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ID番号 : 08484
事件名 : 損害賠償、地位確認等請求控訴事件(487号)、同附帯控訴事件(1500号)
いわゆる事件名 : 昭和町(嘱託職員不再任)事件
争点 : 期限付き嘱託職員の再任拒否に至る町長の発言が正当な職務執行行為であったかどうかなどが争われた事案(一部労働者勝訴)
事案概要 : Y教育委員会に半年任期の嘱託職員として採用されていたX1、X2が、Y町とY町長に対して、町長が町長室や議会運営委員会及び議員協議会において行ったX1らを誹謗中傷する発言が両人の名誉を毀損し、また、合理的な理由なしに嘱託職員として再任用しなかったのは違法行為に当たるとして、慰謝料等の支払いと嘱託職員としての地位確認を求めた事案の控訴審判決である。
 第一審甲府地裁は、町長に対する請求は棄却したが、Y町に対する請求を一部認容、これに対しY町が控訴し、X1らは附帯控訴として地位確認等を求めた。
 第二審東京高裁は、議会運営委員会等での町長の発言について、地方公共団体の長は議会、委員会において事務執行に関して誠実に説明する義務を負っており、故意又は過失により事実に反する説明をした場合は職務執行行為として違法であり、その発言が他人の名誉を毀損したときは不法行為に基づく損害賠償責任が生ずることも否定できないとした。また、再任希望者を不再任とすることについては合理的な理由を必要とするところ、合理的な理由なしに再任しなかったことは人格的利益を侵害したとして慰謝料の支払を命じた。なお、地位確認請求については理由がないとして棄却した。
参照法条 : 国家賠償法1条1項
民法709条
地方自治法138条の2
地方自治法98条1項
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/労働者/嘱託
労基法の基本原則(民事)/国に対する損害賠償請求/国に対する損害賠償請求
解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 : 2006年5月25日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ネ)487
裁判結果 : 原判決一部変更、一部棄却(上告、上告受理申立て)
出典 : 東高民時報57巻1~12号5頁/労働判例919号22頁
審級関係 : 一審/甲府地/平17.12.27/平成15年(ワ)300号
評釈論文 : 斎藤周・平成18年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1332〕223~225頁2007年4月
判決理由 : 〔労基法の基本原則-国に対する損害賠償請求-国に対する損害賠償請求〕
 当裁判所も、前記引用に係る原判決の認定事実(前記訂正部分を含む。)の下では、被控訴人らの名誉毀損を理由とする国家賠償請求は、各被控訴人につきそれぞれ30万円及びこれに対する平成16年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれらを認容すべきであるが、その余は理由がないから棄却すべきであると判断する。〔中略〕
 これらの規定が示すとおり、普通地方公共団体の長は誠実に当該普通地方公共団体の事務を執行しなければならず、その事務の執行が事実に基づいて適正にされているかどうかは議会による検査の対象となることに照らせば、普通地方公共団体の長が上記のとおり職務を執行するに当たって必要とされる普通地方公共団体の長自らの判断は事実に基づくものでなければならず、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等によりその判断が全く事実の基礎を欠く場合には、そのような判断に基づく職務執行行為は違法となるというべきである。そして、上記の地方自治法第138条の2及び同法第98条第1項の趣旨に照らすと、普通地方公共団体の長は、議会、委員会において当該普通地方公共団体の事務の執行に関して誠実に説明すべき義務を負っていることはいうまでもなく、この説明をするに当たっては、事実に基づいてこれを行わなければならず、故意又は過失により事実に反する説明をした場合には、当該普通地方公共団体の事務の執行に関して説明責任を果たしたということはできないのみならず、そのような説明をすることは、普通地方公共団体の長の職務執行行為として違法となるといわざるを得ない。したがって、普通地方公共団体の長が、上記の説明の過程で行った発言により他人の名誉を毀損するに至ったときは、当該行為が国家賠償法上違法となることも否定することができないものというべきである。〔中略〕
 しかしながら、地方自治法第138条の2及び同法第98条第1項の趣旨からすると、普通地方公共団体の長は、議会、委員会において当該普通地方公共団体の事務の執行に関して誠実に説明すべき義務を負っているのであり、この説明をするに当たっては、事実に基づいてこれを行わなければならず、故意又は過失により事実に反する説明をした場合には、当該普通地方公共団体の事務の執行に関して説明責任を果たしたということはできないのみならず、そのような説明をすることは、普通地方公共団体の長の職務執行行為として違法となるといわざるを得ず、したがって、普通地方公共団体の長が上記の説明の過程で行った発言により他人の名誉を毀損するに至ったときは、これにより不法行為に基づく損害賠償責任が生ずることも否定することができないことは前記のとおりであり、このことは、上記第三小法廷判決が指摘するその質疑等について広範な裁量権を有する国会議員又は地方公共団体の議会の議員の場合と異なるといわざるを得ない。したがって、控訴人の前記主張は採用することができない。〔中略〕
〔労基法の基本原則-労働者-嘱託〕
〔労基法の基本原則-国に対する損害賠償請求-国に対する損害賠償請求〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 このように、任用期間の満了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることができない場合であっても、任命権者が自らの言動によって当該嘱託員に任用期間満了後も任用が継続されるとの誤った期待を持たせるような特別の事情がある場合には、この期待を裏切る行為が国家賠償法上違法となると解する余地があることにかんがみれば、当該地方公共団体において上記嘱託員を再任用しないことについて合理的理由がない限り再任用するという運用が行われていた場合には、上記嘱託員は、任用期間の満了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできないとはいえ、少なくとも、合理的理由なしに再任用について差別的な取扱いを受けないという人格的利益を有していたものと見るべき特別の事情があるということができる。したがって、上記の運用が行われていた場合において、任命権者が再任用を希望していた当該嘱託員につき合理的理由がないのに差別的な取扱いを行って再任用をしなかったときには、当該行為は、当該嘱託員の上記のような人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となると解するのが相当である。そして、当該地方公共団体において、上記嘱託員の職を維持すべき客観的な必要性があり、かつ、従来再任用を希望した嘱託員については特段の事情がない限りその者を再任用するという運用が行われていたという場合にあっては、当該地方公共団体においては上記嘱託員を再任用しないことについて合理的理由がない限り再任用するという運用が行われていたものということができるから、任命権者が上記嘱託員を再任用しないこととするについては合理的な理由を必要とするのであり、合理的な理由がないにもかかわらず、任命権者が再任用を希望していた当該嘱託員につき差別的な取扱いを行って再任用をしなかったときには、当該嘱託員の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となると解するのが相当である。〔中略〕
 上記認定事実によれば、控訴人の嘱託職員である被控訴人らは、本件辞令の発令当時、再任用されることについて権利ないし法的利益を有していたわけではないが、合理的理由がないのに再任用について差別的な取扱いを受けないという人格的利益を有していたものというべきであるから、任命権者が合理的理由がないのに再任用について差別的な取扱いを行った場合は、再任を希望していたにもかかわらず再任されなかった嘱託職員の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となると解するのが相当である。
 そして、上記人格的利益は、地方公共団体の嘱託職員が、本来権利ないし法的利益を有していたわけではない再任用について、合理的理由のない差別的な取扱いを受けないという観点から法的保護に値することが肯定されるものであること、丙川の名誉毀損行為による損害については別途控訴人に対して賠償請求がされて認容されること、その他本件辞令の交付に至る経緯について認められる前記引用に係る原判決の認定事実に顕れた一切の事情を総合勘案すると、上記人格的利益が侵害されたことにより各被控訴人が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては、各被控訴人につきそれぞれ60万円をもって相当とするというべきである。〔中略〕
〔労基法の基本原則-労働者-嘱託〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 前記引用に係る原判決の認定事実によれば、被控訴人らの控訴人の嘱託職員としての任用期間は平成15年3月31日をもって満了しており、その後被控訴人らが控訴人の嘱託職員として任用されたことを認めるに足りる証拠はないから、被控訴人らの地位確認請求は理由がなく、これを棄却すべきである。
 したがって、被控訴人らの地位確認請求を棄却した原判決は相当であり、本件各附帯控訴のうち地位確認請求に係る部分は棄却すべきである。