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ID番号 : 08482
事件名 : 雇用関係確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件
争点 : 銀行の派遣社員が、雇止めを違法・無効として、雇用関係存在確認、賃金支給等を請求した事案(労働者敗訴)
事案概要 : 13年余りにわたって同じ銀行支店に派遣され、この間派遣元会社との雇用契約を反復更新してきた社員に対する雇止めを違法・無効として、同社員が派遣元・派遣先両社に対し、雇用関係存在確認、賃金支給及び損害賠償を請求した事案の控訴審判決である。
 第一審松山地裁は、いわゆる「登録型派遣」においても、更新拒絶に解雇の法理が類推適用される場合があるとしながらも、本件では、同社員が雇用継続について強い期待を抱いていても、その期待に合理性がないから保護されず、同社員と派遣先会社との間で黙示の労働契約が成立したとは認められないとして、請求をいずれも棄却した。原告は控訴した。
 第二審高松高裁は、本件は派遣元会社と派遣先銀行との派遣契約の存在を前提とするものであり、同派遣契約が期間満了により終了したことは雇止めの合理的な理由に当たるとして、派遣元会社に対する雇用関係存在確認請求などについて棄却した。また、同社員と派遣先銀行との雇用契約関係存在確認請求も、雇用契約を締結する意思表示の合致があったと社会通念上評価できるに足りる特段の事情は存在しないとして原審と同様に棄却した。
 そして、損害賠償請求については、派遣先銀行の支店長が裏面に「不要では?」と書かれた付箋が付着した慰労金明細書を派遣社員に手渡した行為のみについて不法行為を認定し、慰謝料1万円の支払を認めたが、その余をすべて棄却した。
参照法条 : 労働基準法全般
労働者派遣事業の適正運営確保及び派遣労働者の就業条件整備法1条
民法715条1項
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/労働者/派遣労働者・社外工
労基法の基本原則(民事)/使用者/派遣先会社
労働契約(民事)/成立/成立
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
配転・出向・転籍・派遣/派遣/派遣
解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 : 2006年5月18日
裁判所名 : 高松高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成15(ネ)293
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(原判決一部変更)(上告)
出典 : 労働判例921号33頁
審級関係 : 一審/08172/松山地/平15. 5.22/平成12年(ワ)757号
評釈論文 : 本久洋一・法学セミナー52巻5号128頁2007年5月濱口桂一郎・ジュリスト1337号116~119頁2007年7月1日
判決理由 : 〔労基法の基本原則-労働者-派遣労働者・社外工〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔配転・出向・転籍・派遣-派遣-派遣〕
 (1) 常用型雇用契約か否か
 ア 前記認定事実(上記2(1)及び(2)で補正の上引用した原判決第5の1(1)のイ)によれば、昭和62年2月に控訴人とIBSとの間で締結された雇用契約は、問屋町支店への派遣が前提とされており、IBSと被控訴人伊予銀行との派遣契約期間と同様、同年5月末日までの期間の定めがあったことが認められる。そして、IBSが控訴人を採用したのは、控訴人が金融機関(愛媛信用金庫)に7年間勤務した経験を有していたからであると認められるところ、控訴人において、金融機関経験者の中でも特殊の経歴、技能を有していたとは認められず、IBSにおいても、控訴人の特殊な経歴、技能に着目して控訴人を派遣労働者として雇用したものとも認められない。また、IBSが、派遣先の決まらない待機期間中の休業手当支給義務(労働基準法26条)を負担してまで控訴人を常用の派遣労働者として雇用する意思を有していたとは考えられないことからすると、IBSとしては、問屋町支店への派遣期間中に限って控訴人を雇用する意思であったものと認められる。さらに、IBSのB社長は、控訴人を雇用する際、控訴人に対し、期間の定めなく雇用する旨の明示をしたとは認められず、かえって、控訴人とIBSは、契約期間の定めのある雇用契約書を作成し、IBSは、派遣社員就業条件明示書を控訴人に交付していたものと認められることからすると、控訴人とIBSとの間の雇用契約は、いわゆる登録型の雇用契約であったものと認めるのが相当である。
 そして、控訴人とIBSは、以後、平成元年6月1日まで、6か月の期間の定めのある雇用契約の更新をし、また、平成元年12月1日以降は、控訴人と被控訴人ISSとの間で、同様に6か月の期間の定めのある雇用契約を締結し、その更新を繰り返してきたものと認められる。〔中略〕
 (イ) しかしながら、控訴人の上記控訴理由もまた、原審における主張の繰り返しであると認められる上、控訴人と被控訴人ISSとの間の雇用契約の終了について、更新が反復継続されてきたからといって、解雇権濫用の法理が類推適用される場合に当たると認めることはできないことは、上記(1)及び(2)で補正の上引用した原判決第5の2(2)のイないしエ(36頁2行目から37頁11行目まで(62頁右段下から18行目~63頁左段下から10行目))説示のとおりである。
 仮に、控訴人と被控訴人ISSとの間の雇用契約の終了につき、解雇権濫用の法理が類推適用される場合に当たるとしても、当該労働契約の前提たる被控訴人ISSと被控訴人伊予銀行との間の派遣契約が期間満了により終了したとの事情は、当該雇用契約が終了となってもやむを得ないといえる合理的な理由に当たるというほかないことは、上記説示のとおりである。
 控訴人の上記控訴理由は、独自の見解に立って、原判決の事実認定及び法律判断を論難するものといわざるを得ない。
 (ウ) したがって、控訴人の上記控訴理由も理由がない。〔中略〕
〔労基法の基本原則-労働者-派遣労働者・社外工〕
〔労基法の基本原則-使用者-派遣先会社〕
〔労働契約-成立-成立〕
〔配転・出向・転籍・派遣-派遣-派遣〕
 (ア) はじめに
 派遣労働者と派遣先との間に黙示の雇用契約が成立したといえるためには、単に両者の間に事実上の使用従属関係があるというだけではなく、諸般の事情に照らして、派遣労働者が派遣先の指揮命令のもとに派遣先に労務を供給する意思を有し、これに関し、派遣先がその対価として派遣労働者に賃金を支払う意思が推認され、社会通念上、両者間で雇用契約を締結する意思表示の合致があったと評価できるに足りる特段の事情が存在することが必要である。〔中略〕
 以上の事実に照らすと、控訴人が被控訴人伊予銀行の指揮命令のもとに被控訴人伊予銀行に労務を供給する意思を有し、これに関し、被控訴人伊予銀行がその対価として控訴人に賃金を支払う意思が推認され、社会通念上、控訴人と被控訴人伊予銀行間で雇用契約を締結する意思表示の合致があったと評価できるに足りる特段の事情が存在したものとは、到底認めることができない。
 したがって、控訴人と被控訴人伊予銀行との間に黙示の雇用契約が成立したと認めることもできない。〔中略〕
 以上の次第で、被控訴人ISSは、派遣元として必要な人的物的組織を有し、適切な業務運営に努めており、独立した企業としての実体を有し、派遣労働者の採用や、派遣先、就業場所、派遣対象業務、派遣期間、賃金その他就業条件の決定、派遣労働者の雇用管理等について、被控訴人伊予銀行とは独立した法人として意思決定を行っており、被控訴人ISSは、被控訴人伊予銀行の第二人事部でもなければ、賃金支払代行機関でもない。
 したがって、被控訴人ISSの実体が被控訴人伊予銀行と一体と見られ、法人格否認の法理を適用しうる場合、若しくはそれに準ずるような場合とは認められないことが明らかであり、法人格否認の法理の適用ないしは準用により、控訴人と被控訴人伊予銀行との間に黙示の雇用契約が成立したと認めることもできない。〔中略〕
〔労基法の基本原則-使用者-派遣先会社〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 ア 当裁判所は、D支店長が付箋が付着した慰労金明細書を控訴人に渡した件について、被控訴人伊予銀行が控訴人に対し、慰謝料1万円及びその遅延損害金の支払義務を免れないが、控訴人のその余の損害賠償請求は、いずれも理由がないと判断する。〔中略〕
 このような事実経過のもとにおいて、慰労金明細書の裏面に「不要では?」と書かれた付箋が付着した同明細書を受け取った控訴人からすれば、自己が石井支店において不要な人物であると思われていると考えさせるに十分なものであって、控訴人に対し、大きな精神的苦痛を与えるものであることは容易に推認できるところである。そして、慰労金明細書の裏にこのような付箋が付着していたのに、これをそのまま控訴人に渡してしまったD支店長の行為はいかにも軽率であり、わざとしたものではないとしても、それだけで許される行為とはいい難く、このようなD支店長の行為は、あまりにも不注意な行為であって、社会的妥当性を欠く行為であったといわざるを得ない。
 そうだとすると、D支店長が上記のような慰労金明細書を控訴人に渡した行為は、過失によって社会的相当性を大きく逸脱した違法な行為をしたものというべきであり、不法行為を構成すると認めるのが相当である。
 そして、D支店長の上記行為は、被控訴人伊予銀行(石井支店)の職務としてなされたものであることが明らかであるから、被控訴人伊予銀行は、D支店長の上記不法行為につき、使用者責任(民法715条1項)を負うというべきである。〔中略〕
 ウ 以上のとおりであるから、控訴人の上記追加主張は理由がない。