全 情 報

ID番号 08189
事件名 一時金支払請求事件事件
いわゆる事件名 秋保温泉タクシー事件
争点
事案概要 タクシー運送事業を行うYは、平成11年4月10日付けで統一要求による協定書が作成されたにもかかわらず(なお、この協定書には、一時金等について従来のように「現行どおりとする」旨の記載はなかったが、Yは、夏期一時金については、前年と同じ支給率でA労組組合員に支給していた)、平成11年7月2日、A労組に賃金体系の見直しの申し入れを行い、同年末の一時金については、成果配分としたい旨の提案等を行ったが合意には至らず、同年12月14日に至って、A労組に年末一時金を支給しないことを通告したことに対して、Yに雇用されているXら(A労組組合員)が、平成11年4月の団体交渉において、同年の年末一時金を支給する内容の労働協約が成立したとしてその一時金の支払いを求めたことにつき、〔1〕平成11年4月2日、「集団交渉に関する確認書」が作成され、集団交渉の議事は一時金を含む統一要求事項とするとされたこと、〔2〕経営者側から労働条件については現行どおりとしたいとの回答がなされ、組合代表がこれを承諾して、平成11年4月10日付けで統一要求による協定書が作成されたこと等を踏まえ、取締役とA労組委員長との合意によって、YとA労組を代理人としてXら(A労組組合員)との間に年末一時金を支給する内容の労働契約が成立していたとして、年末一時金の支給が認められた事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
労働組合法14条
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 協約の成立と賃金請求権
裁判年月日 2003年6月19日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 509 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例854号19頁/第一法規A
審級関係
評釈論文 名古道功・法律時報76巻8号111~114頁2004年7月
判決理由 〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 平成10年から協定書に「現行通り」とする旨の記載がないが、その理由は、平成10年にB社が集団交渉から離脱したこともあり、経営側から、全自交関係の労働組合や企業内労働組合との交渉の関係で、一時金を現行どおりとする文言を外すように要求され、労働側も、労使間に長年の信頼関係があったため、これに応じたためである。平成11年協定書においても、平成10年の記載方法が踏襲され、上記オのとおりの記載となった。
 また、平成11年協約書に4労組に対する各20万円の協力金について記載されなかったのは、労働組合法上疑義があることを考慮したためである。
 キ 平成11年4月24日、被告とC労組との個別交渉が行われ、被告から、会社経営が危機的状況にあることが伝えられた。これを受けて、同月28日、C労組側に自交総連宮城地連のD書記長が参加して交渉が行われ、E取締役が、会社の経営状況について説明した。同年6月19日には、被告が、賃金体系の改革を提示し、これについて協議することになったが、その後の協議は進展しなかった。
 ク 前記のとおり、被告は、C労組の組合員に対し、平成11年の夏期一時金を前年と同じ支給率で支給した。
 被告が、この夏期一時金の支給に当たり、労働協約の成立はないが、任意に支給する旨の説明をしたことをうかがわせる証拠はない。
 コ 平成11年の集団交渉に参加したF及びGは、いずれも平成11年協定書のとおりに平成11年の夏期一時金及び年末一時金を支給した。Hは、平成11年3月31日の団体交渉で基本的に合意していた内容に従い(ただし、書面化は平成11年6月23日(〈証拠略〉))、夏期一時金及び年末一時金を支給した。
 (2) 以上に認定の事実によれば、平成11年協定書の調印により、被告とC労組との間に、同年の夏期一時金及び年末一時金を現行どおり、すなわち年末一時金については基本給の2・12か月分支給する旨の合意が成立したと認めるべきである。
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
〔賃金-賃金請求権の発生-協約の成立と賃金請求権〕
 平成11年4月10日に成立した本件合意は、直接的には、労働協約としての賃金協定であるが、他面で、C労組組合員の個々人の雇用条件に直接関係する平成11年夏期一時金及び年末一時金という特定の事項についての合意であり、かつ、それまで10年以上の間(集団交渉参加後でも9年間)、支給率が一定で労使慣行化していた事項についての合意であるから、本件合意をしたE取締役とC労組委員長のAは、本件合意が被告とC労組との間の合意であるだけでなく、被告とC労組を代理人とする各原告(ただし、同日の時点までに被告に雇用されていなかった原告X2を除く。)との間の直接の合意(労働契約)であることを認識していたものと認めるべきである。そして、本訴において労働協約の書面化がないことを主張している被告が平成11年夏期一時金を支給したことも、上記合意(労働契約)の成立を裏付けるものである。
 なお、前記のとおり、平成11年協定書に具体的に合意内容を記載しなかったのは、他の労組との交渉への影響を懸念した経営側の都合によるものであるから、本件合意に労働契約としての面があることを認定することは、この点からも是認されるべきである。
 (イ) また、証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、C労組は、C労組の組合員である各原告(原告X2を除く。)から上記労働契約を締結する代理権を授与されていたことが認められる。
 (ウ) これに反する被告の主張及びこれに沿う証拠(〈証拠・人証略〉)は、採用することができない。
 (エ) なお、原告X2と被告の間に、本件合意を前提とし、又はこれを援用若しくは追認する黙示的合意が存したことを認めるに足りる証拠はない。
 ウ 以上によれば、平成11年4月10日、被告と各原告(原告X2を除く。)との間に、同年の一時金(年末一時金を含む。)を現行どおり支給する旨の合意(労働契約)が成立したと認めるべきである。
 よって、原告ら(原告X2を除く。)の請求は、前記前提事実のとおり、別紙一時金目録の「認容額」欄に掲げた一時金及び支給日の翌日である平成11年12月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。