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ID番号 : 08676
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 豊中市不動産事業協同組合事件
争点 : 暴力行為により協同組合を懲戒解雇された元職員が、地位確認、賃金支払等を求めた事案(元職員一部勝訴)
事案概要 : 事業協同組合Yから暴力行為等を理由に懲戒解雇された女性事務局長Xが、主位的請求として解雇無効による地位確認、賃金支払を求め、予備的に、解雇予告手当、時間外賃金等を請求した事案である。 大阪地裁は、原告のとった行為は組合の就業規則の懲戒事由に当たると認定し、職務熱心で事務処理能力が高く、同僚に対する傷害事件までは懲戒処分をうけていないことなどを考慮しても処分が相当性を欠くとはいえないとし、弁明の機会などその他の手続上も解雇に影響を及ぼすような瑕疵があったとはいえず、懲戒解雇は解雇権の濫用に当たらず有効とした。 また、予備的請求のうち解雇予告手当については、解雇が「労働者の責めに帰す事由」に基づくものであるとして退けたが、日頃遅くまで残って勤務していたことが多かったことを認定し、未払の時間外手当の支払を命じた(除斥期間に達していない期間の付加金も認めた。)。
参照法条 : 労働基準法20条1項
労働基準法114条
労働基準法20条3項
労働基準法19条2項
労働基準法4章
体系項目 : 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/暴力・暴行・暴言
解雇(民事)/解雇予告手当/解雇予告手当請求権
賃金(民事)/割増賃金/法内残業手当
裁判年月日 : 2007年8月30日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)816
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例957号65頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
〔解雇(民事)-解雇予告手当-解雇予告手当請求権〕
〔賃金(民事)-割増賃金-法内残業手当〕
原告は、被告の事務局長として、他の職員に対し、その人格を尊重し、誠意をもって指導すべき立場にあったにもかかわらず、勤務時間中に事務所内で、事務職員Bに対し、手で肩を1回突くという暴行を加え、侮辱的な内容を大声で怒鳴り続けた上、Bに向かって走り込み、その身体に蹴り掛かるという暴行を加え、これらの暴行によってBに加療7日間を要する右大腿部及び右肩打撲の傷害を与えた。〔中略〕
本件事件における原告の言動は、就業規則における懲戒事由である「素行不良、及び性的な言動など風紀秩序を乱したとき」(38条3号)、「金銭の横領等その他刑法に触れるような行為をしたとき」(38条7号)に該当するものである。〔中略〕
本件事件における原告の言動、Bの被害状況、原告の当時の職責、本件事件までの原告の同僚に対する言動、本件事件後の被告に対する言動等に照らすと、原告が、被告の事務職員として3年以上精勤して、職務熱心で、事務処理能力が高いと評価されていたこと、本件事件までに懲戒処分を受けていないことなどを考慮しても、原告に対して諭旨退職の懲戒処分をしたことが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くものとは認められない。〔中略〕
被告の職員就業規則は、諭旨退職について、退職届の提出を勧告し、これに従わない場合に懲戒解雇にすると定めていること、被告は、原告に対し、退職届の提出を求め、期限までに退職届が提出されなかった場合は懲戒解雇にすると通知し、原告が期限までに退職届を提出しなかったことから、懲戒解雇にする決定をし、その旨を原告に通知したことが認められる。
 これらによれば、原告に対する諭旨免職は、就業規則上の諭旨退職に当たるものと認められ、諭旨免職として行われたことをもって本件解雇の効力は左右されない。〔中略〕
被告が原告に対して弁明の機会を設けなかったとは認められず、この点において手続上の瑕疵があったとは認められない。
 そして、本件解雇に関する手続において、他に本件解雇の効力に影響を及ぼすような瑕疵があったとは認められない。
 エ 以上によれば、本件解雇は、解雇権の濫用に当たらず、有効である。
 したがって、原告の労働契約上の地位確認請求、本件解雇後の賃金請求及びこれに対する遅延損害金請求は、いずれも理由がない。〔中略〕
本件解雇の事由は、職場の秩序に反する重大な非違行為であり、労働基準法20条による保護を与える必要がないものというべきであり、同条1項但書の「労働者の責に帰すべき事由」に当たる。
 労働基準法20条3項、19条2項は、同法20条1項但書の場合、解雇事由について行政官庁の認定を受けなければならないと定め、被告の職員就業規則39条6号は、懲戒解雇について、所轄労働基準監督署長の認定を受けたときは、予告手当を支給しないと定めるところ、弁論の全趣旨によれば、本件解雇の事由について行政官庁の認定がされていないことが認められる。しかし、行政官庁の認定は、事実確認的な性質のものと解されるから、この認定を受けていなくとも、解雇が「労働者の責めに帰すべき事由」に基づくものと認められる場合は、使用者は解雇予告手当の支払義務を負わないというべきである。
 したがって、原告の解雇予告手当請求は理由がない。〔中略〕
事務職員は、出退勤の都度、タイムカードを打刻していたこと、事務職員の出勤時におけるタイムカードの打刻時刻は、午後8時30分前後ないし午後8時45分前後あたりであったこと、退勤時におけるタイムカードの打刻時刻は、原告のものは、午後5時過ぎに加え、午後6時前後ないし午後8時前後に及ぶものも相当数みられるが、他の事務職員(B、C及びD)のものは、原告と比較して、午後5時過ぎ又は午後6時前後のものが多いこと、原告は、職務熱心で、事務処理能力が高いと評価されており、他の事務職員より遅く残って業務に従事することが多かったこと、事務職員は、一斉に休憩時間をとらず、業務状況等に応じて、昼ころに適宜休憩していたことが認められる。〔中略〕
事務職員が、被告の行事がある際以外にも、所定終業時刻である午後5時以降に事務所内に残って業務に従事することがあったこと、理事長、総務部長等の役職者は、それぞれ別に事業を営んでいるため、事務所内にいない時間が多く、事務職員だけが事務所内にいる際の就労状況を詳細には把握していなかったことが認められる。〔中略〕
原告が、午後5時以降に事務所に残って業務に従事していたとの前記認定を妨げる事情を認める的確な証拠はない。
 ウ 以上によれば、原告の労働時間は、時間外等賃金の計算上、タイムカード(〈証拠略〉)における出退勤時間から所定休憩時間1時間を引いて算定するのが相当である。〔中略〕
法定労働時間(1日8時間)の範囲内での残業(1日7時間を超える時間)は、労働基準法上の割増賃金の対象にならないこと、被告の職員給与規定13条は、所定時間外勤務に対する時間外手当の支給について定めるが、支給額を具体的に定めていないことに照らすと、この法定労働時間内の残業にかかる1時間当たりの賃金額は、前記(3)の算定基礎となる賃金額(割増前のもの)とするのが相当である。〔中略〕
労働基準法114条に基づき、法定時間外勤務手当及び休日勤務手当の合計と同額の付加金の支払を命じるのが相当であるが、平成16年4月分にかかる部分は、2年間の除斥期間が経過している(時間外等賃金請求にかかる訴えが提起されたのは平成18年4月28日である。)ので、付加金の支払を命じる金額は、平成16年5月分ないし平成17年6月分の法定時間外勤務手当及び休日勤務手当を合計した36万3992円とする。