全 情 報

ID番号 08005
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 ダイオーズサービシーズ事件
争点
事案概要  クリーンケアサービス事業等を行っていたA1社(A2社とフランチャイズ契約を締結し、同社から商品の提供を受けていた)の社員であったYは、B社がクリーンサービス事業を含む事業部門を分離してX社に譲渡し、持株会社となったのに伴い、A1社を退職し、X社に入社し、埼玉県内においてルートマンとしてレンタル商品の配達、回収等の営業を担当したが、その後、X社に懲戒解雇され、解雇後まもなくA2社とフランチャイズ契約を結んでいるC商事とサブフランチャイズ契約を締結し、X社在職中に担当した顧客の中でもX社との取引単価の高い顧客を優先して訪問し、X社と同額程度の値段を提示して類似商品を扱うよう申し出てC商事とレンタル契約を獲得できるような行為等を行ったため、X社がYに対し、秘密保持義務又は競業避止義務に違反してC社の顧客行為を奪ったとして(Yは、在職中、X社の求めに応じ、退職後も、X社の業務に関わる重要な機密事項、特に「顧客の名簿及び取引内容に関わる事項」については一切他に漏らさないこと、退職後、二年間は在職時に担当したことのある営業地域・隣接地域(都道府県)に在する同業他社に就職をして、あるいは同地域にて同業の事業を起こして、X社の顧客に対して営業活動を行ったり、代替したりしないことといった内容を記載した誓約書を提出していた)、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求したケース。; 本件誓約書の定める退職後の秘密保持義務は合理性を有するものと認められ、また同誓約書に定める競業避止義務も、退職後の競業避止義務を定めるものとして合理的な制限の範囲に止まっていると認められるから、公序良俗に反せず無効とはいえないと解するのが相当であるとしたうえで、Yの本件行為は本件誓約書に定める競業避止義務違反という債務不履行に該当すると認めるのが相当であるとして、請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 競業避止義務
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 2002年8月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 21277 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例838号32頁/労経速報1821号3頁
審級関係
評釈論文 ・労政時報3560号52~53頁2002年11月1日/小畑史子・労働基準55巻4号22~27頁2003年4月/浅井隆・経営法曹138号18~30頁2003年10月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕
 本件誓約書に基づく合意は、原告に対する「就業期間中は勿論のこと、事情があって貴社を退職した後にも、貴社の業務に関わる重要な機密事項、特に『顧客の名簿及び取引内容に関わる事項』並びに『製品の製造過程、価格等に関わる事項』については一切他に漏らさないこと。」という秘密保持義務を被告に負担させるものである。
 このような退職後の秘密保持義務を広く容認するときは、労働者の職業選択又は営業の自由を不当に制限することになるけれども、使用者にとって営業秘密が重要な価値を有し、労働契約終了後も一定の範囲で営業秘密保持義務を存続させることが、労働契約関係を成立、維持させる上で不可欠の前提でもあるから、労働契約関係にある当事者において、労働契約終了後も一定の範囲で秘密保持義務を負担させる旨の合意は、その秘密の性質・範囲、価値、当事者(労働者)の退職前の地位に照らし、合理性が認められるときは、公序良俗に反せず無効とはいえないと解するのが相当である。〔中略〕
 このような退職後の競業避止義務は、秘密保護の必要性が当該労働者が秘密を開示する場合のみならず、これを使用する場合にも存することから、秘密保持義務を担保するものとして容認できる場合があるが、これを広く容認するときは、労働者の職業選択又は営業の自由を不当に制限することになるから、退職後の秘密保持義務が合理性を有することを前提として、期間、区域、職種、使用者の利益の程度、労働者の不利益の程度、労働者への代償の有無等の諸般の事情を総合して合理的な制限の範囲にとどまっていると認められるときは、その限りで、公序良俗に反せず無効とはいえないと解するのが相当である。〔中略〕
 原告は、本件誓約書の定める競業避止義務を被告が負担することに対する代償措置を講じていない。しかし、前記の事情に照らすと、本件誓約書の定める競業避止義務の負担による被告の職業選択・営業の自由を制限する程度はかなり小さいといえ、代償措置が講じられていないことのみで本件誓約書の定める競業避止義務の合理性が失われるということにはならないというべきである。
 これらの事情を総合すると、本件誓約書の定める競業避止義務は、退職後の競業避止義務を定めるものとして合理的な制限の範囲にとどまっていると認められるから、公序良俗に反せず無効とはいえないと解するのが相当である。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 原告は顧客奪取による損害を被ったのであるから、その損害額は、奪取された当該顧客との取引で得ていた利益を基本とすべきであるところ(原告主張の損害算定方法は必ずしも相当ではない。)、本件顧客についての4週売上高は合計28万9583円であること、また、一般的に、原告におけるマップ、モップ類のレンタル契約は1、2か月以上継続することがほとんどであり、1年以上継続されることも多いこと、一方、本件顧客の原告とのレンタル契約開始日が不明であること、レンタル契約維持の費用も相当程度かかること等の事情を考慮すると、本件行為により原告が失った利益を基本とする損害額は120万円であると認めるのが相当である。