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ID番号 : 08524
事件名 : 年金支払請求控訴事件
いわゆる事件名 : 松下電器産業(年金減額)事件
争点 : 電気機器会社の退職者が、年金の給付減額を違法無効として差額の支払を求めた事案(原告敗訴)
事案概要 : 電気機器製造会社及びそのグループ会社の退職者が、会社の運用する年金制度において、業績低迷の対応策として給付利率を下げて支給したことは年金契約に違反し違法無効であるとして差額の支払を求めた事案である。
 第一審の大津地裁は、請求を棄却したため、原告らは控訴した。
 控訴審の大阪高裁は、年金支給に関する規程は、制度内容の改廃を定めた部分も含めて契約の内容となっていること、本件改廃規程が定める経済情勢、社会保障制度に大幅な変動が存すること、利率改定内容の必要性、相当性が認められ、改定に関する説明会で同意が得られており、反対意見があったり会社側の担当者の対応に問題のあったことは事実としても、会社側の手続全体に問題があったとまではいえない、として第一審の判断を維持した。
参照法条 : 民法703条
民法656条
体系項目 : 賃金(民事)/退職金/退職年金
賃金(民事)/賃金・退職年金と争訟/賃金・退職年金と争訟
裁判年月日 : 2006年11月28日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ネ)151
裁判結果 : 控訴棄却(上告)
出典 : 時報1973号75頁/タイムズ1228号182頁/労働判例930号13頁
審級関係 : 一審/大津地/平16.12. 6/平成15年(ワ)239号
評釈論文 : 根本到・労働法律旬報1650号6~12頁2007年6月25日森信雄・労働法律旬報1650号13~16頁2007年6月25日川角由和・労働法律旬報1650号17~28頁2007年6月25日
判決理由 : 〔賃金-退職金-退職年金〕
〔賃金-賃金・退職年金と争訟-賃金・退職年金と争訟〕
 (2) 本件改定の相当性について〔中略〕
 イ 以上の事実を総合すれば、本件改定は、控訴人らの退職後の生活の安定を図るという本件年金制度の目的を害する程度のものとまではいえず、被控訴人は、本件改定の実施に先立ち、不利益を受けることになる加入者に対し、予め、給付利率の引下げの趣旨やその内容等を説明し、意見を聴取する等して相当な手続を経ているから、本件改定については、相当性もあったと認められる。
 (3) 控訴人らの主張等について
 ア 控訴人らは、被控訴人の業績の回復は、平成一四年当時においても予定されていたことであり、被控訴人の総資産は平成一四年三月三一日現在においても極めて大きく、本件改定を必要とするような経済情勢の変動はなかったと主張する。
 しかし、これまで認めた事実によれば、確かに、被控訴人の収益はあがっており、高額の配当も可能になったが、売上高が大きく回復したわけでも、利益率が高くなったわけでもなく、高コスト体質は、必ずしも解消していないというべきである。そして、格付けの低下による資金調達面での不利も、もし現実化すれば深刻な問題であり、資金調達がただちに困難となるようなランクまで間があるとしても、やはり避けるべきことである。なお、業績の回復は、直接には、本件年金制度による高い利率などを受けられない現役従業員の努力によるところが大きいということもでき、本件改定以後の事情を過大視することも相当ではない。業績の回復を根拠に、本件改定の要件該当性や必要性を否定することはできない。
 イ 控訴人らは、平成一四年四月一日以後退職する被控訴人の従業員が本件年金制度の対象外となったこととの均衡を主張するのは、妥当でないと主張する。
 しかし、これまで認めた事実によれば、仮に本件年金制度をそのまま維持しつづければ、加入者の増加により、年金給付の負担が大きく増えることとなる。したがって、これから退職する従業員に対して従前同様の本件年金制度を維持することは、困難であり、被控訴人が平成一四年四月一日以降の退職者に対して本件年金制度を適用せず利率の低い年金制度を適用するようになったのは、やむをえない措置であり、被控訴人側の行為により本件改定の必要性を発生させたものとして信義則違反になるとまではいいきれないというべきである。
 そして、本件年金のうち、利息相当分(少なくとも、うち通常の金利を超えるもの)及び終身年金は、被控訴人により負担され、その被控訴人を支える従業員が、本件改定後の給付利率より低い利回りの年金しかもらえない状態になったのであるから、やはり、加入者との不公平は極めて大きいというほかない。このことも、本件改定の必要性を大きく基礎付けるといえる。
 ウ 他の年金における取扱や裁判例等について
 《証拠略》によれば、東日本電信電話株式会社等の確定給付企業年金に関する規約の変更につき、厚生労働大臣が不承認としたことが認められる。
 しかし、そもそも、年金制度の内容が、確定給付企業年金と利息相当分を被控訴人が負担する本件とで異なっているといえる。《証拠略》によれば、被控訴人の平成一四年三月三一日以前の退職者の場合、退職金の五〇%は厚生年金基金の加算年金として年利五・五%又は七・五%として運用でき、本件年金制度は、残りの五〇%についてのものであるのに対し、東日本電信電話株式会社等については、不利益変更が認められなかった上記企業年金は、退職金の二八%を原資としており、残りの退職金は、一時金として支払われること、東日本電信電話株式会社等が規約変更を決定したとき黒字決算であったことが認められる。そうすると、制度や企業の状況などが異なるということができ、上記不承認処分が本件の判断の参考になるとはいえない。
 控訴人らは、その他、退職金債権の放棄に関する判例も挙げるが、本件では、被控訴人が負担する利息相当分の減額が問題となっており、いずれも事案が異なるというべきである。
 エ 同意を得る手続の相当性について
 控訴人らは、本件改定に関する手続が適正でなかったという趣旨の陳述書(甲二二から二四、三七、四〇〈他の加入者が作成したものを含む。〉)を提出する。なお、そのような趣旨の他事件の訴訟の本人尋問調書(乙七九、八九)も存在する。しかし、それらの中には伝聞がかなり多いこと、これまで認めたとおり、説明会が多数開かれたことは認められない平成一四年六月末の段階までで、全加入者の約三分の二の同意が得られたことも、無視できない。仮に上記証拠のとおり被控訴人の一部の担当者に問題のある対応が認められたとしても、同意獲得をめざした被控訴人側の行為に全体として大きな問題があったことまで証明されたとはいえない。本件改定につき、最終的に全加入者の約九五%の同意が得られた事実は、規程二三条の要件該当性の判断との関係で、やはり重要といわざるを得ない。