全 情 報

ID番号 08161
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 モーブッサン・ジャパン事件
争点
事案概要 宝石類等の輸出入、卸売及び小売等を営むYと、「XとYは、本件契約の期間中いつでも30日前の書面による予告の上、終了することができる。」等を内容とする6ヵ月の契約を締結していたフランス国籍を有するXが、Yから、平成11年11月18日に、同年12月18日をもって本件契約を終了する旨の書面による通知を受けたことに対し、Xが労働契約上の地位確認及び労働契約に基づく賃金支払等を請求したケースで、裁判所は、争点〔1〕本件契約の性質、〔2〕解雇の効力、〔3〕不法行為の成否及び損害額に対し、〔1〕労働者性を疑わせる事情はあるが、他方でXとYは指揮命令関係にあり、Xが個々の仕事に対して諾否の自由を有していたとはいえないこと、就業規則や労基法の適用対象とすることが予定されていたこと、専属性の程度が高かったこと等を総合すると、Xは、Yとの間の使用従属関係の下で労務を提供していたと認めるのが相当であり、本件契約は労働契約としての性質を有する、〔2〕本件解雇は、「已ムコトヲ得サル事由」(民法628条)に該当するとは認められず無効であり、YはXに対し本件契約の残存期間分について賃金の支払義務を負う、〔3〕本件解雇は、やむを得ない事由によるものとはいえず違法であり、Yには過失があるとして民法709条の不法行為責任を負うが、本件においては、労働契約に基づく本件契約の残存期間中について賃金の支払により損害は補填されるとして、別個に金銭の支払いにより慰謝すべき損害の発生を認めるまでの特段の事情は認められないとして、Xの請求を一部認容した事例。
参照法条 労働基準法2章
民法628条
民法623条
体系項目 労働契約(民事) / 成立
解雇(民事) / 解雇事由 / 已ムコトヲ得サル事由(民法628条)
裁判年月日 2003年4月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 18303 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例854号49頁/労経速報1841号12頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-成立〕
 本件契約は、原告が被告経営陣の定める指針に従って日本市場に関するマーケティング及び広報業務を監督し、これに協力することを内容とするものであり、原告が個々の仕事の依頼に対し諾否の自由を有していたり、職務遂行において裁量を有していたとはいえない。原告の職務は、マーケティング部門社員の監督、製品及びPVL、販売分析報告、倉庫及び流通業務、社員教育、イベント及び広報業務、メディアとの接触とされており、原告は、実際に、マーケティングや広報の業務を遂行し、これを被告代表者に報告するとともに、被告代表者から適宜業務の遂行方法について指示を受けていた。そうすると、原告と被告との間には、指揮監督関係があったということができる。〔中略〕
 被告は、就業時間、休日、服務規律などを定めた就業規則を作成しておらず、実際にも、原告は、被告から就業場所や就業時間の管理を受けていなかった。しかし、原告と被告との間に指揮監督関係が認められること、原告は被告に専属することとされており、他の業務につくことが予定されていなかったこと、東京事務所の開設や就業規則の作成が予定されていたことからすると、このような事実は、原告の労働者性を否定する要素になるとはいえない。
 エ 以上によれば、原告が社外の者という外形がとられていたこと、原告に対する報酬はマネージャー報酬として源泉徴収されていたこと、原告は労働時間の管理を受けていなかったことなど、労働者性を疑わせる事情があるが、他方で、原告と被告は指揮監督関係にあり、原告が個々の仕事に対して諾否の自由を有していたとはいえないこと、就業規則や労基法の適用対象とすることが予定されていたこと、専属性の程度が高かったことなどを総合すると、原告は、被告との間の使用従属関係のもとで労務を提供していたと認めるのが相当であり、本件契約は、労働契約としての性質を有するものと認められる。
〔解雇-解雇事由-已ムコトヲ得サル事由(民法628条)〕
 原告は、内容に誤りのある在庫表と販売予算を作成し、これを被告に提出したほか、通話料金の一部を不正に請求した事実が認められる。
 原告の作成した在庫表と販売予算は、いずれも多数の基本的な誤りがあり、その内容は一見してずさんである。しかし、原告が在庫表を作成した当時、まだYとAとの間において在庫商品の内容を確認する作業が継続しており、在庫商品の品名と数量が確定していなかったから、原告が作成した在庫表は、素案の域を出るものではなく、最終的なものであったとは認められない。また、原告は、Aから平成11年1月から同年9月までの各店舗の売上明細を入手していたが、通年分の売上実績を入手するのは平成12年1月までかかる予定であったこと、一般に、時計や宝飾品の売上げは時期による変動があり一定していないことからすると、原告が作成した販売予算は、被告代表者のマーケティングプランに対応したものではあるが、素案の域を出るものではなく、最終的なものであったとは認められない。被告代表者は、原告作成の在庫表と販売予算のうち誤った部分を手書きで書き込んだうえで、原告に誤りを指摘したと供述するが、被告代表者の供述によっても、いつ、どのような場で、どのようにして指摘したか、原告がその指摘を受けてどのように対応したかについてはあいまいであること、被告は、原告が在庫表と販売予算を提出した日の翌日に本件契約の解除通知を原告に送付しており(〈証拠略〉)、ほとんど時間的余裕がなかったことに照らし、採用することができない。証拠(〈証拠略〉)によれば、被告は、解除通知の送付のわずか10日後である平成11年11月28日のC新聞にマーケティング部長募集の求人広告を掲載したことが認められ、この事実によれば、被告は原告が在庫表や販売予算を提出するよりも以前に本件契約の解除を決定したと疑わざるを得ない。
 また、原告が被告に精算を求めた私用通話は、金額がさほど多額とはいえないうえ、原告は精算を受けていない。
 そうすると、原告が作成した在庫表と販売予算に多数の誤りがあったことや、通話料金の一部を不正に請求したことは、本件解雇を根拠づけるやむを得ない事由(民法628条)に当たるとは認められないから、本件解雇は無効である。