全 情 報

ID番号 08146
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 南大阪マイホームサービス(急性心臓死損害賠償)事件
争点
事案概要 建物のリフォーム工事等を目的とする株式会社Y1で稼働していた亡Aの妻と子Xらが、AがY1での勤務中に発作を起こして急性心臓死したのは、Y1およびY1の代表取締役であるY2が安全配慮義務ないし注意義務に違反したためであるとして、〔1〕Y1に対しては、不法行為ないしは労働契約の債務不履行に基づき、〔2〕Y2に対しては商法266条ノ3ないし不法行為に基づき、損害の賠償を求めるとともに、〔3〕Y1に対して、労働契約に基づく未払の時間外割増賃金等の支払と労働基準法に基づく付加金の支払を求めたケースで、Aの従事してきたY1における過重な業務による精神的、肉体的な負荷や疲労の存在および蓄積が、Aの基礎疾患たる拡張型心筋症をその自然の経過を超えて増悪させて、急性心臓死に至ったものとして、Aの業務と死亡との間に相当因果関係が認められ、また、Y2にはAの業務の内容や量の低減の必要性およびその程度につき検討した上、Aの就労を適宜軽減して、Aの心身の健康を損なうことがないように注意すべき義務に違反した過失が認められるのであるから、Y2の過失とAの死亡との間に相当因果関係が認められるとして、Y2については、不法行為責任を負うとしつつ、取締役としての任務を懈怠し、Aに対する健康配慮義務違反があったとして商法266ノ3による責任も負うとして、Y1については、Y2の職務上の不法行為につき、商法261条3項、78条2項、民法44条1項による責任を負うことになり、また、Aとの労働契約に基づき、上記Y2の注意義務と同内容の安全配慮義務を負うから、債務不履行責任も負うといえるとした上で、A側にも拡張型心筋症の増悪を放置した過失があったこと、同症はAの体質的な素因であったことから、過失相殺の規定を適用ないし類推適用して、損害のうち5割を減額し、Xらの請求が〔1〕〔2〕について、一部認容され、〔3〕について、Aは、労働基準法41条における管理監督者に当たらないとして、認容された事例。
参照法条 民法415条
民法709条
民法44条1項
商法266条の3
商法261条3項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 2003年4月4日
裁判所名 大阪地堺支
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 1114 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 時報1835号138頁/労働判例854号64頁/第一法規A
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 前記のとおり、仕事による精神的、肉体的負荷や疲労は、拡張型心筋症を増悪させる因子であるところ、亡Aは、平成10年2月5日以降、ほぼ連日のように残業し、また、本来週に2日ずつある休日についても、結局その日数の半分は業務に従事しているなど、長時間にわたる労働を継続的に行っていること、拡張型心筋症の予後は悪いものではあるものの、本件健康診断当日ころ、B医師は、亡Aの心臓の変化は、同診断時点から余り遡ることなく近い時期に生じたものと判断しているところ、亡Aは、B医師による投薬等の治療を受けていたにもかかわらず、本件健康診断受診時点からわずか約10か月ほどで死亡してしまっていること、死亡に至る発作を起こしたのも、被告会社の本社における業務中のことであったこと、B医師に指導されて本件健康診断後にいったん減らしたたばこの本数が平成10年6月ころからは再び増加傾向にあったことや本件健康診断当時から肥満傾向が認められた亡Aの体重がさほど変わらなかったことは認められるものの、亡Aの病状を急激に悪化させるような他の要因は証拠上認められないこと等を総合的に考慮すると、亡Aの従事してきた被告会社における過重な業務による精神的、肉体的な負荷や疲労の存在及び蓄積が、亡Aの基礎疾患たる拡張型心筋症をその自然の経過を(ママ)越えて増悪させて、急性心臓死に至ったものと認めるのが相当である。そうだとすれば、亡Aの業務と死亡との間に相当因果関係が認められるというべきである。〔中略〕
 使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して当該労働者の基礎疾患を増悪させ、心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者の代表者は、その職務として、使用者の上記注意義務を誠実に遂行する必要があるものというべきである(最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1145頁参照)。
(3) そこで、被告Y2が上記注意義務を尽くしていたかどうかを検討するに、前記事実関係に鑑みれば、被告Y2は、遅くとも平成10年2月27日のC医師による保健指導実施時点までに、亡Aが心電図につき要医療との診断を受けていることを認識し得たし、また、亡Aの就労状況の実情についても知悉していたのであるから、被告Y2としては、亡Aの就労が過度に及んでいないかにつき、タイムカードの記載の確認や亡Aに対する直接の事情聴取などを行うほか、亡Aの健康を保持するために必要な措置につき医師から個別に意見を聴取するなどして必要な情報を収集し、亡Aの携わっている業務の内容や量の低減の必要性やその程度につき直ちに検討を開始した上、亡Aの就労を適宜軽減し、亡Aの基礎疾患(拡張型心筋症)の増悪を防止して、亡Aの心身の健康を損なうことがないように注意すべきであったということができる。
 しかるに、被告Y2は、D医師から上記意見を聴取することもなく、亡Aの業務の軽減の必要性について何ら検討すらせず、漫然と亡Aに前記のような過重な業務を課していたのであるから、被告Y2には、上記(2)の注意義務に違反した過失が認められるというべきである。〔中略〕
 被告Y2は、取締役としての任務を懈怠し、亡Aに対する健康配慮義務に違反したことにより、亡Aの死亡という結果を招いたというべきであるから、商法266条の3による責任も免れない。
(2) そして、被告Y2は、被告会社の代表取締役であるから、その職務上の不法行為につき、被告会社は、商法261条3項、78条2項、民法44条1項による責任を負うことになる。
 また、亡Aは、被告会社の従業員であったが、被告会社は、労働契約に基づき、従業員に対して前記と同様の安全配慮義務を負うものと解されるから、被告会社は、債務不履行(民法415条)による責任も負うということができる。