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ID番号 : 08690
事件名 : 退職金請求事件
いわゆる事件名 : ピーエムコンサルタント事件
争点 : コンサルタント会社社員の自殺につき妻が会社の都合の場合の算定による退職金支払を求めた事案(妻勝訴)
事案概要 : 国や地方自治体の公共工事を中心に土木工事等のコンサルタント委託業務を行う会社Yの社員Aが自殺し、Yが「私傷による死亡」として退職金を算定したのを不当として、妻が「会社の都合」の場合の算定方法による支払を求めた事案である。 大阪地裁は、退職金規程は「傷病による退職」と「死亡による退職」とを区別し、さらに傷病による退職については、「私傷病」と「業務上の傷病」とを区別し、前者には自己都合支給率を適用し、後者には会社都合支給率を適用しているが、死亡による退職の場合については第8条に規定するのみで、その原因によって区別することをしていない以上、従業員が自殺によって死亡した場合であっても、その理由の如何を問わず第8条が適用されると解するのが相当であり、会社都合等の率により算定すべきであるとした。また、保険金の支払によって退職金は一部すでに支払われたとの会社の主張についても、保険料が退職金の一部前払いであると説明したような事情はうかがえず、Aが明示的にも黙示的にも同意していたと認めるに足る的確な証拠はないとして、請求を認容した(Aの実父母に弁済したとの主張についても否定)。
参照法条 : 労働基準法9章
労働基準法2章
体系項目 : 賃金(民事)/退職金/退職金請求権および支給規程の解釈・計算
賃金(民事)/退職金/死亡退職金
賃金(民事)/退職金/会社都合特別加算等
裁判年月日 : 2008年6月6日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)5612
裁判結果 : 認容(控訴)
出典 : 労働判例970号89頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔賃金(民事)-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
〔賃金(民事)-退職金-死亡退職金〕
〔賃金(民事)-退職金-会社都合特別加算等〕
1 争点(1)(退職金の額)について
(1) 前記第2の1(3)のとおり、本件退職金規程は、傷病による退職と死亡による退職とを区別し、さらに、傷病による退職については、私傷病と業務上の傷病とを区別し、前者には自己都合支給率を適用し、後者には会社都合支給率を適用している。これに対し、死亡による退職の場合については、第8条に規定するのみで、その原因によって区別することをしていない。そうすると、従業員が自殺によって死亡した場合であっても、その理由の如何を問わず、第8条が適用されると解するのが相当である。
 これに対し、被告は、自殺による死亡の場合については、本件退職金規程第8条の「〈2〉死亡した場合」に含まれず、第7条の私傷病の場合に準じて、自己都合支給率を適用すべきである旨主張する。しかしながら、死亡による退職の場合について、その原因によって区別しないことが著しく不合理であるとはいえず、本件退職金規程第8条の「〈2〉死亡した場合」を敢えて限定解釈すべき必要性も見い出し難い。
 よって、亡太郎の退職事由は、本件退職金規程第8条の「〈2〉死亡した場合」に該当するというべきであるから、同人の退職金の支給率は6.2となり、同人の退職金の額は、基本給20万0500円に6.2を乗じた124万3100円となる。
(2) 被告は、被告による本件保険契約〈1〉及び同〈2〉に係る保険料の支払が、退職金の一部前払いに当たる旨主張する。
 しかしながら、本件全証拠を検討してみても、被告が、亡太郎に対し、本件保険契約〈1〉及び同〈2〉の保険料が退職金の一部前払いであると説明したような事情はうかがえず、亡太郎が本件保険契約〈1〉及び同〈2〉の保険料を将来受給すべき退職金から控除することについて明示的に同意していたことも認められない。さらに、証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、亡太郎は、被告に対し、保険金を退職金の一部に充てるため、本件保険契約〈1〉に加入すること、また、A生命保険相互会社が経営破綻した後は、被告がB生命保険相互会社との間で本件保険契約〈2〉を締結することをそれぞれ同意していたことが認められるものの、これらの事実から、亡太郎が本件保険契約〈1〉及び同〈2〉の保険料を将来受給すべき退職金から控除することについて黙示的に同意していたことまでを推認することはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。そうすると、被告による本件保険契約〈1〉及び同〈2〉に係る保険料の支払を、退職金の一部前払いと解する余地はない。
 よって、亡太郎に係る本件保険契約〈1〉及び同〈2〉の保険料を退職金から控除することはできない。
2 争点(2)(弁済)について
 証拠(〈証拠略〉、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告代表者は、原告に対し、平成13年11月11日及び同月27日の2回にわたり、亡太郎の退職金として、自己都合支給率により算定された退職金額から本件保険契約〈1〉及び同〈2〉の各保険料を控除した額を提供したことが認められるが、前述のとおり、亡太郎の退職金は、会社都合支給率により算定されなければならない上、上記各保険料を控除することは許されないから、被告代表者の上記提供は、債務の本旨に従った履行とはいえない。したがって、被告は、原告に対し、亡太郎に係る退職金債務につき、有効な弁済の提供をしたとはいえないから、依然として、原告に対し亡太郎の退職金全額を支払う義務があるというべきであり、亡太郎の退職金の一部を、同人の実父母に支払ったとしても、弁済の一部と見なすことはできない。