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ID番号 : 08528
事件名 : 損害賠償等請求控訴事件
いわゆる事件名 : スズキ事件
争点 : 共産党員の労働者らが、賃金差別など不利益取扱いを受けたとして損害賠償等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 日本共産党に入党した労働者らが、会社の差別的意思や差別的労務政策により賃金などの差別など不利益な取扱いを受けたことは不法行為に当たるとして損害賠償と謝罪文の交付等を請求した事案である。
 第一審の静岡地裁浜松支部は、改定前の査定では差別的な取り扱いをしたことが部分的に認められるとして、請求を一部認めた。これに対し、両者が控訴した。
 控訴審の東京高裁は、被告会社において共産党員である従業員に対する考課査定について、統一的な反共差別意思や反共労務政策に基づく方針があるとは認められず、考課査定結果は、各職場の上司によって原告の業績、能力、勤務態度等について相応に評価されたものといわざるを得ないとして会社の考課査定制度は合理的であり、右労働者らに対する具体的考課にも裁量権を濫用したなどの事情は認められないとして原審を覆し、請求をいずれも棄却した。
参照法条 : 民法709条
労働組合法7条
日本国憲法19条
労働基準法3条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/信条と均等待遇(レッドパージなど)
裁判年月日 : 2006年12月7日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ネ)4922
裁判結果 : 原判決一部取消
出典 : 労経速報1961号3頁
審級関係 : 一審/静岡地浜松支/平17. 9. 5/平成12年(ワ)274号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 (1) まず、被告会社が反共差別意思ないし反共労務政策を有していたことについては、これを直接証明する被告会社の指示文書等は存在せず(なお、一審原告Aが述べる共産党員のブラックリストの存在は認められない)、また、一審原告らの採用時において被告会社が共産党との関係等を確認したり、従業員が労音等のサークル活動や被告会社に党支部を結成することにつき被告会社が妨害等をしたことなどはうかがわれない。そして、一審原告らが主張する点については、〔1〕Oに対する駐在命令及びRに対する出向命令には、いずれも被告会社において業務上の必要があったと認められること、〔2〕労災認定を支援し、大企業黒書運動等に参加するなどして、一審原告らが労働基準監督署に対して働き掛けた諸活動を被告会社が妨害したことは認められないこと、〔3〕被告会社の正門前でのビラ配布等の行動を被告会社が制止しようとしたことには、相当の理由があったものと認められること、〔4〕被告会社が元警察官のPを雇用したことが、被告会社における反共労務政策を推進するためのものとは認められないこと、また、〔5〕被告会社の研修等において、反共差別教育がされていたことも認められないこと、〔6〕労働組合の役員選挙や党支部作成の「わっぱ」の配布活動に対する妨害行為として主張されるものは、労働組合の組合員間ないし従業員個人による対応の問題であって、被告会社が何らかの指示や関与をしているものとは認められないことなどからすれば、これらの事情によって、被告会社が反共差別意思ないし反共労務政策を有しているものと認めることはできない。
 (2) 次に、賃金差別に関する主張についてみれば、まず、被告会社の給与体系及び考課査定の方法は不合理なものとは認められず、それによれば、相対的に低い評価を受ける者が一定割合存在することになること、そして、各一審原告については、いずれもその勤務状況、勤務態度等が明らかに他の従業員のそれを上回り、被告会社の考課査定が不合理なものであって、考課査定に関する被告会社の裁量権を濫用し又はその範囲を逸脱したものと認めるに足りる事情が存在するとは認められないことからすれば、一審原告らに対してされた考課を違法不当なものということはできない。
 なお、既に触れたとおり、一審原告ら六名は、初めて「1」の考課を受けた当時、共産党員として公然活動をしていたことが認められ(なお、前記8(1)のとおり、一審原告Eのみは、初めて「2」の考課を受けた昭和五一年度当時、共産党員としての公然活動をしておらず、公然活動を開始したのは、昭和五九年以降である)、その後も一審原告らの活動が公然と継続されているにもかかわらず、その後の考課査定は別紙(略)「原告の資格、考課一覧表」のとおりであって、一定ではなく、各人ごと年度ごとに変動があり、一審原告ら相互間に統一的な関係を認めることもできない(例えば昭和四八年ころ被告会社本社門前のビラ配布活動に参加していた一審原告A、同B、同C及び同Gについてみれば、それぞれの昭和四九年度前後の考課査定の結果は一致しておらず、また、一審原告A及び同Gは、同じ本社工機課に所属して活動しているにもかかわらず、通じて一審原告Gが相対的に高い評価を受けている。なお、証拠(略)によれば、昭和四八年ころ一審原告B及び同Gの組長をしていたZ16は、一審原告Gのほうがよい考課となっているのであれば、一審原告Bより残業に協力的であったからではないかと述べている。また、証拠(略)によれば、同じ工機課で働く共産党員においても、平均以上の残業及び休日出勤をこなし、低い考課を受けていない従業員がいることもうかがわれる)。
 さらに、本件証拠上、考課査定にかかわった者の中に、被告会社から共産党員であることを理由に低く査定するように指示された者はおらず、そのように査定したとする者も存在しない(なお、一審原告Bがゴミ箱から拾得したとする班長の手帳の「思想」との記載が、考課上、共産党員であることを考慮する趣旨とは認められず、また、被告会社がそのような考課基準を示したことも認められない)。
 このような点を総合してみても、被告会社において、共産党員である従業員に対する考課査定について、統一的な反共差別意思や反共労務政策に基づく方針があるとは認められず、上記考課査定の結果は、各職場の上司によって、各一審原告の業績、能力、勤務態度等について、相応の評価がされたことによるものといわざるを得ない。
 なお、一審原告Aは、一審原告らの考課がまちまちとなっているのは、一律に「1」の考課査定をすると差別が鮮明になるため、被告会社自身が、労務管理上、このようなばらつきを作ったことが考えられると述べる(一審原告A)。
 しかしながら、被告会社が、昭和四〇年代当時から、一審原告らの考課査定が将来公開されることを想定して意図的に調整していたとは到底考えられず、そのことをうかがわせるような証拠もないから、一審原告Aによる上記のような推測は、根拠のないものというほかない。
 (3) さらに、一審原告らが賃金以外の差別行為として主張する仕事上及び仕事外の個別の出来事についても、既に説示したとおり、いずれも被告会社による反共差別意思ないし反共労務政策に基づく孤立化等の差別行為と認めるに足りる証拠はないものというべきである。
 (4) そして、上記(1)において認められた事実に加え、上記(2)及び(3)において認められた各一審原告に関する事情を総合考慮してみても、結局、一審原告らの主張するような被告会社の反共差別意思ないし反共労務政策は認められず、また、これに基づく差別行為の存在も認めることはできない。
 12 結論
 以上の次第で、一審被告が一審原告らに対して反共差別意思ないし反共労務政策に基づき賃金等及びその他の差別的取扱いをしたものと認めることはできず、一審原告らの請求はいずれも理由がないから、原判決中、一審原告Eの請求を棄却し、一審原告ら六名の請求を一部棄却した部分は相当であるが、一審原告ら六名の請求を一部認容した部分は不当である。