反しない限りは、当事者間の合意によって定まるものである。我が国の多くの企業においては、賃金は、年功序列による賃金体系を基本として、企業によってその内容は異なるものの、学歴、年齢、勤続年数、職能資格、業務内容、責任、成果、扶養家族等々の様々な要素により定められてきた。労働の価値が同一か否かは、職種が異なる場合はもちろん、同様の職種においても、雇用形態が異なれば、これを客観的に判断することは困難であるうえ、賃金が労働の対価であるといっても、必ずしも一定の賃金支払期間だけの労働の量に応じてこれが支払われるものではなく、年齢、学歴、勤続年数、企業貢献度、勤労意欲を期待する企業側の思惑などが考慮され、純粋に労働の価値のみによって決定されるものではない。このように、長期雇用制度の下では、労働者に対する将来の期待を含めて年功型賃金体系がとられてきたのであり、年功によって賃金の増加が保障される一方でそれに相応しい資質の向上が期待され、かつ、将来の管理者的立場に立つことも期待されるとともに、他方で、これに対応した服務や責任が求められ、研鑚努力も要求され、配転、降級、降格等の負担も負うことになる。これに対して、期間雇用労働者の賃金は、それが原則的には短期的な需要に基づくものであるから、そのときどきの労働市場の相場によって定まるという傾向をもち、将来に対する期待がないから、一般に年功的考慮はされず、賃金制度には、長期雇用の労働者と差違が設けられるのが通常である。そこで、長期雇用労働者と短期雇用労働者とでは、雇用形態が異なり、かつ賃金制度も異なることになるが、これを必ずしも不合理ということはできない。
 労働基準法3条及び4条も、雇用形態の差違に基づく賃金格差までを否定する趣旨ではないと解される。
 これらから、原告らが主張する同一労働同一賃金の原則が一般的な法規範として存在しているとはいいがたいのであって、一般に、期間雇用の臨時従業員について、これを正社員と異なる賃金体系によって雇用することは、正社員と同様の労働を求める場合であっても、契約の自由の範疇であり、何ら違法ではないといわなければならない。〔中略〕
 原告らは、仮に、同一労働同一賃金の原則に未だ公序性が認められないとしても、憲法14条、労働基準法3条、4条の公序性に基づけば、同一企業内において同一労働に従事している労働者らは、賃金について平等に取り扱われる利益があり、これは法的に保護される利益であると主張する。しかしながら、雇用形態が異なる場合に賃金格差が生じても、これは契約の自由の範疇の問題であって、これを憲法14条、労働基準法3条、4条違反ということはできない。