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ID番号 : 08614
事件名 : 賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 : アイスペック・ビジネスブレイン(賃金請求)事件
争点 : ソフトウェア会社の元事業部長が在職当時の未払賃金及び時間外勤務手当等の支払を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : ビジネス向けソフトウェア会社に勤務していた元事業部長が、在職当時の未払賃金及び時間外勤務手当等の支払を求めた控訴審である。 第一審大阪地裁は、請求のうち正常に勤務していたと推定される平成16年9月16日から同月30日までの未払賃金29万6,396円及びこれに対する支払日の翌日である平成16年10月26日から支払済みまでの遅延損害金の支払を認めたが、それ以外の請求についてはこれを棄却した。これに対し第二審大阪高裁は、一審が認めた賃金部分以外は理由がないとして控訴を棄却した(元事業部長の文書提出命令の申立ては、理由がないとして却下した)。
参照法条 : 労働基準法24条1項
労働基準法32条
労働基準法32条の2
労働基準法32条の3
体系項目 : 雑則(民事)/文書提出命令/文書提出命令
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/競業避止義務
労働時間(民事)/労働時間の概念/時間中の競業活動
裁判年月日 : 2007年11月30日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ネ)1493
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労働判例958号89頁
審級関係 : 一審/大阪地/平19. 4. 6/平成17年(ワ)9377号
評釈論文 :
判決理由 : 〔雑則(民事)-文書提出命令-文書提出命令〕
〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕
〔労働時間(民事)-労働時間の概念-時間中の競業活動〕
 そうすると、第1審原告が、第1審原告作成時間外メールに表示されたタイム・スタンプの上記各日付の各時刻ころに第1審被告社屋においてメールを作成送付したことは認められるけれども、〈1〉平成16年7月6日付けのメール(〈証拠略〉)は、同日付けの他のメール(〈証拠略〉)との対比において、FBIの営業活動の一環として作成されたものと認められるから、第1審原告がそのころ第1審被告の業務に従事していたと認めることはできず、〈2〉平成16年2月12日付け(〈証拠略〉)、同年3月12日付け(〈証拠略〉)、同年6月1日付け(〈証拠略〉)、同年7月6日付け(〈証拠略〉)、同月15日付け(〈証拠略〉)、同年8月10日付け(〈証拠略〉)の各メールについても、各同日又はその前日の勤務時間中にFBIの準備活動等のためのメール(〈証拠略〉)を作成していたことに照らし、時間外に作成送付する必要があったものと認めることはできない。  また、第1審原告作成時間外メールのうち大半は第1審被告の業務に関するものと認められるけれども、第1審原告が自認するように、メールの作成に要する時間は概してわずかなのであり、しかも、第1審原告は第1審被告の社屋にいながらにしてFBIの準備活動や営業活動を行える状況にあったのであるから、第1審原告が第1審原告作成時間外メールに表示されたタイム・スタンプの上記各日付の各時刻ころに第1審被告社屋において第1審被告の業務に関するメールを作成送付したからといって、上記各日付のその余の時間外若しくは深夜労働の時間又はその余の日付における時間外又は深夜労働の時間において第1審被告の業務に従事していたと推認することはできないものというべきである。〔中略〕 そして、仮に、第1審原告が時間外及び深夜労働を行っていたとしても、それは第1審原告が勤務時間中にFBIの営業活動を行った結果時間外に押し出された本来不必要なものであるから、後記(6)のとおり、勤務時間に繰り込んで評価すべきものである。〔中略〕 しかし、他面、証拠(〈証拠略〉)によれば、〈1〉第1審原告が第1審被告在勤中の時間外又は深夜労働の時間に受信したメールに引用された第1審原告作成のメールは、重複分を含み150通弱存在し、そのうち、勤務時間中に作成送付されたものと時間外又は深夜労働の時間に作成送付されたものとが相半ばすること、〈2〉その大半は、第1審被告の業務に関するものであり、同業務に関する活動がメールの送信にとどまるものではないと推認できることに照らし、第1審原告が勤務時間中にFBIの営業活動を行った結果時間外に押し出された上記第1審被告の業務を勤務時間中に繰り込み合算して評価すべきものと解される。そうすると、第1審原告は所定の労働として最低限予定される程度には第1審被告の業務に従事していたと評価することができるから、第1審原告が同日以降は専らFBIの活動しか行っていなかった旨の第1審被告の主張は採用できない。〔中略〕  (3) そこで、まず証拠調べの必要性につき検討するに、〈1〉証明すべき事実は、第1審原告が平成15年8月18日から平成16年9月29日までの期間の午前零時から午前9時まで及び午後6時から午後12時までの時間帯に第1審被告の業務として残業・深夜労働を行っていた事実であるところ、第1審原告が第1審被告に対し提出を求める本件文書は、証明すべき事実との関係において唯一の証拠とはいえず、〈2〉当裁判所の心証は、前記説示のとおり、第1審原告が主張する時間外及び深夜労働の時間のうち、第1審被告の業務に従事していた時間とそうでない時間を特定することはできず、仮に、第1審原告が時間外及び深夜労働を行っていたとしても、それは第1審原告が勤務時間中にFBIの営業活動を行った結果時間外に押し出された本来不必要なものであるから、勤務時間に繰り込んで評価すべきであると解するものであって、既に提出されている証拠(〈証拠略〉)に加えて本件文書が提出され、さらに多数の第1審原告作成にかかるメールが証拠として採用されたとしても、屋上屋を重ねるにすぎず、上記心証が左右されるものではないから、本件文書について証拠調べの必要性は認められないものというべきである。  (4) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、第1審原告の本件文書提出命令の申立ては理由がないから却下するのが相当である。