全 情 報

ID番号 08122
事件名 減給処分取消請求事件
いわゆる事件名 東京都教育委員会事件
争点
事案概要 公立学校教員であるXが、校長Aからの職務命令に反して、さらには生徒に配布する印刷物については、管理職の許可を得るよう命ぜられたにもかかわらず無許可で、特定の保護者を誹謗した内容を記載したプリントを社会科の授業で配布した等により教育委員会Yによって減給処分を受けたことに対して、その取消しを求めたケースで、Xの行為は、信用失墜行為の禁止(地方公務員法33条)、上司の職務命令に従う義務(地方公務員法32条)にそれぞれ違反したものであり、また、原告のした信用失墜行為の内容、程度、職務命令違反の態様等を総合すれば、本件減給処分が裁量権を逸脱し、濫用したということはできないとして、Xの請求が棄却された事例。
参照法条 地方公務員法32条
地方公務員法33条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 2003年2月19日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (行ウ) 297 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1849号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
 本件プリントの「先生から生徒達へ」として、原告の考えを記載した部分(別紙略)は、「あなた達の親の一人が『X先生は、けしからん授業をしている』というような内容の電話を教育委員会に電話したようです。誰なのか分かりましたので電話しました」と書き出し、その保護者が基地プリントを使った原告の授業を問題にしているとしているから、名前は伏せているものの、基地プリントの配布を受けた二年生の生徒の特定の保護者を対象にして記述していることがその記載自体から認められる。また、同部分の記載は、本件保護者が原告の授業内容に関してC区教育委員会に電話をかけ、その後原告から本件保護者に電話をしたという事実経過にも触れているから、本件保護者にとっては、自分が記述の対象とされていることは明らかな文章であるといえる。
 そして、同部分の、その保護者について、「教育委員会に密告(若者スラングでいう『チクリ』)電話や密告ファックスを送るというクラーイ情熱やエネルギーには敬意を覚えます」とか、「親の自分の『思想』が、教師の『憲法に忠実な思想』と合わないからと、教師の教育内容に介入しようなど笑止千万な、あまりにも『アサハカな思い上がり』と言うべきです」とする記載内容は、その表現からして社会通念上許された範囲を超え、対象となった特定の保護者を侮辱し、誹謗するものである。
 したがって、本件プリントの「先生から生徒達へ」の前記部分は、その対象となった保護者の氏名を記載していないとしても、記述の対象となった特定の保護者を侮辱し、誹謗するものであり、教育公務員としてこのような内容の文章を授業中に生徒に配布することは、公務に対する信頼を損なうものとして、教育公務員としての職の信用を傷つけるとともに、その職全体の不名誉となる行為に当たるというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 地方公務員法三二条にいう「上司の職務上の命令」とは、権限ある上司から、当該職員等に対し、その職務に関して発せられた実行可能な命令を意味するものと解するのが相当であり、明示的に職務命令という言葉が用いられなくとも、このような命令であれば職務命令としての効力を有するものというべきである。
 A校長は、校長として校務をつかさどり、所属職員を監督する地位にあるから(学校教育法四〇条、二八条三項)、原告の上司に当たるし、A校長は、本件プリントを原告に示した上、「このプリントは個人攻撃になっており、生徒、保護者に大きな不信感を持たせたことになる。このプリントは教材にならない。教材にならないものを生徒に配ってはいけない。今後は印刷物を配るに当たっては、管理職に事前に見せるように」旨伝えた上、原告に対し、「教師には大きな義務が二つある。一つは法律を守ることであるし、一つには上司の命令に従うことである」等と説示し、「今後、印刷物を配布するに当たっては、校長である私の責任の持ち得ないものについては、配ることを認めません」と伝えたのであるから(1(7))、この指示は、上司の命令として、原告に対し、今後、管理職の許可を得ない印刷物の配布を禁じたものということができ、原告の職務に関して発せられた実行可能な命令であると認められる。したがって、前記指示は、職務命令という言葉は用いていないが、職務命令と認めるのが相当であり、本件職務命令一はあったということができる。
 原告は、これに違反し、本件プリント配布行為二をしたのであるから、これは地方公務員法三二条に違反したものである。