全 情 報

ID番号 08123
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 中央労基署長(大島町診療所)事件
争点
事案概要 診療所Aに勤務していたXが、Aにおいて労働基準法施行規則23条およびこれに関する通達の定める許可基準が満たされていないにもかかわらず、十分な調査を行わないまま、断続的な宿直又は日直勤務の許可をし、許可後も原告が再三にわたり調査を要求したにもかかわらず、十分な調査を行わず、許可を迅速に取り消さなかったことが、B労働基準監督署長の過失ある公権力の行使又は不行使に該当し、これによって精神的損害を被ったとして、国Yに対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償を求めたケースで、同署長に職務上尽くすべき注意義務に違反した過失があるとされ、Xの請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法41条3号
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 監視・断続労働
労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 宿日直
裁判年月日 2003年2月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 9734 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 時報1835号101頁/タイムズ1140号100頁/労働判例847号45頁/第一法規A
審級関係
評釈論文 ・労政時報3584号46~47頁2003年5月2日/梶川敦子・労働判例858号40~47頁2004年1月1日/鴨田哲郎・労働法律旬報1550号17~21頁2003年4月25日/三柴丈典・判例評論544〔判例時報1852〕195~201頁2004年6月1日
判決理由 〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-監視・断続労働〕
〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-宿日直〕
 本件診療所の宿日直時間帯における看護婦の勤務態様は、次のようなものであったと認められる。すなわち、〔1〕本件診療所の宿直勤務においては、1時間ないし3時間ごとに、1晩数回の定時巡回、及び定時の検温、検脈が行われていたこと、〔2〕平成9年4月から同年10月の間の17時15分から翌日8時30分までの宿直時間帯において、月平均約1.5人のペースで来院する外来患者に対し、投薬、切創縫合、消毒等の作業が、月平均約38回行われており、このような外来患者がそのまま点滴治療を受け、入院したケースも存したこと、〔3〕上記期間中、産科を除く入院患者に対し、一定以上の処置をした日数(同一の患者に複数の処置を行っても1日とカウントし、同日に2人の患者それぞれに処置を行った場合には2日とカウントする。)は、月平均約25日に及んだこと、〔4〕上記期間における産科入院延べ日数は、月平均で約10日以上であったこと、〔5〕平成9年4月1日から同年10月7日までの間における小児科の入院患者38名のうちのほぼ全員が点滴治療を受けていたこと、〔6〕産科の入院患者に対しても、点滴治療、マッサージ等が行われていたこと、〔7〕夜間の点滴の場合、通常二、三時間に1回は患者の観察に行くものとされていること、〔8〕平成9年4月から同年9月の間にこのような入院患者が概算で月の3分の2は存在し、月の半分は2人以上入院していたこと、〔9〕日直勤務においては、洗濯等の業務が加わっていたこと、〔10〕平成9年4月から同年9月の間の23時15分から翌日6時30分までの間に、6時間以上の仮眠がとれたと推定される日が10回であり、また、同時期において、1か月のうちで一定程度の処置がなされなかった日が1日ないし6日であり、処置回数が96回ないし359回であったこと、〔11〕本件申請以前において、夜間又は休日の勤務をし得る看護婦は五、六名であって、1名当たりの回数は、夜間勤務については平均週1回以上に及んでいたこと、〔12〕上記業務を、入院患者の付添いとして家族がいることが多いものの、基本的には、医師不在の中看護婦1名で行っていたことが認められる。これらの事実に照らせば、本件申請における宿日直員の勤務態様が「ほとんど労働をする必要がない勤務」であって「昼間と同態様の労働に従事することが稀」であったとは到底認められないし、点滴等の一定程度以上の作業については本来複数の看護婦でチェックするのが安全対策上望ましく、これを1人で定期的に行うことは精神的負担が大きいことを考えると、継続した睡眠が十分にとれる状態にはなかったと認められる。
 そして、前記認定事実に、証拠(原告)及び弁論の全趣旨を合わせると、〔1〕本件診療所における看護婦の宿日直時間帯における上記のような勤務の態様は、宿日直時間帯が勤務時間として取り扱われていた平成9年3月以前ころから本件申請のあった同年9月まで変化がないこと、〔2〕平成9年3月以前から本件申請のころまでの間、宿日直時間帯に本件診療所に来る患者数についても、入院患者数についても、特に変化がないこと、〔3〕C町は、本件申請に当たり、看護婦に対し、入院患者については検温するだけでよいなどといった、業務内容を変化させるような指示は一切出していないこと、〔4〕また、C町では、本件申請に対する許可がされたならば、本件診療所における看護婦の数を増員するとの計画もなかったことが認められ、これらの諸点からすると、C町は、本件申請に当たり、宿日直時間帯における看護婦の勤務態様について、本件申請に対する許可がなされた以降の勤務態様を、本件申請以前の勤務態様から改めることを予定していなかったことが認められる。
 したがって、本件申請は、申請段階において、申請に係る宿日直員の勤務態様が、法41条3号、施行規則23条及び通達352号などの定める本件許可基準を満たさないものであって、これを許可した本件許可は違法であるというべきである。〔中略〕
〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-監視・断続労働〕
〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-宿日直〕
 本件許可基準は、宿日直制度が労働時間法制の例外を認めるものとして厳格な判断のもとに行われるべきものとしているのであり、しかも本件診療所が公設の診療所であり、入院患者が存し、救急患者に対応することが予定された診療所であることは、本件申請書自体から明らかであって、このような入院患者の存する医療機関において、しかも医師が宿日直しない場合に、看護婦が本件許可基準の定めるような定時巡回、報告、少数要注意患者の定時検温等の、軽度又は短時間の業務に限られるとして宿日直許可をすることは数少ないのであるから、本件労基署長としては、本件診療所の宿日直時間帯における看護婦の勤務態様が本件許可基準の定める内容に合致するか否かについて、慎重に調査を尽くすべき職務上の注意義務があるというべきである。〔中略〕
〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-監視・断続労働〕
〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-宿日直〕
 本件労基署長を補佐して、本件申請を担当したB主任監督官は、本件申請の許否を判断するに当たり、本件診療所における宿日直時間帯における看護婦の勤務態様の調査に関し、看護婦からの事情聴取や看護日誌等の資料を検討するならば、本件診療所の看護婦の勤務実態が本件許可基準に合致しないものであることは容易に判明したにもかかわらず、基本的に、申請者であるC町の担当者から確認すれば十分であるとの態度で臨み、本件申請がなされる直前に本件労基署の労働基準監督官からC町長に対し本件診療所における労働基準法違反に対する本件是正勧告がなされた事実を認識しながら、同勧告が根拠とした資料を検討することなく、本件診療所においては、以前から看護婦による宿日直業務が実施されており、施行規則23条による許可を受けていなかったため本件申請に至ったとの認識で、C町の担当者からの説明や報告書の資料を検討することを中心とする前記のような調査内容にとどまり、看護婦からの事情聴取や看護日誌等の看護婦の勤務態様に関する客観性のある資料を検討することなく、漫然と、本件労基署長に対し本件申請につき許可の意見を上げたものであり、同主任監督官のこのような意見に対し、改めて調査等を命ずることなく、漫然と、これを採用した本件労基署長には、職務上尽くすべき注意義務を欠いた過失があると認められる。