全 情 報

ID番号 : 08617
事件名 : 地位確認請求事件
いわゆる事件名 : ハネウェルジャパン(解雇)事件
争点 : 降格・減給等をめぐる訴訟を経て職場復帰後、改めて即時解雇された元役員が地位確認を求めた事案(原告敗訴)
事案概要 : 内燃機関関連器具の製造・販売等を業とする会社で役員を務めていた者が、過去の降格・減給処分をめぐる訴訟の無効を経て職場復帰した後に再度解雇処分を受けたことから、労働契約上の地位の確認を求めた事案である。 東京地裁は、元役員が上司の指示命令への反抗・拒否を繰り返し、会社に敵対する対応・態度に終始した旨の事実を認めた上で、元役員は、業務指示を拒絶したり指示の内容を批判したりするのではなく、自らの行動をもって業務遂行をし、指示の方向性なり修正を成果報告などにより求めるべきであるところ、業務環境の改善にこだわり素直な対応に欠ける態度に終始していると認定し、業務拒否並びに不服従を重ねた元役員の行為や振る舞いが就業規則の懲戒解雇事由に該当するとしてなした即時解雇は、やむを得ないものとして有効というべきであり、解雇以外の懲戒処分をもってその改善・緩和を求めることはもはや期待できないものといわなければならないとし、その他本件解雇に関するYの解雇権濫用であるとする事情はいずれも裏付けのないもので採用できないとして、請求を斥けた。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用/懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/職務懈怠・欠勤
裁判年月日 : 2007年12月14日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)15353
裁判結果 : 棄却(控訴)
出典 : 労働判例957号26頁
労経速報1992号14頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
原告は、Bのもとにおいて、原告の職場復帰後被告におけるIAMサポートアジア担当部長として指示された最初の中心的業務である7業務を遂行せず、上司であるBの指揮命令に服さない対応・態度を示すとともに、上司に当たる丙川へも職務命令に服す必要のないかのような対応をしているもので、被告における業務命令違反に該当する対応・態度であるというべきである。〔中略〕  このような原告の対応・態度は、被告の職制における指揮命令に明らかに抗する態度であり、前記Bのもとにおける対応・態度と併せ考えても被告において原告が会社内の組織人として適合して自己に与えられたポストに基づく職責を真摯に遂行しようとする気持がないものと評価せざるを得ない。  エ 解雇の有効性  まず、平成17年10月17日からの職場復帰にあたって、原告は、被告から受けた復帰命令に同意して受け入れている。従って、原告は、IAMアジア担当部長として、アジアIAMディレクターであるBの指揮命令に服するとともに丙川社長の指揮命令権にも服さなければならない。  しかるに、上記イのように、原告はBから指示のあった7業務について、営業部の援助、D社の訪問について営業部のJの同行に固執し、自らに課された職務を遂行せず、職務命令に従わないほか職制に積極的に反抗する態度を露わにしている。  次に、平成18年3月末でIAM事業についての方針変更と組織変更があったことに伴い、原告が丙川社長からマーケティング部長として新業務である4業務の指示命令を受けた後も、当該命令を条件付きで引き受け、その中で上記ウのように自分の取締役担当部長としての地位が尊重されていないとして業務遂行せず、この間、原告には部長としてのポストとそれに見合う給与が支払われているにもかかわらず、被告の職制の在り方を無視し、かつ、その中における与えられた自己の立場を結果的に否定し続け、上司であるEからの業務命令にも明らかに拒絶的な対応を示しており、業務命令違反行為を重ね、職制ひいては被告に対する敵対的な態度・対応を昂進させている。  このような原告の対応・態度に対して、丙川社長は、平成18年4月21日にBのもとにおける原告の行動・態度が業務命令違反に該当するとして真摯な反省を求めるとともに、新たに課した4業務について同様の対応を取るようであれば懲戒処分の可能性があることを警告している。  ところが、原告は、当該警告に対して反論書及び就労環境改善要求書を丙川社長に提出するほか、休暇明けの5月18日以降、その後の6月から7月にかけて、上記と同様な与えられた業務遂行拒否と上司たるEの業務命令に従わないため、同人は、丙川社長、被告の人事部門と相談の上で同年7月18日に再度、誓約書を提出して態度を改めるよう要求し、当該態度が改められなければ解雇することを警告している。しかし、原告は同日あるいは翌日の面談で敵対的態度を改めず、むしろ誓約書の提出を拒絶し、被告の警告を和文の文書で要求するなど争う姿勢を明らかにしている。  原告は、前訴判決の結果を受けた被告からの処遇ポストと労働条件の提供を受け、当事者双方に乗り越えるのに難航した職場復帰に向けた交渉を経て、最終的には原告も平成17年10月11日付の被告からの職場復帰命令を受け入れて職場に戻ったにもかかわらず、原告は与えられた業務の主要な遂行を拒否し、上司の指示命令への反抗・拒否を繰り返し、被告に敵対する対応・態度に終始したものである。  このような事態を経て被告が原告を平成18年7月19日に業務拒否並びに不服従を重ねた原告の行為や振る舞いが就業規則の懲戒解雇事由に該当するとしてなした同日付の即時解雇は、やむを得ないものとして有効というべきであり、原告の地位、職責及び給与条件等に照らすと、被告の社内で前記のような原告の明白かつ重大な違反行為が相当期間、職場復帰後の複数のポストにわたり、複数の上司との関係で継続的に示され、当該態度が原告の過去の経緯へのこだわりや丙川社長をはじめとする職制への確執や会社そのものへの不信といった原告の頑なな心情に発したものであることからすると、解雇以外の懲戒処分をもってその改善・緩和を求めることはもはや期待できないものといわなければならない。〔中略〕  しかしながら、確かに前訴判決前の被告に在職していたときの被告社内における原告の地位そのものが重要ポストにあり、それに見合う職制の陣容であったところが、従来の営業部長の仕事が何十億の売り上げをあげるのに対して、職場復帰後のIAMの仕事が売上3億あるいは高性能ターボに限るとその半分程度の販売規模のものであるとしても、被告が原告に職場復帰に際して提供している職位としての格付けは給与面も含めて前訴判決を踏まえたものであるし、被告がターボチャージャーを製造・販売する会社であることにかんがみると、市場が小さいといわれるIAM事業そのものが重要ではないとは必ずしもいえず、むしろ、その発展の可能性をマーケティングで探索検討することも被告における重要な職務と考えられ、そもそも被告社内の原告の受け入れ方として見てもいきなり大量の部下や中心的営業担当の仕事を提供することは被告においても経営政策上、あるいは社内統制上リスクが大きすぎるものと考えられることからすると、まずは原告の職場復帰による受け入れを果たした上でお互いの信頼関係の回復を目指すことは順当な対応と考えられなくもない。それゆえ、被告が職場復帰後に原告を取締役待遇担当部長として尊重していないという原告の指摘は必ずしも当たらないものというべきである。本件証拠上からも被告が原告をことさらに冷遇したり、孤立化を図っていると認めるに足りる事実関係は見受けられない。