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ID番号 : 08600
事件名 : 割増手当請求事件
いわゆる事件名 : 大林ファシリティーズ(オークビルサービス)事件
争点 : 夫婦住み込みのマンション管理員が時間外労働及び休日労働割増手当の残額等を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 夫婦住み込みのマンション管理員らが、時間外労働及び休日労働に対する就業規則所定の割増手当が一部しか支払われていないと主張し、雇用会社の権利義務を承継したX社に割増手当の残額等の支払を求めた上告審である。 第一審東京地裁は、不活動時間を含め労働基準法の労働時間であるとして、時効消滅による分等を除いて一部認容(付加金は否定)、第二審東京高裁は、第一審の判断を維持しつつ、日曜、祝日及び単発的になされた分については、1名分についてのみ請求を認めた。 これに対し最高裁第二小法廷は、〔1〕平日の時間外労働に関する部分は、不活動時間も含めて夫婦が会社の指揮命令下に置かれていたものであり是認できるが、通院及び犬の運動に要した時間を控除して時間外労働の時間を算定する必要があり、〔2〕土曜日は1名の業務従事に限定すべきであり、〔3〕日曜日は個々の作業に対応した時間に限定すべきであるとして、原判決中X敗訴部分をすべて破棄、差し戻した。
参照法条 : 労働基準法32条
労働基準法37条
労働基準法114条
賃金の支払の確保等に関する法律6条
民法145条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/労働者/ビル管理人
労働時間(民事)/労働時間の概念/住み込みと労働時間
労働時間(民事)/労働時間の概念/労働時間の概念
裁判年月日 : 2007年10月19日
裁判所名 : 最高二小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17受384
裁判結果 : 破棄差戻し(差戻し)
出典 : 民集61巻7号2555頁
裁判所時報1446号1頁
時報1987号143頁
タイムズ1255号146頁
労働判例946号31頁
労経速報1991号3頁
審級関係 : 一審/東京地/平15. 5.27/平成13年(ワ)13444号
控訴審/08355東京高/平16.11.24/平成15年(ネ)3360号
差戻控訴審/東京高/平20. 9. 9/平成19年(ネ)5220号
評釈論文 : 榊原嘉明・労働法律旬報1671号31~35頁2008年5月10日 市民と法51号65~70頁2008年6月 鎌野真敬・ジュリスト1357号153~155頁2008年6月1日 橋本陽子・判例評論593(判例時報2002)194~198頁2008年7月1日 井村真己・日本労働法学会誌112号191~199頁2008年10月 大石玄・法律時報80巻11号111~114頁2008年10月
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-ビル管理人〕
〔労働時間(民事)-労働時間の概念-住み込みと労働時間〕
〔労働時間(民事)-労働時間の概念-労働時間の概念〕
〔労基法の基本原則(民事)-労働者-ビル管理人〕
〔労働時間(民事)-労働時間の概念-住み込みと労働時間〕
〔労働時間(民事)-労働時間の概念-労働時間の概念〕
(1) 労働基準法32条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,実作業に従事していない時間(以下「不活動時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである(最高裁平成7年(オ)第2029号同12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)。そして,不活動時間において,労働者が実作業に従事していないというだけでは,使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず,当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって,不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして,当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である(最高裁平成9年(オ)第608号,第609号同14年2月28日第一小法廷判決・民集56巻2号361頁参照)。 (2) 平日の時間外労働について〔中略〕 平日の午前7時から午後10時までの時間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)については,被上告人らは,管理員室の隣の居室における不活動時間も含めて,本件会社の指揮命令下に置かれていたものであり,上記時間は,労基法上の労働時間に当たるというべきである。〔中略〕 (3) 土曜日の時間外労働について〔中略〕 本件会社は,被上告人らに対し,土曜日は1人体制で執務するよう明確に指示し,被上告人らもこれを承認していたというのであり,土曜日の業務量が1人では処理できないようなものであったともいえないのであるから,土曜日については,上記の指示内容,業務実態,業務量等の事情を勘案して,被上告人らのうち1名のみが業務に従事したものとして労働時間を算定するのが相当である。 (4) 日曜日及び祝日の休日労働ないし時間外労働について〔中略〕 上記時間のすべてが労基法上の労働時間に当たるということはできず,被上告人らは,日曜日及び祝日については,管理員室の照明の点消灯,ごみ置場の扉の開閉その他本件会社が明示又は黙示に指示したと認められる業務に現実に従事した時間に限り,休日労働又は時間外労働をしたものというべきである。〔中略〕 5 以上によれば,原審の前記判断のうち,〈1〉土曜日について,被上告人ら2名についてそのいずれもが時間外労働に従事したものとする部分,〈2〉日曜日及び祝日について,現実に業務に従事した時間を検討することなく,被上告人らのうち1名が午前7時から午後10時まで休日労働又は時間外労働に従事したものとする部分,〈3〉被上告人らが病院への通院や犬の運動に要した時間も本件会社の指揮命令下にあったとする部分は,是認することができず,上記各部分には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この限度で理由があり,平日についても,〈3〉の関係で,通院及び犬の運動に要した時間を控除して時間外労働をした時間を算定する必要があるから,結局,原判決中上告人敗訴部分は,すべて破棄を免れないことになる。そして,本件については,更に所要の審理を尽くさせるため,これを原審に差し戻すこととする。