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ID番号 : 08681
事件名 : 解雇予告手当請求事件
いわゆる事件名 : ヒューマントラスト事件
争点 : 1日単位で勤務後に雇止めされた労働者が人材派遣会社に解雇予告手当支給を請求した事案(労働者敗訴)
事案概要 : 人材派遣会社Yの日雇労働部門に登録し、訴外会社で1か月近く断続的に1日単位でテレマーケティングのオペレーターとして雇用されたあと、雇止めされた労働者Xが、Yに解雇予告手当支給を請求した事案である。 東京地裁は、本件は、Xが日々雇い入れられて一貫して業務に従事していたものの、成績不良を理由に今後は雇い入れられないことを通告されたものであり、労働基準法21条但書の規定での意思の表明を受けたものと解するのが相当と認定した上で、上記勤務前に行われた研修日業務は雇用契約締結であったとのXの主張に対し、本件研修日業務は応募者の中から適性のある者を選抜する趣旨のものであり、参加者自身もそう認識していたことから労働契約の締結であったと評価することはできず、合わせて1か月に満たない労働日数を前提に考えれば本件請求には理由がないとして、Xの請求を棄却した。
参照法条 : 労働基準法21条但書
労働基準法2章
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/労働者/派遣労働者・社外工
解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
解雇(民事)/解雇予告手当/解雇予告手当請求権
裁判年月日 : 2008年3月26日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)24172
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労働判例970号94頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-派遣労働者・社外工〕
〔解雇(民事)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔解雇(民事)-解雇予告手当-解雇予告手当請求権〕
原告は、被告に日日雇い入れられて一貫して本件業務に従事していたものの、平成19年3月18日、成績不良を理由に、今後は雇い入れられないことを通告されたものである。
 労働基準法21条但書の規定は、日日雇い入れられる労働者についても、1か月を超えて引き続き使用されるに至った者については、使用者が、もう日日の雇用契約はしないという意思を表明した場合には、使用者に解雇予告義務を課しているという趣旨であると解することができる。
 上記認定事実を前提とすれば、本件においては、原告は、被告から、同条但書の意味における意思の表明を受けたものと解するのが相当である。
(2) 本件研修日業務が雇用契約締結に該当するか。
 本件の争点は、本件研修日業務に関して、1日の期間を定めた労働契約が締結されたと評価できるかという点である。上記認定事実のとおり、原告は、本件研修日業務を経ることにより本件業務に採用されたこと、研修で受けたノウハウや資料をその後の本件業務の中で活用したこと、本件業務従事中と比較すれば低額の時給とはいえ、研修参加による対価の支払を他の雇用の際と同一の形式によって受けたことは、一連の本件業務従事の一環としての本件研修日業務であったとの評価が可能になる。しかしながら、本件研修日業務について、1日の期間を定めた労働契約が締結されたと評価できるかを検討すれば、この研修に参加した者全員がその後の本件業務従事者として採用されているのであれば、本件業務の一環としての準備段階としての労務提供に対して賃金支払があったとして、労働契約締結と評価する余地はある。しかし、上記認定事実のとおり、本件研修日業務には、応募者の中から、適性のある者を選抜するという側面があったことを無視することはできない。現実に本件業務に選抜されなかった者(原告と同一の機会にある者のうちでは、16人中6人)がいる以上、被告は、何ら労務提供をしていない者に対しても時給相当額を支払う仕組みであったということになり、少なくとも採用されなかった者との間で、本件研修日業務に関して労働契約を締結したとは評価する余地はない。そして、上記認定事実のとおり、被告のワークス部門のオペレーターから電話で研修参加者全員が採用される訳ではないことの告知を受けた上で本件研修日業務に参加していることを考えれば、個々の研修参加者は、上記事情を了解した上で研修に参加したことになり、被告との間で、本件研修日業務に関して1日の労働契約を締結したという評価をすることは困難であるといわなければならない。
 してみると、採用の前提となる研修実施を労働契約の締結であると評価することはできないから、原告の日日雇い入れられる労働者としての稼働日数は1月に及ばないことになり、その余の点を判断するまでもなく、原告の本件請求には理由がない。