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ID番号 : 08463
事件名 : 労働協約確認等請求、反訴請求控訴事件
いわゆる事件名 : 黒川乳業(労働協約解約)事件
争点 : 労働協約等を改訂した乳業会社に対し組合らが協約の効力、懲戒処分の効力等を争った事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 労働協約の解約と就業規則改訂により、懲戒処分や賃金減額を受けた組合、組合支部及び組合員らが、労働協約の効力確認、従前の就労条件が有効であることの確認、懲戒処分の無効確認及び損害賠償を請求し、会社側は反訴として組合事務所の明渡しを求めた事案である。
 第一審大阪地裁は、まず、(1)事務所貸与協約については、組合の会社に対する具体的権利義務を規定したもので、その効力のあることの確認を求める組合の訴えは確認の利益が認められ、適法であるとしながらも、結論は組合側の訴えをしりぞけ、(2)それ以外の労働条件の確認を求める訴えについては、原告らの主張する不利益はいまだ抽象的なものにとどまり、確認の利益が認められず不適法であると判示した。(3)しかし、病欠有給条項については訴えを認め、損害賠償も認めた。(4)組合事務所明渡しを求める会社側の反訴は認容した。
 これに対し第二審大阪高裁は、(1)を維持し、(2)を取り消して、労働協約の効力の確認についてそれが紛争解決に有効であることが明白で直截的であり、各条項などの効力の有無を確定しなければ今後の健全な労使関係を構築することも困難になるとして、確認の利益を認めた。
 そのうえで、個々の具体的な判断としては、組合事務所明渡しを否定して、事務所貸与解約を不法行為として慰謝料を認めた他は、すべて原判決と同様の認定をした。
参照法条 : 民事訴訟法134条
労働基準法89条
労働組合法15条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/労働契約と労働協約
労働時間(民事)/労働時間の概念/タイムカードと始終業時刻
女性労働者(民事)/産前産後/産前産後
就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/労働時間・休日
就業規則(民事)/就業規則の変更と協議条項/就業規則の変更と協議条項
懲戒・懲戒解雇/処分無効確認の訴え等/処分無効確認の訴え等
裁判年月日 : 2006年2月10日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ネ)1604
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(本訴)、棄却(反訴)(上告(反訴))
出典 : 労働判例924号124頁
審級関係 : 一審/08409/大阪地/平17. 4.27/平成14年(ワ)7503号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働契約と労働協約〕
 イ 上記〔1〕の事務所貸与協約等は、一審原告組合らの一審被告会社に対する具体的な権利義務を規定したものであり、それが現在も当事者間で効力を有するか否かを判断することによって、一審原告組合らと一審被告会社間の事務所貸与を巡る法律上の紛争を抜本的に解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために必要かつ適切であると認められる。
 したがって、事務所貸与協約等が効力を有することの確認を求める訴えは、確認の利益が認められ、適法というべきである。〔中略〕一審原告組合らと一審被告会社との間の本件各条項等のうちその余の本件各条項等が効力を有することの確認を求める訴えは、確認の利益が認められるから、適法であるといわなければならない。〔中略〕
 イ 原判決添付別紙2勤務表記載3(つわり休暇・産前産後休暇)、同記載5(社会保険料の負担割合)及び同記載6(賃上げ及び一時金支給における査定)のうち賃上げにおける査定に関する各労働条件についての前記訴えについては、前記一審原告らが前記第2の2(1)の一審原告らの主張イで主張する不利益は、いまだ抽象的なものにとどまり、現実に具体的な不安又は危険が発生しているとは認められないから、同一審原告らと一審被告会社との間において、具体的な紛争が存在しているとはいえず、これに関する労働条件の確認を求める訴えは、即時確定の利益を欠くというべきである。〔中略〕原判決添付別紙2勤務表記載2(生理休暇)に関する労働条件についての前記確認の訴えについては、一審原告B及び同Cと一審被告会社との間において具体的な紛争が生じるおそれは認められないから、これに関する同一審原告らの確認を求める訴えが即時確定の利益を欠くことは明らかである。
 したがって、以上の訴えは、確認の利益が認められず、不適法であるといわなければならない。
 ウ 他方、原判決添付別紙2勤務表記載1(病気による欠勤)、同記載2(生理休暇。ただし、一審原告Dに関するもの)、同記載4(遅刻について)及び同記載6(賃上げ及び一時金支給における査定)のうち一時金支給における査定に関する各労働条件についての前記訴えは、〔中略〕一審原告B、同C及び同Dと一審被告会社との間において、具体的な紛争が生じていると認められ、判決をもって法律関係等の存否を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位、危険を除去するために必要かつ適切であると認められる。
 したがって、前記労働条件の確認を求める訴えは、確認の利益が認められ、適法というべきである。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-処分無効確認の訴え等-処分無効確認の訴え等〕
 ア 本件各懲戒処分の無効確認を求める訴えは、過去の法律関係についての確認を求めるものであるが、過去の法律関係であっても、それを確定することが現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合には、その存否の確認を求める訴えは確認の利益があるものとして許容される。〔中略〕本件各懲戒処分の無効の確認を求める訴えの利益が認められるから、前記訴えは、適法というべきである。〔中略〕労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情が認められるというべきであるから、事務所貸与条項の解約は許されるというべきである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働契約と労働協約〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間・休日〕
 本件労働協約3のうち病欠有給条項のみの解約を認めることは、他方の当事者に同協約の締結当時に予想していなかった不利益を与えるというべきであるから、労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情は認められず、病欠有給条項の解約は許されないというべきである。〔中略〕労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情が認められるというべきであるから、生理休暇3日保障条項の解約は許されるというべきである。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働契約と労働協約〕
〔労働時間-労働時間の概念-タイムカードと始終業時刻〕
 休暇等による一時金不利益査定禁止条項は、一時金の査定について規定するものであり、遅刻30分容認条項は、遅刻について規定するものであるから、本件労働協約8のほかの条項とは、その内容自体独立したものと認められる。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働契約と労働協約〕
〔女性労働者-産前産後-産前産後〕
 労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情が認められるというべきであるから、前記各条項の解約は許されるというべきである。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働契約と労働協約〕
〔女性労働者-産前産後-産前産後〕
 (ア) 本件労働協約5は、前記のとおり、全2項からなり、第1項は年末一時金について、第2項はつわり産前産後休暇等母体保護について定めている。
 したがって、産前産後等有給等条項は、本件労働協約5のほかの条項とはその内容自体独立したものと認められる。〔中略〕
 (ウ) 以上によれば、労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情が認められるというべきであるから、前記条項の解約は許されるというべきである。〔中略〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間・休日〕
 前記就業規則の変更により個人一審原告らに生ずる不利益は、必ずしも大きいものということはできず、他方、一審被告会社としては、従業員の遅刻を防止する必要性があり、変更後の内容も相当性があるということができるので、一審原告組合らがこれに強く反対していることや一審被告会社と一審原告組合らとの協議が十分なものであったとはいい難いことなどを勘案しても、なお前記変更は、前記不利益を個人一審原告らに法的に受忍させることもやむを得ない程度の必要性のある合理的な内容のものであるというべきである。
 したがって、遅刻30分容認慣行を変更する旨の新就業規則は、個人一審原告らに対しても効力を生ずるものといわなければならない。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働契約と労働協約〕
〔労働時間-労働時間の概念-タイムカードと始終業時刻〕
〔女性労働者-産前産後-産前産後〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間・休日〕
〔就業規則-就業規則の変更と協議条項-就業規則の変更と協議条項〕
イ 本件訴えのうち、〔1〕一審原告B、一審原告C及び一審原告Dの、原判決添付別紙2勤務表記載3及び5の各労働条件並びに原判決添付別紙2勤務表記載6のうち賃上げに関する査定に関する労働条件について、現行勤務表欄記載の労働条件によってのみ就労の義務があり、変更勤務表欄記載の労働条件に従って就労する義務のないことの確認を求める訴え、〔2〕一審原告B及び一審原告Cの、原判決添付別紙2勤務表記載2の労働条件について、現行勤務表欄記載の労働条件によってのみ就労の義務があり、変更勤務表欄記載の労働条件に従って就労する義務のないことの確認を求める訴えは、いずれも不適法であるから却下する。
 ウ 本件訴えのうち、〔1〕一審原告B、一審原告C及び一審原告Dと一審被告会社との間で、同一審原告らが原判決添付別紙2勤務表記載1に関する労働条件について、現行勤務表欄記載の労働条件によってのみ就労の義務があり、変更勤務表欄記載の労働条件に従って就労する義務のないことの確認を求める請求は、理由があるから認容し、〔2〕一審原告B、一審原告C及び一審原告Dの一審被告会社に対する減額賃金相当額の損害金及びこれに対する遅延損害金の支払請求は、当審における請求拡張部分を含めて主文6ないし8項の限度で理由があるから、その限度で認容し、一審原告Eの請求は理由があるから認容する。
 エ 一審原告ら(ただし、一審原告Eを除く。)のその余の請求は、いずれも理由がないから棄却する。
 (2) 一審被告会社の反訴請求について
 一審被告会社の反訴請求は、いずれも理由がないから棄却する。