全 情 報

ID番号 07972
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 つばさ証券事件
争点
事案概要  証券株式会社Xで証券外務員として勤務していたYは、C寺とD寺にワラント取引を紹介し、昭和五二年から平成六年までその担当をし、取引を一任されていたところ、この取引によりC寺は結果として約六〇〇〇万円、D寺は約二六〇〇万円の損失を負ったことからXが両寺に対し損害賠償を支払ったため、XがYに対し、Yは取引の開始又は継続に当たりYが両寺に対して行った勧誘又は対応に説明義務違反等があり、よってYがXに対して負う雇用契約上の注意義務に違反したと主張して、Xの職員就業規則の規定(職員は、故意又は重大な過失によって会社に損害を与えたときは、会社はこれを弁償させる)に基づき、あるいは予備的には、証券外務員が担当した取引によってXが顧客に対して賠償金を支払った場合に当該証券外務員はXに対して賠償金相当額の求償金を支払う旨の労使慣行等があるとして、これに基づき損害賠償金相当額の損害賠償を請求したケースの控訴審で、Yは、Xに損害賠償責任を負担させることがないように、Yが顧客に対して負っている〔1〕取引対象となる証券取引の内容、商品特性等について説明すべき信義則上の義務、〔2〕取引開始後においても取引継続に当たり、状況に応じて補足説明義務を履行すべきことを、Xに対する雇用契約上の労務提供義務として負っているとしたうえで、Yには〔1〕〔2〕ともに雇用契約上の注意義務違反があると認めたうえで、諸般の事情を考慮して、右注意義務違反に本件就業規則所定の「重大な過失」があったとまではいうことができず、Xとの雇用契約上の義務違反について重大な過失があったとまではいうことはできないとし、Yの顧客に対し助言すべき雇用契約上の注意義務違反に基づく損害賠償請求を一部認容した一審判決のY敗訴部分が取り消され、Xの控訴が棄却(Yの控訴が認容)された事例。
参照法条 民法415条
労働基準法2章
民法1条2項
民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 2002年5月23日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ネ) 4148 
裁判結果 控訴棄却、変更(確定)
出典 タイムズ1101号174頁/労働判例834号56頁
審級関係 一審/07864/東京地/平13. 7.10/平成11年(ワ)8905号
評釈論文 石毛和夫・銀行法務2147巻2号61頁2003年2月/大塚成和、河津博史・銀行法務2148巻4号108頁2004年3月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 職員就業規則49条は、労務者である職員が使用者である1審原告に対して負う雇傭契約上の労務提供義務等に故意又は重大な過失をもって違反した場合の損害賠償責任を規定するものと解される。
 ところで、1審原告は、顧客に対して、証券取引を勧誘し、開始するに当たって、取引対象となる証券取引の内容、商品特性等について説明すべき信義則上の義務を負い、さらに、勧誘・取引開始時の説明義務の延長として、取引開始後においても取引を継続するに当たって、従前の説明で十分でない場合には、状況に応じて1審原告主張のとおり補足説明義務を負うと解され、1審原告がこれに違反して顧客に損害を被らせた場合には、損害賠償責任を負うところ、1審原告の職員である1審被告においても、1審原告の履行補助者として、顧客に対して、同様の義務を負うものであり、1審被告がこれに違反して顧客に損害を負わせた場合には、1審原告が顧客に対して損害賠償責任を負うのであるから、職員である1審被告は、1審原告に損害賠償責任を負担させることのないように、顧客に対する上記義務を履行すべきことを、1審原告に対する雇用契約上の労務提供義務として負っていると解される。そして、1審原告が顧客に損害賠償した場合において、1審被告に上記義務違反があり、この点に重大な過失がある場合には、職員就業規則49条に基づいて、1審被告は、1審原告に対して、損害賠償責任を負うものである。〔中略〕
 ワラントはハイリスクな金融商品であるから、ワラント取引を勧誘する証券会社の職員は、顧客に対し、ワラント取引の仕組み、内容を説明するのみならず、ワラント取引には権利行使期間の制限やギヤリング効果によるリスク、また、外貨建てワラント取引には為替差損によるリスクがあることについて、顧客の年齢、経歴、社会的地位、財産状態、経済知識、投資経験、理解能力等に応じて、具体的に説明すべき信義則上の義務を負うと解される。〔中略〕
 1審被告は、本件取引の開始に先立ち、A〔編注・C寺の経理担当者〕及びB〔編注・D寺の代表役員〕に対し、ワラントの仕組み、内容のみならず、権利行使期間を経過した場合にはワラントが無価値になるリスク、ギヤリング効果により大きな損失を被るリスク等について、具体的に説明すべき信義則上の義務を負っていたものと認めるのが相当である。
 そうであるにもかかわらず、1審被告は、本件取引の開始に先立ち、Aに対しても、Bに対しても、上記のリスクについての具体的な説明を怠ったものであり、1審原告に対する雇用契約上の注意義務に違反したというべきである。〔中略〕
 他方において、平成2年1月以降の株価の暴落前までは両寺とも本件取引により相当の利益をあげていたのであり、両寺が本件取引により損害を被ったのは、上記株価の暴落及びその後の下落傾向によるものであって、このことは、1審被告においては予測し得なかったものというべきである。
 これら諸般の事情を考慮すると、1審被告の上記注意義務違反に職員就業規則49条の「重大な過失」があったとまでいうことはできない。〔中略〕
 以上のとおりで、1審被告に、説明義務違反及び補足説明義務違反はあるものの、これらの義務違反に係る1審原告との雇用契約上の義務違反について重大な過失があったものとまでいうことはできないから、1審原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。