全 情 報

ID番号 08046
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日本臓器製薬(本訴)事件
争点
事案概要 医薬品の輸入・製造・販売会社であるYの管理職であるXらが、管理職組合を結成しつつ、社長と対立して退職した元取締役に協力するための署名活動等を行ったところ、秩序紊乱行為などを理由として受けた懲戒解雇の効力を争い、労働契約上の地位の確認と未払賃金及び不法行為による損害賠償の支払を請求したケースにおいて、XらはいずれもYの要職の地位にあり、組織、秩序を維持すべき立場にあったにもかかわらず、安易に元取締役の策動に乗り、多数の者を巻き込んで、秩序を乱す行為を行ったものであり、その責任は大きく、またXらが結成した管理職組合が労働組合としての実態を有するとしても、署名活動は組合結成前に行われていたものであるうえ、懲戒解雇事由として重大なものであることからすると、懲戒解雇処分を不相当であるとすることはできないとして、Xらの請求を棄却(一部却下)した事例。
参照法条 労働基準法89条9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 2001年12月19日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 1413 
裁判結果 一部却下、一部棄却(控訴)
出典 労働判例824号53頁/労経速報1800号3頁
審級関係
評釈論文 渡辺章・ジュリスト1245号212~215頁2003年6月1日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 原告らの署名活動は、被告の経営陣の更迭を求め、Aの擁立を図る目的で行われたものであって、被告の4支店の範囲で、多数の社員を巻き込んで行われたものであり、被告の秩序を乱す行為ということができるから、原告らの行為は、就業規則79条3号に準じる行為であるといえ、同条15号に該当するということができる。
 原告らは、署名活動は新生ビジョンの賛同者を募っただけで、経営陣の更迭を求めたり、Aを擁立するものではなかったと主張し、原告らもこれに沿う供述をする。しかしながら、上記認定のように、原告らは、平成11年1月17日のBホテルにおける会合において、Aから、C社長がDにうつつを抜かして経営能力を失っており、今の経営陣では将来がないから、次回の株主総会で株主権を行使して経営陣を一新すると言われ、そのために、これを応援する社員の署名を集めてほしいとの要請を受け、これに賛同して署名活動を始めたもので、署名簿である連判状の冒頭には「人心を一新する」旨の記載がされ、署名活動の中で、原告X1においては、E、F、G、Hほかの社員に、原告X2においては、I、Jに、原告X3においては、Kに、いずれもC社長ないし現経営陣では被告の将来が危ない旨の話に加え、Aが乗り出すとか株主総会で社長になるなどと告げて、署名を求めているのであって、経営陣更迭とA擁立が署名活動の目的でなかったとは言い難い。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 原告らは、部下に署名を強要したものではなく、署名活動が秩序を乱すものではないといい、これに沿う供述をするが、経営陣の更迭を求める署名活動は、そのこと自体、組織に経営陣の支持不支持の派閥を作ったり、亀裂をもたらすおそれが強く、原告らの求めに応じて署名した社員においても、全く任意に賛成した者もあろうが、Aが社長となった場合を考えれば、署名を拒否できなかった者もあったはずで、強要したか否かを問わず、秩序を乱す行為といわなければならず、原告らの主張は採用できない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 5原告らは、懲戒解雇事由があるとしても、相当性を欠く旨主張するので、検討するに、原告らは、いずれも各支店の最高責任者である支店長という地位にあり、組織、秩序を維持すべき立場にあったにもかかわらず、安易に、Aの策動に乗り、多数の者を巻き込んで、秩序を乱す行為を行ったのであるから、原告らがAの元部下としてその心情からその意向に逆らい難い面があり、一方、被告を改革し、より良い企業環境を構築しようとの意図を有していたこと、署名活動によって被告に具体的な損害が生じたわけではないこと、原告らの被告におけるこれまでの長期間の勤務状況を考慮しても、その責任は大きく、懲戒解雇処分を不相当とすることはできない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 原告らは、原告X3及び同X2に対しては、懲戒委員会自体が開催されていない、原告X1及び同X4についても実質的な弁明の機会は与えられなかったから、懲戒解雇手続に瑕疵がある旨主張する。確かに、原告X3及び同X2に対して懲戒委員会が開催されたと認めるに足る証拠はないが、被告就業規則74条は「社員を懲戒する場合その必要に応じ懲戒委員会を設けて審査を行う。」と規定しているにとどまり(〈証拠略〉)、被懲戒者の事情聴取や意見陳述は懲戒解雇の要件とはされていないのであるから、同原告らに対する懲戒解雇手続に不備は認められない。また、他の原告についても同様である。