全 情 報

ID番号 07999
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 ブラジル銀行事件
争点
事案概要  ブラジル国商法に基づき設立されたブラジル国の国立銀行Yの本店に雇用され、東京支店次長を勤めるなどした後、五七歳で退職したXが、退職後、Yとの間で期間一年の雇用契約を締結し、次に半年の業務委託契約を三回締結したが、Yから四回目の業務委託契約を更新拒否されたことから、業務委託契約は実質的に期間の定めのない雇用契約であったと解雇の無効を主張し、また期間の定めがあるとしても雇用継続の期待があり解雇権濫用法理の適用があるとして雇止めの無効を主張して、雇用契約上の地位確認ならびに未払い賃金等の支払を請求したケースで、本件業務契約はいずれも雇用契約であったと認めるのが相当であるが、第一契約ないし第四契約によるXY間の雇用関係が、実質的に期間の定めのない雇用契約であったということはできないとし、さらに各契約書には契約期間とともに一時的な契約であることや使用者が契約更新の義務を負わないことが明記され、その従事する仕事は契約書の文言どおり一時的な雇用と理解して当時の両当事者の状況と矛盾しないこと等から、第一契約ないし第四契約が当事者間において、当然更新されるべき労働契約を締結する意思で締結されたものであるとも、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとも、ある程度の雇用継続が当事者において期待されていたとも認めるに足りず、解雇権濫用法理の適用される余地はないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法14条
労働基準法26条
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
賃金(民事) / 休業手当 / 休業手当の意義
裁判年月日 2002年8月14日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 2957 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1824号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 原被告間の契約は、第一契約締結後三回にわたり更新され、第二契約は第一契約書に記載された更新期限をすぎてから更新されているものの、第二契約及び第三契約のいずれにおいても、契約期間満了直後又は直前に契約期間を明記した契約書が両当事者によって作成され、各契約書には契約期間とともに、一時的な契約であることや、使用者が契約更新の義務を負わないことが明記されていたこと、第四契約は、第三契約終了から一か月以上経過し原告がいったんブラジルに帰国した後に新たに締結されたものであることが認められ、これらの事実からは、第一契約ないし第四契約による原被告間の雇用関係が、実質的に期間の定めのない契約であったということはできないというべきである。〔中略〕
〔賃金-休業手当-休業手当の意義〕
 本件契約が実質的に期間の定めがない雇用契約であったということはできず、その余の点を検討するまでもなく、原告の空白期間一(編注・第二契約書の契約期間終了後から第三契約書の契約開始までの八日間の間隔)についての賃金請求、空白期間二(編注・第三契約書の契約期間終了後から第四契約書の契約開始までの三三日間の間隔)についての休業手当請求はいずれも理由がない。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 有期雇用契約であっても、それが、当事者において、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思で締結されたもので、期間の満了するごとに当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたと認められるか、ある程度の雇用継続が当事者において期待されていた場合には、解雇権濫用の法理が適用される場合があると解される(最高裁第一小法廷昭和四九年七月二二日判決・民集二八巻五号九二七頁、最高裁第一小法廷昭和六一年一二月四日判決・集民一四九号二〇九頁参照)。〔中略〕
 原被告間の契約は、第一契約締結後三回にわたり更新され、また、第二契約は第一契約に記載された更新期限をすぎた後更新されたものの、他方、第二契約及び第三契約においては契約期間満了直後又は直前に契約期間を明記した契約書が両当事者によって作成されていること、各契約書には、契約期間とともに一時的な契約であることや、使用者が契約更新の義務を負わないことが明記されていたこと、第四契約は第三契約終了から一か月以上経過し原告がいったんブラジルに帰国した後に新たに締結されたものであること、その従事する仕事は基幹的役職ではあるが契約書の文言どおり一時的な雇用と理解して当時の両当事者の状況と矛盾しないこと、原告主張の雇用継続を期待させる被告側発言はこれを認めるに足りないことが認められる。これらの事情を考慮すると、第一契約ないし第四契約は、当事者において、当然更新されるべき労働契約を締結する意思で締結されたものであるとも、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとも、ある程度の雇用継続の当事者において期待されていたとも認めるに足りず、解雇権濫用法理の適用される余地はないというべきである。