全 情 報

ID番号 07974
事件名 清算金反訴請求事件
いわゆる事件名 山昌(トラック運転手)事件
争点
事案概要  一般貨物自動車運送業を営む株式会社Xが、トラック運転手として固定給部分と歩合給部分からなる給与体系のもと勤務していた正社員Yについて、償却方式による稼働形態に切り替え(YはXが購入したトラックを買い受けたうえ、それを専属的に使用してXが受注した運送業務に従事、Yは車両価格に車検代を加算した金員を月賦により運賃収入から差し引きXに返済、自動車保険料等の経費、X社の事務経費、運賃種運比例分をYの運賃収入から差し引く、Xは四〇万円は最低保障としてYに支払うが実際に計算し支払われるべき運賃収入額との差額はXのYに対する貸付金として処理する、黒字分が出ればXはYへ賞与として支払う、Yの退職時に全期間の収支を清算した結果、車両の月賦返済が完了している場合には、XがYの使用車両を時価額で買い取るなどの条件が規定)たが、その後、Yは退職する旨を申し出たため、Yに対して貸付金九五二万円の支払を請求したところ、YがXに対して償却方式は無効であると主張して清算金債務不存在の確認等を求める訴訟を提起したのに対し、XがYに対し本件清算金の支払を請求したケース(Yは自らの訴訟を取下げている)。; Yは労働基準法の適用を受ける労働者に該当し、労働基準法二七条にいう出来高払制その他請負制で使用される労働者に該当するとしたうえで、本件償却方式の有効性については、当該労働契約が労働基準法二七条に反して無効となるか否かについては、保障給の定めが明確になされていなくても、現実にその趣旨に合致するような給与体系が確立され適性に運用されていると認められれば当該労働契約が無効であるとはいえないが、本件ではそのようなことは認められずそれゆえ本件償却方式は労働基準法二七条に違反し、そのうえ公序良俗に反するものとして、少なくとも、運賃収入から経費を控除した残額が最低保障額に満たない場合に、その差額をYのXに対する貸付金として処理するとの部分については無効であるというべきとして、Xの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法27条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 傭車運転手
賃金(民事) / 出来高払いの保障給・歩合給
裁判年月日 2002年5月29日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 3028 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例835号67頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-傭車運転手〕
 本件において、反訴被告は、車両を反訴原告から買い受けて専属使用しているものの、当該車両が反訴被告名義にされることは予定されておらず(証人A)、上記車両売買の目的としては、当該車両を「専属使用できる」という点に重きが置かれていたと認められる。そして、反訴被告が、反訴原告の従業員として、反訴原告が受注した仕事のみに従事していたことについては争いがなく、反訴被告が労基法の適用を受ける労働者に該当することは明らかである。〔中略〕
〔賃金-出来高払いの保障給・歩合給〕
 一般に、賃金の支払が、出来高払制その他の請負制による場合は、時間賃金の場合と異なり、仕事の供給量に伴う事業の繁閑によって賃金額が左右され、あるいは仕事の単位量に対する賃金の切下げ、仕事の完成度に対する厳しい評価などとあいまって不当に低い賃金をもたらして、労働者の生活の安定を確保することが難しくなると認められる。
 そこで、労基法27条は、上記のような弊害のあることを考慮して、実収賃金の確保ないし減少防止を通して労働者の生活を保障すべく、一定額の賃金保障を使用者に義務づけたものであると解される。
 そして、同条が定める保障給とは、「労働時間に応じた一定額」であるから、時間給であるのが原則であり、実労働時間に応じて支払われなければならないものであるから、労働者の実労働時間とは無関係に一定額を保障するものは固定給であって、同条にいう保障給とはいえない。
 同条は、使用者に対し、上記のような保障給の定めをし、かつ、当該保障給以上の給与を労働者に支払う義務を課しているというべきである。
 ただし、当該労働契約が労基法27条に反して無効となるか否かの判断にあたっては、保障給の定めが明確にはなされていなくても、現実に同条の上記の趣旨に合致するような給与体系が確立されており、適正に運用されていると認められれば、当該労働契約が無効であるとはいえないと解される。