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ID番号 : 08545
事件名 : 配転無効確認等請求事件
いわゆる事件名 : NTT東日本(首都圏配転)事件
争点 : 配転された電信電話会社の従業員らが、新勤務部署での労働義務不存在の確認等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 地方から首都圏へ配置転換を命令された電信電話会社の従業員らが、配転は〔1〕職種限定の労働契約に反し、〔2〕権利濫用であり、〔3〕ILOその他条約・法令に違反し、〔4〕不当労働行為に該当するとして、新配属先での労働義務不存在の確認と不法行為に基づく慰謝料を請求した事案である。
 東京地裁は、まず本件には勤務場所や職種を限定する合意や慣行があったとは認められないとした。さらに、被告会社には外注委託の推進により経営を改革する必要性があったことを認定した上で、就業規則が一方的に不利益に変更されたとはいえず、労働者としての地位を失う整理解雇とは全く異なり、選択を迫ったことには合理性を逸脱しているとはいえないから、法令にも違反せず、不当労働行為にも当たらないとして、労働者側の請求をいずれも棄却した。
参照法条 : 労働基準法89条
労働基準法90条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/労働慣行・労使慣行
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/担務変更・勤務形態の変更
配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用/配転命令権の濫用
裁判年月日 : 2007年3月29日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成14(ワ)20737
裁判結果 : 棄却(控訴)
出典 : 時報1970号109頁/労働判例937号22頁/労経速報1972号3頁
審級関係 : 控訴審/東京高/平20. 3.26/平成19年(ネ)2475号
評釈論文 :
判決理由 : 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用-配転命令権の濫用〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働慣行・労使慣行〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-担務変更・勤務形態の変更〕
 一 争点(1)(勤務場所や職種を限定することが労働契約の内容となっていたか)について〔中略〕
 (7) 以上によれば、原告らと被告らとの間に、勤務場所や職種を限定する合意や慣行が存在したとは認められないから、争点(1)についての原告らの主張は理由がない。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-担務変更・勤務形態の変更〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用-配転命令権の濫用〕
 二 争点(2)(本件各配転が被告らの配転命令権を濫用して命ぜられたものか)について〔中略〕
 本件構造改革による新会社への業務の外注委託により、被告会社には原告らの担当業務がなくなったのであるから、担当業務がなくなった原告らが配転の対象となることはやむを得ない。そして、被告らが配転先を検討する際に、本人のそれまでの職務内容等を勘案した上で、可能な限りその適性が高いといえる職場を検討することが求められることは当然であるとしても、被告らからは、既に従前原告らが従事していた職務がなくなっている以上、従前の身分のまま在籍し続けることとなった原告らにとって、適性が高いといえる職場は自ずと限定されるのであるし、そのような職場が存在したとしても、常にその職場に原告らの配置が可能であるとも限られないのであるから、原告らの配転の業務上の必要性を検討する際に、配転が余人をもって替え難いといった高度の必要性が求められるべきものではないことはもとより、労働力の適正配置、業務の能率推進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化といった点で求められる業務上の必要性についても、従前従事していた職務が会社内に存在していた場合と比して、より緩やかに判断されることはやむを得ないことである。〔中略〕
 (13) 本件各配転の必要性(まとめ)
 以上のとおり、本件各配転には、いずれも業務上の必要性が認められる。
 原告らの中には、原告丁原のように、従前の職務とは必要とされる知識・経験が異なる職務に従事することとなった者もいるし、従前の職務とは異なる知識、経験が要求される部署に配転されたため、その能力を十分に生かしているといい難い原告もいるのであって、本件各配転が、余人をもって替え難い配転であったといえないことは明らかである。しかし、本件構造改革は、被告会社にとって重要な施策であり、これを実施する必要性も高かったと認められ、原告らの担当する職務が外注委託されたのも本件構造改革に伴うものであったことからすれば、原告らはそれまで従事していた職務が外注委託により被告らになくなった以上、他の職務に就くほかなく、原告らが必ずしもその適性が高いとまではいえない職場に配置されたとしてもやむを得ない。前記認定のとおり、被告会社は、原告らの配転に際してはその適性につき必要と考えられる検討をしていること、その配転先がおよそ適性がない職場であったとは認められないことも併せると、本件各配転についての業務上の必要性を否定することはできない。
 (14) 不当な動機・目的について
 配転に業務上の必要性が存する場合でも、配転命令が他の不当な動機・目的をもって行われたものであるときは、配転命令権の濫用であり、その配転は無効である。
 そこで、以下、本件各配転が、不当な動機・目的で行われたものでないかどうかを検討する。〔中略〕
 イ 原告らは、本件構造改革は、五一歳以上の社員について、被告会社を退職させた上で、賃金を大幅に切り下げて新会社で再雇用することを目的としたものであって、就業規則の不利益変更や整理解雇の制限に関する法理の潜脱を目的に行われたものであると主張する。
 しかし、原告らは、繰延型又は一時金型を選択せず、満了型を選択したとみなされたのであるから、繰延型又は一時金型を選択し退職・再雇用となった場合の不当性、違法性は、直接的には、本件各配転の無効とは結びつかない(本件構造改革の内容、手法が不当かどうかは、本件各配転の動機・目的の不当性に関連するけれども、本件構造改革による雇用選択制度に不当性がないことは、前記のとおりである。)。
 上記の点を措くとしても、まず、前記のとおり、いかなる雇用形態・処遇体系を選択するかは、個々の社員の自由意思に委ねられ、繰延型又は一時金型を選択しないことも可能であって、当然に退職・再雇用により賃金が減額されることになるのではない。雇用選択制度の運用の実態をみても、繰延型又は一時金型を強制した事実が認められないことは前記のとおりである。したがって、個々の社員の同意の有無に関わりなく変更された就業規則が適用されるかどうかが問題となる就業規則の不利益変更の法理が適用される場合とは異なる。また、繰延型又は一時金型を選択した場合の労働条件の内容は前記のとおりであって、合理性があると認められるのであるから、この点でも、就業規則の不利益変更の法理の潜脱とはいえない。
 なお、原告らのように、雇用形態・処遇体系の選択をしなかったならば、労働条件の変更はないのであるから、就業規則の不利益変更と同視できる場合となる余地はない。新会社への移行対象業務に従事している満了型選択者にとっては、本件構造改革の実施は、広域配転の可能性を高める結果となった(約三〇〇名のうち約一三〇名が首都圏に広域配転された。)という点をみれば、就業規則のうち配転に関する条項がこれらの者に不利益に適用される可能性が従前より高まったとはいい得るけれども、これも就業規則の運用に関する可能性の問題であり、就業規則の不利益変更の問題ではない。満了型選択者には、それまでとは異なる職務が与えられた上で、成果主義が問われることとなる(前提事実(3)ア)という点についても、労働条件を不利益に変更したことと同視し得る性質のものではない。
 整理解雇の法理の潜脱という点については、前記のとおり、退職・再雇用を選択するかどうかは自由意思によるものであるうえ、そもそも、雇用形態選択により退職・再雇用を選択した場合には、再雇用されることが確保されているのだから、労働者としての地位を完全に失う整理解雇とは全く状況が異なり、整理解雇の法理の潜脱を考える余地はない。〔中略〕
 (17) 以上によれば、本件各配転には、いずれも業務上の必要性が認められ、本件各配転が不当な動機・目的をもって行われたとも、原告らに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであったとも認められないから、本件各配転が、配転命令権を濫用して行われたものとは認められない。