全 情 報

ID番号 08108
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 昭和シェル石油(賃金差別)事件
争点
事案概要 石油類およびそれらの副産物の採掘、製造、売買、輸入等を目的とする株式会社Yを退職したXが、在職中、賃金について女性であることを理由に差別的な取り扱いを受けたとして、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償等を求めたケースで、男女間格差が労働基準法4条に違反する違法な賃金差別に当たることから、Yは、女性従業員である原告に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うとされて、Xの請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法4条
男女雇用機会均等法8条
男女雇用機会均等法6条
民法709条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 男女同一賃金、同一労働同一賃金
裁判年月日 2003年1月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 4336 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例846号10頁/第一法規A
審級関係
評釈論文 古田典子・季刊労働者の権利249号62~66頁2003年4月/中島通子・労働法学研究会報54巻11号1~35頁2003年7月1日/中内哲・労働法律旬報1563号36~39頁2003年11月10日/中野麻美・労働法律旬報1547号4~9頁2003年3月10日/木下武男・賃金と社会保障1342号4~6頁2003年3月25日
判決理由 〔労基法の基本原則-男女同一賃金、同一労働同一賃金〕
 原告と同学歴(高卒)・同年齢の男性社員との間で、A社当時、ランクの格付け、定期昇給額及びこれらを反映した本給額において著しい格差が存し、合併後も職能資格等級及びこれを反映した本給額等において著しい格差が存したこと、A社及び被告において、女性社員と男性社員との間で、A社におけるランクの格付け・同一ランクにおける定期昇給額・同一年齢における本給額において著しい格差が存し、合併時の職能資格等級の格付け及び被告における職能資格等級やその昇格、定昇評価ひいてはこれらを反映した本給額において著しい格差が存していたことは、1及び2において示したとおりである。このような場合、原告について、男性社員との間に格差を生じたことにつき合理的な理由が認められない限り、その格差は、男女間において存した上記格差と同質のものと推認され、また、この男女間格差を生じたことについて合理的な理由が認められない限り、その格差は性の違いによるものと推認するのが相当である。〔中略〕
〔労基法の基本原則-男女同一賃金、同一労働同一賃金〕
 均等法(昭和61年4月1日施行)8条は、「事業主は、労働者の配置及び昇進について、女子労働者に対して男子労働者と均等な取扱いをするように努めなければならない。」と定め、配置及び昇進に関する男女労働者の均等取扱いを使用者の努力義務としていたが、平成11年4月1日に施行された「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(改正均等法)6条は、「事業主は、労働者の配置、昇進及び教育訓練について、労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない。」と定め、配置及び昇進に関する男女労働者の平等取扱いを使用者の法的義務とした。
 被告は、これを根拠に、改正均等法施行以前においては配置、昇進の男女格差は、私法上、原則としてその違法が問題となることはないと主張するところ、改正前の均等法が上記のとおり配置及び昇進に関する男女労働者の均等取扱いを努力義務に止めたことの背景には、当時、多くの企業で終身雇用制を前提とした配置、昇進等の雇用管理が行われていたとともに、女子労働者の勤続年数が男子労働者に比べて短いという一般的状況が存したことは被告の指摘するとおりであり、違法性の判断を行うにあたっては、このような社会的状況を考慮すべきものではある。
 しかしながら、これまで認定及び判断したとおり、A社及び被告においては、管理部門等における一般事務に従事し、その業務内容が女性とさほど異ならない男性も相当数存在するが、これら男性と女性との間にも賃金等において格差があり、また、専ら男性が従事する現業部門の男性の賃金が事務部門の男性の賃金より高いとはいえないことからすると、賃金における男女格差は、従事する職の配置に由来するものとは認められない。さらに、A社及び被告においては、合併時の格付けも含め、事実上、男女別の昇格基準により昇格の運用管理を行っており、その結果、ランク又は職能資格等級の格付け、これに連動する定昇額や本給額等において著しい格差を生じているのであって、前記の社会的状況を考慮しても、A社及び被告における上記のような差別的取扱いが社会的に許容されるものとはいえず、行為の違法性は否定されないというべきである。〔中略〕
 被告の原告に対する賃金に関する男性との差別的取扱いは、故意又は過失による違法な行為として、不法行為となり、被告は、原告に対し、これによって原告に生じた損害を賠償する義務を負うというべきである。