全 情 報

ID番号 08064
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 目黒電機製造事件
争点
事案概要 電気機器等の製造及び販売等を業とするYに総務課管理職として中途採用されたXが、営業課への配転命令に従わなかったことを理由としてとしてYから懲戒解雇がなされたところ、Xが、Yによる配転命令は職種を限定する労働契約に反するものであり、また業務上の必要性もなく、不当な動機・目的のためになされたものであって人事権の濫用であり、それに従わないことを理由とする懲戒解雇も無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位の確認とバックペイの支払を求めたケースにおいて、職種限定契約の成立は認められないが、本件配転命令は業務上の必要性を欠き権利の濫用として無効であって、これに服しないことを理由としてされた本件懲戒解雇も権利の濫用として無効であるとした事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
裁判年月日 2002年9月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 16358 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1826号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 配転命令は、業務上の必要性(当該人員配置を行なう必要性及びその変更に当該労働者をあてる必要性)が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転がほかの不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは当該従業員に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合は、権利の濫用として無効となると解するのが相当である。
 そして、ここでいう業務上の必要性とは、当該配転先への異動が余人をもっては容易に変え難いといった高度の必要性に限定されるものではなく、企業の合理的運営に寄与する点が認められれば足りる。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 原告は、いわゆる新卒の従業員の採用とは異なり、これまでの経歴や経験を重視されて、総務担当の管理職として中途採用されたのであるから、総務職以外の職種に就かせることは、たとえ本件労働契約で職種の限定がされていなかったにせよ、慎重であるべきであったし、また、被告代表者が「自分の言い分は全て正しいと言わんばかりに振る舞う人間」「社会性に欠ける点がしばしば見受けられる」と評する原告を営業課に配置することは、前記の営業重視という被告の方針と一貫性を欠いていることからすると、増員の必要のない部門に専門外の原告を配置する必要性ないし合理的根拠は極めて希薄であるといわざるを得ない。
 この点、営業課で業績を上げることを原告に期待したという被告代表者の供述があるが、本件配転命令の内示の段階で原告は本件配転命令を拒否することが明確に示されていたのであり、そのような状況で、なお前記のような期待を維持することはできなかったと認められるから、前記供述は、本件配転命令を強行して原告を営業課に配置する合理性を説明するには足りない。
 また、本件配転命令の内示の段階で原告が拒否したにもかかわらず本件配転命令を発することに固執したことについて、取締役会の決定を動かすことはできない旨の被告代表者の供述があるが、平成一二年四月の人事異動で対象者の同意が得られなかったために当初の発令を撤回した例があることからすると、前記供述は、原告の了承のないまま本件配転命令を発せざるを得なかった合理的理由を説明するには足りない。
 そもそも、これまでの勤務評価がAないしEの五段階評価のうち常に上位のB以上であった原告を、被告代表者が「自分の言い分は全て正しいと言わんばかりに振る舞う人間」「社会性に欠ける点がしばしば見受けられる」と評する理由は、結局のところ、本件配転命令の前提となる組織変更が決められた取締役会の直前に発生していたワイン事件での原告の対応が被告代表者の不興をかったことにあると認めるのが自然であること(ワイン事件について、原告に対し、始末書の提出を求めるばかりでなく、譴責処分にし、かつ誓約書の提出も求めるなど、被告の制裁が繰り返されていることは、たとえ被告代表者に対する反抗的言動に対する処分であったにせよ、過剰な対応であり、これが被告代表者の原告に対する評価を著しく下げる原因であったことを推認させるものである)をも踏まえると、本件配転命令が、自らの専門外の職種(しかも、本来、補充人員の必要のない部門)に強制的に就けさせることで、原告を退職に追い込もうとする意図のもとにされたのではないか、という疑いを払拭することができない。
 これらの事情を総合すると、本件配転命令は、原告を営業課に配置することが被告の合理的経営に寄与するということは必ずしもいえないから、業務上の必要性を欠くものであると認めるのが相当である。
したがって、本件配転命令は、権利の濫用であり無効である。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 本件配転命令が無効である以上、これに服しないことを理由としてされた本件懲戒解雇も、その前提を欠き、社会通念上相当として是認することができないものであって、権利の濫用として無効である。