全 情 報

ID番号 08129
事件名 懲戒免職処分取消請求事件
いわゆる事件名 茨木市消防本部職員事件
争点
事案概要  A市消防本部に採用され、同本部の通信指令室において救急指令業務を担当していたXが、指令室が無人になることを承知しながら、何の対策もとらずに無断で離席したことにより緊急通報に対応できなかったことは、消防員の基本姿勢を忘却した許しがたい行為で、市民からの信頼を著しく損ねるものであり、また、報告の懈怠や再々の虚偽の申述をするなど改悛の念がみられないとしてなされた、A市消防長YによるXに対する懲戒免職処分には、懲戒権濫用等の違法があるとして、その取消しを求めたケースで、裁判所による処分の適否の審査にあたっては「社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したと認められる場合に限り、違法」となると判断すべきであるとした上で、本件離席の重大性、その後の報告義務違反等からすると、任免その他の人事に関する事務を管理執行するYにおいて、懲戒事由に該当するXの行為の性質、態様、結果、影響等のほか、その前後におけるXの態度、懲戒処分歴等の諸事情を考慮した上で決定した本件懲戒免職処分が社会通念上著しく妥当性を欠くものとまでは言い難く、その裁量権の範囲を逸脱したものと判断することはできないとして、Xの請求が棄却された事例。
参照法条 地方公務員法29条1項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職場離脱
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
裁判年月日 2003年3月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (行ウ) 88 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例850号74頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕
 地方公務員につき地方公務員法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、平素から庁内の事情に通じ、職員の指揮監督を行なっている懲戒権者の裁量に任されており、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の前記行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を総合的に考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを、その裁量的判断によって決定することができるものと解すべきである。
 したがって、裁判所が前記処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職場離脱〕
 消防機関においては、火災や傷病者発生の通報を確実に受理すべきことが第一に最も基本的かつ重要な義務であることはいうまでもなく、そのため、A市においても、前記第2の1(3)のとおり、服務規程において、職員は休憩時間中であっても職場を離れるときは所属長の承認を受けなければならないとするとともに、特に通信勤務者においては、常に精神の緊張と視聴力の敏活を期し、沈着冷静かつ敏速を旨とし、交替者がなければ持ち場を離れないこととされている。
イ しかるに、前記第2の1の争いのない事実及び前記第3の1で認定した事実によれば、原告は、本件事件当時、指令室において緊急通報を受信すべき任務に就いていた両主査を監督すべき立場にありながら、洗顔や作戦室での緊急受理簿への入力のために続けて指令室を退室することを漫然と許し、指令室において自分一人が勤務する状態を作り出した以上、絶対に離席してはならないことはもちろんのこと、やむを得ず離席せざるを得ないときでも、両主査のいずれかに指令室に戻るように指示し、指令室に戻ったことを確認するか、あるいは、作戦室にいる両主査が緊急通報を確実に同室においても受信できるか確認した上で離席すべきことは当然であり、それが容易にできたにもかかわらず、何らの対策を講じないまま無断で離席したため、本件緊急通報に対応できなかったものである。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職場離脱〕
 本件は、原告が緊急通報が着信しているのに故意にそれを放置したという事案ではないというものの、本件離席後の緊急通報の受理態勢について何ら意を払うことなく、消防活動を開始すべき重要な部署である指令室を無人にした原告の行為は、それとほとんど差はないというべきであって、市民の生命、身体及び財産を守るべき消防職員としての最も基本的かつ重要な任務を放棄したものであり、原告が本件事件当時同じく指令室を離席していた職員を監督すべき立場にあったことをも併せ考慮すると、その職務懈怠は誠に重大であるといわなければならない。また、本件においては、本件緊急通報の対象となった本件児童の死亡と原告の行為との間に直接の因果関係が立証されているわけではないとはいうものの、原告の行為は、本件児童の救命活動に対して現実に障害を及ぼしたことは明らかであって、本件事件が前記のとおり大きく報道されたことによって、市民のA市消防本部等の消防活動に対する信頼を大きく失墜させたものというべきである。