全 情 報

ID番号 08085
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 サン・ファイン(サンファインテキスタイル)事件
争点
事案概要 各種繊維製品等の製造及び販売等を目的とする株式会社Yの関係会社Aに勤務していた原告Xらが、法人格否認の法理及び重畳的債務引受を理由として、退職一時金の支払いをYに求めたケースで、Y社とA社を同一視することはできず、また退職年金規約と年金信託契約書を併せても、Y及びその関係会社が相互に自社以外の従業員の退職金の支払義務を重畳的に引き受けたことの証拠となるということはできず、他に、これら連帯責任あるいは重畳的債務引受の事実を認めるに足りる的確な証拠はないとして、Xらの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法10条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 法人格否認の法理と親子会社
裁判年月日 2002年11月29日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 3807 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例846号75頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕
 以上認定の事実によれば、被告がA社を分社化の形で設立したのは、被告を再建する方策の一つとして、各部門の債務を被告に集中させた上、身軽になった各部門をそれぞれ分社化するという方法を採ったものであり、商法に会社分割の規定が置かれた平成12年以降であれば、会社の新設分割の方法によることができたものというべきであって、A社の設立について、被告に法人格を濫用する目的があったものと認めることはできない。
 また、前記認定事実に照らせば、被告とA社との間には企業グループを形成するものとして密接な関係があったことは認められるものの、被告の再建のためにあえて分社化という方法が採られたものであり、A社の事業執行に関し、一定の重要な事項について、Bグループ座長としてのCあての決裁の申請がされていたものの、Cは、A社の代表取締役でもあったから、Bグループ座長としてのCあての決裁の申請制度があったからといって、これにより、A社と被告が実質的に同一の法人格であったと認めるに足りるものではない。なお、A社が決裁を申請した文書に、Cの決裁印のみならず、被告取締役の決裁印も押されている事実があるが(〈証拠略〉)、前記認定のとおり、A社の申請規程では、同規程により申請された事項はすべて代表者が決裁するものとされており、被告取締役の決裁が必要とはされておらず、被告取締役の決裁印も押されていたという事実から、A社と被告が実質的に同一の法人格であったと認めるに足りるものではない。そして、従業員の賃金・賞与の決定等は、A社が独自に行い、経理・決算も被告とは明確に分離されていたものであって、被告とA社との間において、財産や取引・業務活動の混同があったとか、会計区分の欠如があったとか、あるいは、A社において、株主総会や取締役会の開催など、会社として遵守すべき重要な手続がとられていなかったなどの事実を認めるに足りる証拠はなく、A社の法人格が形骸化していたとまで認めることはできない。〔中略〕
 法人格否認の法理の適用により、被告には原告らに対する退職金支払義務があるとする原告らの主張は採用することができない。