全 情 報

ID番号 : 08621
事件名 : 賃金等請求事件
いわゆる事件名 : 丸栄西野事件
争点 : 衣料品のブランドロゴ・タグデザイナーが、在職中の時間外手当等が支払われていないとして支払を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 衣料品のブランドロゴ、タグデザイン等を業とする会社のデザイナーが、退職までになした法内残業賃金、遅延損害金並びに付加金の支払を求めた事案である。 大阪地裁は、まず時間外労働の有無について、喫茶店での休憩や業務外でのインターネットの使用等不就業時間が含まれるとの会社の主張を退け、デザイナーの時間外手当等を別紙(略)一覧表のとおり認定した。次いで、管理監督者性の有無について、デザイナーの待遇や採用面接への関与など多少の管理監督者性を基礎づけることはできるが、種々の点を総合考慮すると、〔1〕デザイナーが労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、〔2〕労働時間、休憩、休日などに関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の職務が労働時間の規制になじまないような立場にあって、〔3〕にもかかわらず、管理監督者にふさわしい待遇がなされているとは認められないとして、管理監督者ではないとした。なお、付加金のうち法内残業関係は失当とし、時間外手当等は会社の和解姿勢を考慮し支払いを命じなかった。
参照法条 : 労働基準法32条
労働基準法37条
労働基準法41条2号
体系項目 : 労働時間(民事)/裁量労働/裁量労働
裁判年月日 : 2008年1月11日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)8099
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例957号5頁
労経速報1998号12頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働時間(民事)-裁量労働-裁量労働〕
2 時間外労働の有無について  (証拠略)によれば、別紙時間外労働一覧表記載のとおりの時間外労働を行ったことが認められる。  被告は、原告の実労働時間がタイムカードの記載より少ない旨主張するが、可能性を指摘するにとどまるもので、喫茶店での休憩や業務外でのインターネットの使用等を裏付ける証拠は見あたらない。デザイナー一般について言えば、確かに被告が主張するような時間管理が困難な態様で業務を行っている場合もあり得る。しかし、被告においては、労働基準法38条の3所定の手続きを履践した形跡がないこと、他方でタイムカードや勤怠管理表(〈証拠略〉)が導入されていたこと、日報が乙山GMに日々送信されていたこと(証人乙山GM、〈証拠略〉)、デザイン集計表が乙山GMに送信されていたこと、(証拠略)からうかがわれる企画営業グループの業務の実態は、デザインのアイデアのひらめきを待って一見無為な時間を過ごすような業務形態ではなく、顧客の定めた納期等に合わせてデザインを量産する状況であること等からすると、被告の主張は採用できない。  また、被告は、タイムカードの打刻に不正があったことがうかがわれる旨主張するが、全体の信用性を損なうような証拠は見あたらず、希に他の従業員が原告不在のまま打刻したことがあったに過ぎない。  なお、甲18の2を印刷するのに要する時間は、数秒に過ぎず、これをもって業務に従事していなかった時間があるとの主張は有意ではない。  以上によれば、原告の時間外手当等は別紙計算表のとおりとなる。 3 原告の管理監督者性の有無について (1) 被告の主張のうち、勤務時間について厳格な規制をすることが困難であることをいう点については、そもそも、前記のとおり原告の業務は時間管理が困難なものとはいえない。また、デザイナーであることが管理監督者性を基礎づけるとはいえないところ、被告の主張する点は、原告がデザイナーであることに由来するものであって、これをもって管理監督者性を基礎づけることはできない。 (2) パーティションで区切っていたために、勤務態度についての管理が困難であったことについても、原告らデザイナーが仕事に集中するためにパーティションが設置されていたものであり(〈証拠略〉)、自由に休憩をとったりするために設置されていたものではないことからすると、これをもって管理監督者性を基礎づけることはできない。 (3) 原告の待遇が、被告の従業員の中では、相対的に上位にあることは認められる。しかしながら、月々の時間外労働の時間数に見合うほどに高額であるとはいえない。また、原告の月額賃金は、前記認定事実(3)のとおり、おおむね定期的にほぼ同額で上昇してきた結果とみられ、管理監督者としての地位に就任したことによるものとみるのは困難である。  もとより、賃金額のみが管理監督者性を基礎付けるものではないので、他の事由と合わせ後に総合判断することとする。 (4) 原告が管理監督者であると認識していたか否かは、客観的に原告が管理監督者と認められるか否かの問題とは直接結びつかない。 (5) 原告が採用面接を担当したことについては、争いがないが、被告の規模において、管理監督者でない者が採用面接を担当することも考えられないではなく、他の事由と合わせて管理監督者性を基礎付けることができるにとどまる。 (6) 原告が他の従業員の昇級に関して、意見を述べる等して影響を及ぼしていたと認めるに足りる証拠はない。仮にこれをしていたとしても、昇級の判断についての材料提供である可能性もあり、管理監督者というには、単なる意見具申ではなく、昇級の判断についての一定の権限を有することが必要であるところ、そのような権限が付与されていた形跡はない。〔中略〕 見方によれば、デザイン業務そのものには疎い乙山GMではなく、原告が実質的にはアートディレクターとして企画営業グループをとりまとめていたことを示すものともいえなくもない。  しかしながら、これらの点は、原告が述べるごとく、経験や在籍期間の長さにより自然に生ずるものであって、被告における職制上の地位に基づくものではないと見ることも十分可能であるし、単に、いわゆる管理職に相当する役割を担っていたことを示すに過ぎず、管理監督者であることを基礎付ける事情としては不十分である。〔中略〕  以上の検討によれば、多少なりとも管理監督者性を基礎付けることのできる事情としては、原告の待遇〔中略〕及び採用面接を担当したこと〔中略〕の2点が挙げられるが、これらの点を総合考慮しても、原告が〈1〉労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、〈2〉労働時間、休憩、休日などに関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の職務が労働時間の規制になじまないような立場にあって、〈3〉管理監督者にふさわしい待遇がなされているとは認められないので、原告が管理監督者であると認めることはできない。 4 付加金について  原告の請求する付加金のうち、法内残業時間の賃金と同額の部分は失当であり、棄却すべきである。  その余の部分について検討するに、原告は、被告における時間外手当不払いが被告の体質に由来する根深いものであるから、付加金の支払いを命じるべきである旨主張する。  確かに、〈1〉被告は、時間外手当を「土日出勤」の場合を除いて支払っていないこと(証人乙山GM)、〈2〉平成17年4月以降はタイムカード制度を廃止して、自己申告による勤怠管理表により勤務時間を管理するようになったこと(〈証拠略〉)、〈3〉平成17年7月以降は、勤怠管理表の見本に残業時間を記入しないよう指示していること(〈証拠略〉)、〈3〉当初は労働基準監督署を交えての話し合いが行われたが、最終的には、10時間19分しか時間外労働が存在しない旨述べていたこと(〈証拠略〉)等の事実が認められる。  しかしながら、ともかくもタイムカードや勤怠管理表のほとんどは被告より証拠として提出されていること(〈証拠略〉)、原告の勤務態度等について被告から具体的な主張や立証がなされているわけではないこと、被告側は和解による解決を最後まで模索していたこと(証人乙山GM)等の点からすると、付加金については、これの支払いを命じないのが相当であると判断した。