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ID番号 : 08506
事件名 : 退職金請求事件
いわゆる事件名 :
争点 : 退職金から退職後の業務受託による収入を控除したのは不当利得であると返還請求をした事案(労働者敗訴)
事案概要 : 退職後に勤務先(運送会社)から軽四路線便業務を受託することを前提に希望退職したものの、その後当該業務が廃止され収入を失った元労働者が、退職時に支給された退職金(特別加算額)が当該業務の受託により得られる収入を控除したものであったから、収入喪失分は勤務先の不当利得であるとの理由で、利得金返還請求をした事案である。
 甲府地裁は、特別加算額算出のための計算式は退職時を基準とした一定の構成要素に基づいて妥当な退職金の加算を算出しようとしたものに過ぎず、退職後の当該業務従事期間などの変動に応じて計算のやり直しを予定したものではないとして、請求を棄却した。
参照法条 : 民法703条
体系項目 : 賃金(民事)/退職金/退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 : 2006年9月19日
裁判所名 : 甲府地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)355
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : タイムズ1229号269頁
審級関係 :  
評釈論文 :
判決理由 : 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 1 原告の主張は、要するに、原告に支払われた退職金のうち、特別加算額は、その算定の過程で、原告が65歳までに得られる軽四便業務の報酬が控除されているのであるから、軽四便業務が廃止され、これに付随する原告の報酬が失われた場合は、被告が原告に対して支払うべきとされた退職金の金額も変動するはずであり、被告は、原告が失った収入分に相当する利益を受けているといえるから、公平の理念に基づき、被告は原告に上記利益を不当利得として返還すべきというものである。
 2 そこで検討するに、原告に支給された特別加算額は、上記前提となる事実(4)イのとおり、原告が被告に定年まで継続して勤務した場合に見込まれる給与収入や定年退職金から、希望退職の条件とされた軽四便業務の受託により将来得られる見込みの収入などを控除するという計算方法で算出されている。
 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によると、特別加算額は、そもそも、被告の業務変更に伴う人員削減の必要性から募集された希望退職者に対し、被告と全逓信労働組合との労使間の合意により退職金を加算するものとして支給されたと認められるところ、本件覚書及び本件要領によって定められた計算式は、希望退職者の退職時を基準とした一定の構成要素に基づき、退職者毎に一義的な金額を導こうとするものである。ここで構成要素とされた各事項は、将来にわたって変動が予定されないものではなく、状況や事情に応じて当然に変動の生じ得る性質のものであったことは明らかであり、これは原告がその控除を問題とする将来にわたる軽四便業務収入のみでなく、原告が退職後も被告において勤務したと想定した場合の給与収入見込額や定年退職金見込額についても同様である。実際にも、原告が合意成立以降に受け取った軽四便業務委託料は、合意当時に基準とされた19万7200円よりも増額されていたことが認められるし(乙2の4頁によれば、31万0300円。)、一方、原告の退職後、被告における被雇用者の給料体系や退職金支給規程には変更があったことが認められる(弁論の全趣旨)。
 上記のような特別加算額の性質や当時の合意内容に照らせば、特別加算額算出のための計算式は、退職時を基準とした一定の構成要素に基づいて、妥当な退職金の加算を算出しようとしたものにすぎず、退職後の実収入や軽四便業務への従事期間の変動に応じて、計算のやり直しを行うことが予定されていたものとは認め難い。
 原告は、軽四便業務の廃止によって失った原告の収入分について、被告が法律上の原因なく利益を受けた旨主張するが、これは特別加算額の計算式を自らに有利に曲解したものといわざるを得ず、軽四便業務の廃止によって、原告の収入喪失分につき被告が利益を受けたとか、財産的価値の移動があったとは到底認められない。
 3 以上のとおり、原告の主張は理由がないから棄却すべきである。よって、主文のとおり判決する。