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ID番号 : 08669
事件名 : 停職処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 : 学校法人関西大学(高校教諭・停職処分)事件
争点 : 高校教諭のスキー学舎の引率中の飲酒による停職処分につき無効確認、停職中の賃金・賞与の支払等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 私立高校Yの教諭Xが、スキー合宿先で生徒を引率中に飲酒をし、飲酒行為を記憶にないとして認めず、校長からの呼出しにも応じなかったこと、保護者との話し合いにおいて自己弁護に終始したことなどを理由としてなされた停職処分(3か月)及び停職中の賃金と賞与の不支給につき、懲戒処分の無効確認と、不支給とされた賃金・賞与の支払い等を求めた事案である。 大阪地裁は、飲酒行為は引率教諭として不適切な行為であり、その後の言動は保護者に不信感や疑義を抱かせるものであって、いずれもYにおける職員懲戒規程の懲戒事由に該当し、また、その処分内容も重きに失して相当性を欠くとは認められず、処分に至る手続が違法であるとも認められないとして、Xの請求をすべて棄却した。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/勤務中の飲酒行為
裁判年月日 : 2007年11月29日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)11208
裁判結果 : 棄却(控訴)
出典 : 労働判例956号29頁
審級関係 : 控訴審/大阪高/平20.11.14/平成20年(ネ)23号
評釈論文 : 道幸哲也・法学セミナー53巻11号130頁2008年11月
判決理由 : 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-勤務中の飲酒行為〕
原告は、平成18年2月4日、高校2年生が参加したスキー学舎において、サッポロファクトリーでの夕食の際、B教諭及びD教諭とともに、各自が中ジョッキ1杯のビール、3人でフルボトル1本のワインを飲酒したこと、当時は、搭乗予定の飛行機が降雪で欠航になったため、予定を変更して、札幌市内のホテルに分宿することになり、引率教諭が、高校2年生約230名を宿泊先まで引率していた最中であったこと、学校では、校長及び教諭らが、保護者への連絡等の対応を行い、校長からの依頼を受けた保護者らが、参加者の保護者への連絡を行っていたこと、参加者の保護者らは、帰宅が遅れた生徒らを心配していたことが認められる。
 これらによれば、本件飲酒は、上記のような状況において、少量とはいい難い飲酒をしたものであって、スキー学舎の引率教諭として不適切なものであったというべきである。〔中略〕
原告が、5月18日の話し合いの際まで本件飲酒の有無について明確に記憶していなかったとは認め難く、むしろ、本件飲酒をしたことを明確に記憶していたものと認めるのが相当である。〔中略〕
5月18日の話し合いにおける原告の発言は、本件飲酒について明確な記憶がないとした上、本件飲酒に関する自己の行動を正当化し、謝罪を求める保護者の姿勢を批判するような話をして、よって本件飲酒の事実を認め、反省の意を示すことを免れようとしたものと認められる。
 以上によれば、このような原告の発言を聞いた保護者が、原告に対し、不信感を募らせ、教諭としての資質、担任としての適格性に疑義を抱いたのも、保護者の心情として無理からぬところというべきである。〔中略〕
相当数の保護者が、5月18日の話し合い等における本件飲酒に関する原告の発言又は対応に不信感を募らせ、高校側に改善を求めるに至ったものと認められ、以上の認定判断に照らすと、このことは保護者の心情として無理からぬものであったというべきである。〔中略〕
原告が、本件飲酒をしたことは、高校教諭として不適切なものであり、「職務上の義務に違反し(中略)たとき」(職員懲戒規程3条3号)に該当し、保護者から教諭としての姿勢を問題視されたものであり、「本校の信用を傷つけ又は名誉を汚したとき」(同条1号)に該当する。
 その後、原告が、学校関係者に対して、直ちに本件飲酒の事実を認めず、校長からの厳重注意に関する呼び出しに応じなかったこと、5月18日の話し合いについて、学校関係者から繰り返し出席を求められても、出席に応じる姿勢を示さなかったことは、「職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき」(職員懲戒規程3条3号)に該当し、保護者がこのような原告の対応に不信感を募らせたことは、「本校の信用を傷つけ又は名誉を汚したとき」(同条1号)に該当する。
 そして、原告が、5月18日の保護者代表との話し合いにおいて、本件飲酒の事実について、飲んだかもしれないし、飲まなかったかもしれないなどと話した上で、本件飲酒を正当化し、また、本件飲酒に関して謝罪を求める保護者の姿勢を批判するような話をしたことは、被告の職員として不適切な対応であり、「職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき」(職員懲戒規程3条3号)に該当し、この話を聞いた保護者が、このような原告の対応及びこれに関する学校側の対応について強い不信感を示し、その後、教育後援会の役員らが、学校側に書面を提出し、他の保護者らに書面を配布するなどして、問題の改善を要求するまでに至ったことは、「本校の信用を傷つけ又は名誉を汚したとき」(同条1号)に該当する。
 そして、原告は、本件飲酒について、8月4日に提出した弁明書に、飲酒したとの判断を受け入れると記載し、同日の理事会小委員会で、当時の状況及び他の教諭の話の内容に照らして、飲んだと言われれば反論できないなどと述べるまでの間、本件飲酒をしたことを認めようとせず、また、原告の本件飲酒に関する言動が保護者の不信感を招く要因になったことについて、認めず、反省の意を示さなかった。〔中略〕
 本件停職処分が、原告に対し、停職期間3か月において、出勤を停止し、給与及び年末手当の支給を停止したものであり、これに伴い私学事業団による保険及び住宅貸付の関係で不利益な取扱いがされたこと(〈証拠略〉)などの事情を考慮しても、本件停職処分が、懲戒処分として、重きに失し、相当性を欠くとは認められない。〔中略〕
B教諭及びD教諭は、本件飲酒が問題にされた後、本件飲酒の事実を認め、校長から厳重注意を受けて反省の意を示し、保護者代表との話し合いにおいて、本件飲酒について謝罪し、保護者の了承を得ており、懲戒委員会調査部会での事情聴取において、本件飲酒に関する経過を具体的に述べている。
 これらによれば、B教諭及びD教諭に対する譴責処分との比較をもって、原告に対する本件停職処分が不当であるとは認められない。
 また、原告は、生徒に対する体罰をした教諭に対する懲戒処分との均衡を欠くと主張するが、事案が異なる上、弁論の全趣旨によれば、同教諭が懲戒事由となった行為について、謝罪し、反省の意を示したことが認められるから、この懲戒処分との均衡をもって、本件停職処分が不当であるとは認められない。
  (ウ) 原告は、本件停職処分について、被告が、原告の労働組合活動を嫌悪し、原告を敵視しており、原告を貶めるためにしたものである旨主張するが、以上の認定判断に照らし、そのように認めることはできない。〔中略〕
本件停職処分は、懲戒事由に対する判断として相当性を欠くものとは認められない。〔中略〕
仮に懲戒委員会の全体において弁明の機会が与えられなかったとしても、調査部会において事情聴取がされ、また、懲戒処分の決定機関である理事会において、本人に弁明の機会が与えられた場合には、弁明の機会の付与に関して、本件停職処分に至る手続が違法であるとはいえないというべきである。
 原告は、懲戒委員会の調査部会(懲戒委員会委員7名のうち教頭1名及び教諭2名で構成)の事情聴取において、本件飲酒がされた当時の経過について詳細に聴取されている。そして、原告は、理事会小委員会において、弁明の書面を提出するとともに、詳細な質問を受けて、懲戒事由に関する意見を述べており、理事会において弁明の機会が充分に与えられたと認められる。
 以上によれば、懲戒委員会における弁明に関する状況をもって、本件停職処分に至る手続が違法であるとは認められない。〔中略〕
職員懲戒規程4条3項は、懲戒委員会の手続において本人に不服申立ての機会を与える旨を定め、懲戒委員会要項7条は、本人に対し、委員会決議の申渡し後、2週間以内に不服申立ての機会を保障する旨を定める。
 これらによれば、職員懲戒規程及び懲戒委員会要項は、懲戒委員会において懲戒処分に関する決議がされなかった場合に、その協議結果について、本人に不服申立ての機会を与えるべきことを定めたものと一概に解することはできない。〔中略〕
 原告は、理事会において、本件停職処分がされるまでの間に、懲戒処分の当否について、充分な弁明をしたものと認められる。
 以上によれば、原告が、懲戒委員会における協議結果について、不服申立てをする機会が与えられなかったことをもって、本件停職処分に至る手続に違法があったとは認められない。〔中略〕
懲戒委員会の性質に照らすと、原告に対する懲戒処分について懲戒委員会で決議がされなかったことをもって、本件停職処分に至る手続に違法があったとは認められない。