全 情 報

ID番号 08137
事件名 地位確認等請求事件(2795号)、地位確認等請求事件(2260号)
いわゆる事件名 大森陸運ほか2社事件
争点
事案概要 貨物運送業等を営むY1の海上コンテナトラック運転者として従事していたXが、業績不振を理由とするY1解散により解雇された為、Xは、本件解散はY1の完全出資の親会社Y2による、Y1から労働組合の排除を唯一の目的として行った解散権濫用に該当する無効の解散であり、本件解散に基づく解雇も無効とし、Y1と親会社Y2に対し、労働契約上の地位確認と賃金の支払を請求(第一事件)、同時にY2と取引関係にあるY3に対し、営業譲渡による労働契約承継を理由に労働契約上の地位確認と賃金の支払等を請求、かつYらに対し共同不法行為を理由に損害賠償等を請求したケースで、争点〔1〕Y1解散の効力、〔2〕Y1解散に伴うXの解雇の効力、〔3〕Y1とY3と間の営業譲渡契約の成立の成否、〔4〕Y1に対するY2の法人格否認の可否、及び〔5〕Yらに共同不法行為が成立の成否(中心は争点〔1〕、〔2〕及び〔3〕)に対し、判旨は、〔1〕会社解散は、たとえ労働組合を排除するという不当な目的・動機で会社の解散決議がなされたとしてもその内容が法令に違反しない限り、その決議は有効と説示し、解散決議の内容に法令違反が窺われない本件解散は有効、〔2〕Y1は組合との労使協議にて、経営状況が厳しいことを説明し、賃金引下げや人員削減の提案が実現しなければY1の解散もあることを指摘する等し、本件解散に伴い従業員解雇の必要性があることの説明をしているのであるから、解雇の条件などの問題について、誠意を尽くして事前に労使協議を行うべき義務に反したとはいえないとして本件解雇は解雇権の濫用に該当しない、〔3〕Y1が所有・使用していた輸送用機材はY3ほか訴外A、B、Cなどにも譲渡されていること、またY1解散後、Y2がY3に運送業務を発注したことがないことから、Y1とY3間に営業譲渡契約が成立したとは推認することはできない(〔4〕、〔5〕については省略)等判示し、結論として、Xの請求を全て棄却した事例。
参照法条 日本国憲法22条
労働基準法89条3号
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 法人格否認の法理と親子会社
解雇(民事) / 解雇の自由
労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 営業譲渡
裁判年月日 2003年3月26日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 2795 
平成13年 (ワ) 2260 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例857号77頁/第一法規A
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇の自由〕
 憲法22条1項は、職業選択の自由の一環として企業廃止の自由を保障していると解されるのであって、企業の存続を強制することはできない。憲法28条が保障する団結権は、企業が存続することを前提とするものであって、企業廃止の自由を制約するものではないと解するのが相当である。また、会社の解散決議の内容が法令に違反していなくても、その目的、動機が不当である場合にこれを無効とする法的根拠は存しない。
 したがって、たとえ労働組合を排除するという不当な目的、動機で会社の解散決議がされたとしても、その内容が法令に違反しない限り、その決議は有効であるというべきである。
 そうすると、本件解散の決議の内容が法令に違反することが窺われない本件においては、本件解散は有効であるから、原告の上記主張は理由がない。
2 本件解雇の効力(争点(2))について
(1) 会社が解散した場合、会社を清算する必要があり、もはやその従業員の雇用を継続することはできないから、その従業員を解雇する必要性が認められ、その解雇は、客観的に合理的な理由を有するものとして、原則として有効であるというべきである。
 原告は、整理の必要性が存在しないと主張するが、結局、解散の必要性が存在しないというにすぎない。前記説示のとおり、企業廃止の自由が憲法上保障されているのであって、たとえ解散の必要性が存在しなくても、企業の廃止は妨げられないから、解散の必要性を論じる余地はないものというべきである。
〔労働契約-労働契約の承継-営業譲渡〕
 原告は、被告Y1が、その営業のうち、被告Y3に関わる営業をヘッド・シャーシや動産類の資産とともに同被告に譲渡するとともに、D取締役(海上コンテナの輸送に関わる業務一切の管理及び行政上の様々な申請等を行う。)・F交労とG合同労働組合の組合員を除くすべての運転手・E事務員の労働契約を同被告に承継させたものであり、かつ、本件解雇は無効であるから、上記営業譲渡によって原告と被告Y1との間の労働契約も被告Y3に承継されたと主張するところ、一般に、企業が労働組合を排除する目的で、その営業を他の企業に譲渡したうえ、解散して労働者全員を解雇し、営業を譲り受けた他の企業が労働組合の組合員以外の者を雇用して営業を継続するといういわゆる偽装解散の場合には、労働組合の組合員に対する解雇の意思表示を無効として、営業を継続する他の企業に労働契約上の責任を追及する余地がある。
〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕
 前記認定説示のとおり、被告Y1がF交労及びG合同労働組合との間で誠意を尽くして協議を行わなかったとはいえず、また、被告Y1と被告Y3との間で営業譲渡契約が成立したとはいえず、本件解散を偽装解散ということができない本件においては、本件解雇は有効であり、そうである以上、原告は、被告Y1の親会社である被告Y2に対し、法人格否認の法理(法人格の形骸化)により、労働契約上の責任を追及することはできないものというべきである。