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ID番号 : 08593
事件名 : 未払給料等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 大阪初芝学園(幼稚園教諭・賃金合意)事件
争点 : 幼稚園教諭らが、経営状態改善に伴い増額されているべき未払賃金相当額を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 学校法人の幼稚園教諭ら4名が、ベースアップの停止と賞与の減額に係る合意は経営状態が改善するまでとする旨の条件付きであったとして損害賠償請求権又は差額賃金請求権に基づき支払等を求め、うち2名はさらに早期退職加算金の適用による退職加算金の支払を求めた控訴審である。 第一審大阪地裁堺支部は、経営好転時に再交渉する旨の合意はなかった等として教諭らの請求を棄却した(早期退職者加算金制度についても、幼稚園教諭に適用がないのは不合理ではないとして棄却)。これに対し第二審大阪高裁は、減額合意が経営改善時までとする条件付であったのか、及びその後減額が継続したことが均等待遇義務に反するのか、また早期退職加算金制度の適用がされるべきか、の3点については第一審どおり否定したが、一方、経営改善時には再協議する旨の合意はあったとして、誠実な協議義務が果たされていれば、ベースアップの停止及び賞与の減額が見直され、解除されることとなった蓋然性が高いものといい得るとして、差額相当の損害賠償を認め、一審の判断を変更した。
参照法条 : 労働基準法3章
体系項目 : 賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
賃金(民事)/賞与・ボーナス・一時金/賞与・ボーナス・一時金
賃金(民事)/退職金/早期退職優遇制度
裁判年月日 : 2007年9月27日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ネ)1823
裁判結果 : 一部認容(控訴棄却、二審新請求一部認容)、一部棄却(上告)
出典 : 労働判例954号50頁
審級関係 : 一審/大阪地堺支/平18. 5.26/平成16年(ワ)718号
評釈論文 : 本久洋一・法学セミナー53巻10号127頁2008年10月
判決理由 : 〔賃金(民事)-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
〔賃金(民事)-賞与・ボーナス・一時金-賞与・ボーナス・一時金〕
〔賃金(民事)-退職金-早期退職優遇制度〕
 イ 上記認定の事情に引用に係る原判決の認定の経緯を合わせ考慮すれば、控訴人らと被控訴人が本件合意をするに当たっては、合わせて、被控訴人の経営状態が改善された場合は、本件合意の扱いにつき改めて双方で誠実に協議する旨の合意がなされたものと認めるのが相当である。のみならず、本件合意は、幼稚園自体の経営に対する方策というより、もっぱら被控訴人の責めに帰すべき事情によってもたらされた被控訴人全体の経営危機を脱却するための緊急避難的な方策として合意されたものと認められることに鑑みれば、被控訴人が経営状態が改善され、危機の状態を脱したときは、本件合意を見直し、解除する方向での協議がなされることが、双方の当然の前提になっていたものというべきである。〔中略〕  イ 上記事実に引用に係る原判決の認定事実を合わせ考慮すれば、幼稚園についても、平成9年度には、本件合意の前提とされた幼稚園の人件費比率が高いことや単年度収支が赤字であったこと等の問題はいずれも解消したものというべきであるのに、被控訴人は、その後も控訴人らの要求を誠実に検討しようとはしていないばかりか、かえって、本件合意の存在を楯に控訴人らの賃金をカットした状態を継続させてきたものといわざるを得ず、したがって、被控訴人は、平成9年度以降、前記再協議の合意に基づき、誠実に協議すべき義務に違反しているものというべきである。  なお、被控訴人は、控訴人らの要求を拒絶するにつき、第1案を選択した者がいることを理由にしているが、第1案を選択した者は、それぞれの個人的事情から短期間で退職することを予定したものであること、上記誠実協議にかかる合意は、第2案の選択者のみを対象としてなされたものであることからして(証人G、控訴人B)、これをもって控訴人らを納得させておきながら、上記のように本件合意の前提とした事情の変更があった後になって、第1案を選択した者との均衡を理由として上記誠実な協議の履行をしないことは許されないものというほかない。 (3)ア そして、本来、前記のような誠実な協議義務が果たされておれば、他に特段の事情の認められない本件においては、当該誠実協議義務の履行の結果、本件合意の内容となっている給与体系の据置き(ベースアップの停止)及び賞与の減額が、見直され、解除されることとなった蓋然性が高いものといい得る。  そうすると、平成9年度以降、少なくとも、他の事務職員及び系列校教師とほぼ同様の給与体系の改定、賞与の支給がなされることになったはずであり(弁論の全趣旨によれば、本件合意までは、従来そのような取扱いがなされてきたことがうかがわれる。)、これにより算定した合計額と実際の支給合計額との差額をもって、被控訴人の債務不履行との間に相当因果関係の認められる控訴人らの損害額と認めるのが相当である。  イ 平成9年度教育職給料表(一)の本俸月額の平成8年度に対するベースアップ率は、少なくとも1.01%である(〈証拠略〉)から、控訴人らの本俸を同様のベースアップで算定し、平成10年度の同月額の平成9年度に対するベースアップ率は少なくとも1.01%である(〈証拠略〉)から、控訴人らの本俸を同様のベースアップで算定し、以下、同様にして、控訴人らの毎年度の号俸に応じたベースアップないしダウンによる本俸額を算定すると、本判決別表3のとおりとなる。そして、調整手当につき同様の教育職の月額の変動率と同様の変動率で算定し、住宅手当を全期間を通じ月額1万4200円とすべきであり、以上によれば、基準内賃金は同表のとおりの金額となり、教育職の賞与額算定方法と同様の算定により同表のとおりの賞与額が算定される(〈証拠略〉、弁論の全趣旨)。 5 早期退職加算金制度(争点(4))について  被控訴人における早期退職加算金の定めが、明文により幼稚園教諭を早期退職金加算の対象外としていることは、引用に係る原判決認定のとおりである。控訴人らは、平成9年度の定めである甲23の宛先には「幼稚園長」の記載が含まれているなどと主張するが、証人Gによれば、被控訴人における早期退職加算金の定めはその年の状況をみて1年ごとに特別措置要綱として定められるものであり、かかる定めを作成したときは全部門の長に通知するのが従来の習いであったため、甲23の宛先に「幼稚園長」の記載が含まれているにすぎず、誤解が出たことから、翌年度以降は「幼稚園長」の記載を除いたことが認められることに照らせば、控訴人ら指摘の事実があるとしても、早期退職加算金の定めが幼稚園教諭にも適用されることにはならない。  また、同定めには、対象者として「年齢満55歳以上64歳未満」と定められているから、退職時に51歳の控訴人A及び53歳の同Cに適用がないことは明らかであり、この点は、控訴人ら指摘の甲27に係る事例の存在のみによっては左右されない。  また、控訴人らは、幼稚園教諭を適用対象から除外した点が就業規則の差別的な適用であるとも主張しているが、早期退職勧奨制度は、経営者が一定の雇用政策的配慮の下に新たに定めるものであることを考慮すると、職種、年齢等によって適用上の差異があったとしても、直ちに公序良俗違反となるものではなく、本件において、上記の点が公序良俗違反となるものと認めるに足りる証拠もない。 6 なお、控訴人らは、被控訴人の不当労働行為意思について言及しているが、本件において、被控訴人による協議義務違反等の行為が不当労働行為意思に基づくものであると認めるに足りる証拠はない。