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ID番号 : 08485
事件名 : 賃金請求事件
いわゆる事件名 : 岡部製作所事件
争点 : 営業開発部長に対する賃金減額の正当性、管理監督者としての該当性及び時間外賃金の支払義務の有無等が争われた事案(使用者敗訴)
事案概要 : Y社青梅工場の営業開発部長の職にあったXが、Yから一定期間、一方的に賃金の減額を受け、また、休日出勤に対してそれに見合う割増賃金等が支払われていないとして、請求期間中の減額前の賃金との差額及び同期間中の休日出勤による時間外割増賃金を、付加金とともに請求した事案である。
 東京地裁は、賃金の減額について、Yは問責を理由とする給与減額に対する法的あるいは就業規則等の規定上の根拠を示しておらず、経営状況を理由とする場合も、経営上必要であったこと及び原告を除く他の従業員全員が同意・了承していたとするのみで、その同意・了承も証拠上確認のすべが示されていないとして、減額前賃金との差額の支払いを命じた。また、Xは部長という肩書を持ち、管理職手当の支給等の管理職としての待遇を受けてはいたが、常時管理する部下がいるわけでなく、専門職的立場であったことなど、実際の就労事情からすると、労働基準法41条2号の管理監督者には該当しないとして、休日出勤に対する未払い賃金及び法定休日残業分の付加金等の支払いをYに命じた。
参照法条 : 労働基準法41条2項
労働基準法10条
労働基準法37条
労働基準法89条
労働基準法施行規則21条
体系項目 : 賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
賃金(民事)/割増賃金/割増賃金の算定基礎・各種手当
労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/管理監督者
就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/賃金・賞与
裁判年月日 : 2006年5月26日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)7960
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(確定)
出典 : 労働判例918号5頁
審級関係 :  
評釈論文 : 水町勇一郎・ジュリスト1338号217~219頁2007年7月15日
判決理由 : 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
 平成14年10月25日支給分である同年10月分の給与以降、被告が減額支給した原告の給与は、いずれも原告の同意なしに減額支給されていることが認められる。〔中略〕
 前記認定事実(1)のような減額経緯からすると、まず、業務上の問責を理由とするが被告による原告の給与に対する減額の法的あるいは就業規則などの規定上の根拠が示されていないものといわなければならないこと、次に、被告の青梅工場の経営状況を理由とした場合にも、原告の給与減額は会社である被告との労働契約内容の変更であるから被告が一方的に労働条件を変更することのできる根拠が示されなければならないところ、被告が主張するのは上記経営上必要であったこと及び原告を除く他の従業員が役員を含めて全て同意・了承していることのみである。
 ところで、原告以外の者の全員が同意・了承していたかどうかは証拠上確認のすべが示されておらず、そもそも就業規則の変更なり原告も含めた労働者の過半数を代表する者の同意といった個別労働条件の変更以外の集団的な労働条件変更法理による一般的拘束力を説いているわけでもないことからすると、被告による原告の給与を減額することについての法的根拠を被告は有効に示すことがやはりできていないものと言わなければならない。
 それゆえ、被告の経営事情による合理性や原告における信義則の検討を詳細にするまでもなく、被告の主張には理由がないものというべきである。
 したがって、平成14年10月分から平成15年3月分までの6か月間にわたる1月当たり9万4000円による合計で56万4000円の給与減額及び平成15年4月分から請求にかかる平成17年3月分までの24か月間にわたる1月当たり4万7000円による合計で112万8000円の各給与減額はいずれも無効であり、原告は被告に対して上記合計169万2000円の未払賃金支払請求権を有する。
〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕
 被告における原告の地位・立場に照らした実際の就労事情からすると、原告の被告への経営参画状況は極めて限定的であること、常時部下がいて当該部下の人事権なり管理権を掌握しているわけでもなく、人事労務の決定権を有せず、むしろ、量的にはともかく質的には原告の職務は原告が被告社内で養ってきた知識、経験及び人脈等を動員して一人でやり繰りする専門職的な色彩の強い業務であることが窺われること、勤務時間も実際上は一般の従業員に近い勤務をしており、原告が自由に決定できるものではないことなどが認められる。
 確かに、原告は被告の青梅工場の営業開発部(その後は技術開発部)の部長という肩書きを持ち、社内で管理職としての待遇を受け、役付手当として月11万円の支給を受けていることは認められるものの、これらをもってしては、未だ、労基法41条2号のいわゆる管理監督者に該当するとして労働時間に関する規定の適用除外者とまでは認めることができない。
 他に本件証拠上、原告につき管理監督者と認めるに足りる有効なものは見当たらない。
 それゆえ、原告につき労基法上の休日割増賃金支給の対象には当たらないとする被告の主張は採用できない。
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 原告主張の別表からこれらを除いたものが原告が法定休日及び被告の所定休日に出勤した期日であると認められ、前記認定事実(3)の末尾で認定した別紙認定期日のとおりとなる。
 そして、証拠上原告が上記期日に何時から何時まで勤務したかを確実に認め得るようなタイムカードなり日報等の自己申告書あるいは勤務時間管理簿などが見当たらないものの、原告の供述(〈証拠略〉及び原告本人尋問)を総合すると、上記期間中の休日出勤日には、平日とほぼ同様に出勤して仕事をしており、平均して1日当たり少なくとも6時間は労働していたものと認めるのが相当である。〔中略〕同条5項で課長代理職以上の者について時間外勤務手当を支給しないとしていることや、休日出勤手当については別途管理者休日出勤手当で一律1日につき1万円を支給することにしていることからすると(当該規定が原告に対する関係では上記に判断したとおり労基法の休日の割増賃金支払義務に違反することから効力が否定されることは別にして)、8条2項が直ちに原告に適用されるものと解することはできない。
 また、法定休日以外の被告における所定休日に原告が出勤した場合の賃金についても、原告は給与規定の8条2項が適用されることを前提にしているが、やはり同様の趣旨から、これを否定するべきであり、原告については、労基法上の規定に照らした本来的な賃金が支払われるべきことになる。
 そこで、諸手当のうち甲第3号証の被告から原告に対して交付されている給与明細書を参照し、労基法施行規則21条の除外賃金の趣旨から通常の労働時間の賃金として支給されるものかどうかという実質によって判断すると、給与規程(〈証拠略〉)にある昼食手当は出勤日数1日につき200円を支払うことになっていることからこれは基礎賃金に含めて考えるべきであるものの、管理職手当は時間外残業代に代わるものとして支給されている意味合いもあると考えられること、住居手当は前記認定事実(4)によれば、妻帯者の世帯主とそれ以外の者とで金額を区別して定額支給としており、会社の支給計算上の便宜をも考え併せると、必ずしも原告が主張するように実費に近い形やきめ細かい基準を立てていなくとも社宅や寮にではなく住居を有している者には上記基準にしたがって住居手当を支給することには一定の合理性が認められること、同様に家族手当も扶養する家族数に従って金額が取り決められていることからいずれも割増賃金算定の基礎となる賃金から除外される賃金と考えるべきである。〔中略〕
 なお、被告が残業代を含むものとして月額11万円の管理職手当を支給していることからすると、原告による上記休日出勤もこの手当である程度折り込み済みであると考える余地もあるものの、むしろ、被告の給与規定(〈証拠略〉)がこれとは別に管理者休日出勤手当を別途定めている以上、原告の休日出勤による未払賃金は管理職手当とは切り離して考えるべきである。
 6 これまでに認定判断したところからすると、上記単価に法定休日出勤分は3割5分増の賃金による出勤日数を乗じて、それ以外の休日出勤分には法内出勤で平均6時間で一日当たりの所定労働時間を超えるものではないから割増賃金は発生しないと考える。
 他方、被告の認否及び平成15年度分以降の甲第3号証の給与明細における「管理者休日」欄の支給金額からすると、別紙認定期日の休日出勤手当既払金欄のとおり平成14年度(10月分以降)は被告から1回当たり1万円の管理者休日出勤手当が、法定休日には平成15年1月19日に1回、それ以外の休日分として9回、平成15年度は同様に法定休日分に3回、それ以外の休日分として13回、平成16年度は同様に法定休日分に1回、それ以外の休日分として16回(10/16、11/6の分はカレンダーによると休日となっていないので除いた)、それぞれ各1万円ずつ支給されていると考えられるので、これを既払金として控除することとする。