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ID番号 : 08692
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 大阪経済法律学園事件
争点 : 大学職員が他大学の大学院に就学し懲戒解雇されたことを無効として地位確認等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 学校法人Yに雇用され大学の職員として勤務していた者が、他大学の大学院に入学し就学していたことに関連して懲戒解雇されたことは無効であるとして、Yに地位確認、賃金等支払を求めた事案である。 大阪地裁は、他大学の大学院に入学・修学すること自体は就業規則にいう「職を兼ねるとき」に当たらず、また職務専念義務違反については、大学院修学が職務遂行に著しく支障を来たしていたとも、殊更に秘匿しようとしていたとも認められず、出張中に修学していた証拠もなく、遅刻・早退・欠勤も修学に使われていたとも認められないからこれには当たらないとした。さらに、病気休職がその趣旨に反するとしても懲戒解雇に当たるとまではいえず、年休取得の事前申請を怠ったことや理由を偽ったことも、その後の態度をみれば懲戒には当たらず、学歴の不申告、無断で行った学生へのアンケートも懲戒に当たらず、虚偽の生理休暇取得に証拠はなく、勤務時間中の図書館利用や勤務成績不良も、懲戒委員会での態度等も、服務規律違反ではあっても懲戒解雇の事由には当たらないとして、Yが行った懲戒解雇のいずれも合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くとして、本件解雇を無効とし、地位の確認と賃金(一時金含む)の支払を認めた。
参照法条 : 労働基準法2章
労働基準法24条1項
体系項目 : 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/職務懈怠・欠勤
裁判年月日 : 2007年12月20日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)3710
裁判結果 : 一部認容、一部却下、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例965号71頁
審級関係 :
評釈論文 : 河合塁・労働法学研究会報60巻8号24~29頁2009年4月15日
判決理由 : 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
原告がB大学大学院に在籍し、修学したことは、職務専念義務に違反するとして、就業規則39条5号の服務規律違反に該当し得るような事由があるとしても、懲戒解雇事由である就業規則40条1号の「前条各号に掲げる行為が再度に及んだとき又は情状の重いとき」、同条10号の「その他前各号に準ずる不都合な行為があったとき」に当たるとは認められない。〔中略〕
前記認定した原告の休暇の取得状況に照らすと、原告が平成7年度及び平成8年度に行った出張や事後の年次有給休暇への振替について、B大学大学院への通学、修学に関するものとして、職務専念義務に違反する事由があったとはにわかに認められず、仮に職務専念義務に違反するような事由があったとしても、そのことが懲戒解雇事由に該当するものであるとは認められない。〔中略〕
原告の病気休職期間中におけるB大学への修学状況について、病気療養の趣旨に反するような事由があったとしても、懲戒解雇事由に該当するような事由があったとまでは認められない。〔中略〕
上記休暇願を提出し、事後に年次有給休暇の振替を受けたことについて、就業規則40条1号の「前条各号に掲げる行為が(中略)情状の重いとき」に当たるとはにわかに認められない。〔中略〕
これらの届出をしなかったことは、就業規則39条3号の「勤務に関する手続きその他届け出を怠り、又は届け出を詐ったとき」に該当するとしても、これに関する事情に照らすと、就業規則40条1号の「前条各号に掲げる行為が(中略)情状の重いとき」に当たるとは認められず、懲戒解雇事由に該当する事由であったとは認められない。〔中略〕
原告が、平成11年7月22日、B大学大学院でC教授と面談していたとは、にわかに認められず、生理休暇の取得について、懲戒解雇事由に該当するような事由があったとは認められない。〔中略〕
原告は、被告の了承を得ずに、大学に在籍する複数の学生に対し、プライバシーにわたる事項を詳細に質問するアンケートを実施し、その結果について、回答者の氏名が識別され得るような内容を記載した質問票を作成し、研究資料としたものであり、勤務する大学との関係においても、いささか相当性を欠く行為であったというべきである。
 しかし、これらの事実は、就業規則39条5号の服務規律違反に該当するものであったとしても、懲戒解雇事由に該当するような事由であるとまでは認められない(仮に原告がEに対して同人の陳述書記載のような行動を勤務時間中にとっていたとすれば、職務専念義務に違反するものであるが、以上の認定判断に照らすと、このことをもって懲戒解雇事由に該当するような事由があったとまでは認められない。)。〔中略〕
原告が就業時間中に職務との関連性を認め難い行為をすることがあり、これが職務専念義務に違反するものであったとしても、このことをもって懲戒解雇事由に該当するような事由があったとまでは認められない。〔中略〕
被告が原告に対し、勤務時間における図書館の利用を禁止していたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、また、この図書館の利用によって、被告又は他の職員における職務遂行に支障を来したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
 以上によれば、原告による図書館の利用について、職務専念義務に反するような事由があったとしても、懲戒解雇事由に該当するような事由があったとは認められない。〔中略〕
原告の担当業務に関する勤務成績について、懲戒解雇事由に該当するような事由があったとは認められない。〔中略〕
前記〈1〉、〈2〉の行為は、就業規則39条5号の服務規律違反に当たり得るものではあるが、その内容とする事由を併せ考えると、就業規則40条1号の「前条各号に掲げる行為が(中略)情状の重いとき」に該当するとまで認め難く、仮にこのことが懲戒解雇事由に該当するとしても、懲戒解雇の理由としては相当性を欠くものというべきである。〔中略〕
 被告の総務課長又は庶務課長が、原告に対し、懲戒委員会における事情聴取の際、原告に対し、博士論文を示すように求めたこと、その後、被告が、B大学に対し、原告の博士論文につき閲覧申請をしたが、原告が事前に閲覧を制限する申出をしていたため、閲覧することができなかったことが認められる。
 しかし、このことは、就業規則39条5号の服務規律違反に該当し得るものではあったとしても、懲戒解雇事由に該当するような事由であるとは認められない。〔中略〕被告が主張する本件解雇の事由は、懲戒解雇事由に該当しないか又は懲戒解雇の理由として相当性を欠くものというべきである。
 したがって、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くものとして、無効というべきである。〔中略〕
弁論の全趣旨によれば、上記入試手当は、入学試験に関して臨時に支払われたものであると認められる。また、原告が恒常的又は相当な時間にわたり時間外勤務をしていたとは認められないことに照らすと、本件解雇がなければ得られたであろう賃金額について、平成18年1月分の超過勤務手当7128円を含めて算定することが相当とは認められない。
 以上によれば、本件解雇後の給与額(控除前のもの)は、月額56万1900円とするのが相当である。
 ただし、原告の給与請求のうち、本判決確定の翌日以降における給与にかかる部分は、予め将来給付の請求をする必要があるとは認められず、訴えの利益を欠くものというべきである。〔中略〕
解雇予告手当は、給与とは法的性質が異なるものであり、使用者の一方的な意思表示によって給与の支払に充当することはできないというべきである。
 また、労働基準法24条1項は、賃金の全額払の原則を定めており、これは、生活の基盤たる賃金を労働者に確実に受領させるという趣旨に基づくものであるから、相殺禁止の趣旨を含むものと解される。そして、解雇が無効である場合の解雇後の賃金請求権と解雇予告手当の返還請求権との相殺は、過払賃金の精算等のための調整的な相殺に当たるとは認められない。これらによれば、使用者の一方的な意思表示によって、解雇後の給与を既払の解雇予告手当で相殺することは認められないというのが相当である。〔中略〕
 被告は、私立学校教職員共済法に基づき、加入者が負担する掛金相当額、労働保険の保険料、所得税の源泉徴収額、住民税の源泉徴収額について、給与の支払額から控除すべきである旨主張する。
 しかし、これらは、いずれも給与として現実に支払う際に控除又は源泉徴収をすることができる性質のものであり、裁判所において、未払給与の支払を命じる金額から控除又は源泉徴収の額を差し引くことはできないというべきである。〔中略〕
被告は、原告に対し、本件解雇後の給与として、月額56万1900円の支払義務を負う。〔中略〕
本件の弁論終結当時における主張立証によって、一時金の支払義務の有無及び支払額について、判断することが困難であるとは認められない。
 したがって、原告の一時金に関する本訴請求について、請求の変更を許さない旨の決定はしないこととする。〔中略〕
被告は、被告の教職員に対し、上記一時金につき未払である場合には、上記一時金額及びこれに対する遅延損害金を支払う義務を負うものと認めるのが相当である。そして、原告に対する本件解雇が無効である以上、被告は、労働組合に所属する原告に対し、本件解雇後の一時金として、前提事実(5)イ(ア)記載の方法で支払う義務を負うものというべきである〔中略〕
被告は、原告に対し、本件解雇当時の本給額が54万3500円であることから、平成18年度夏期一時金として108万7000円、同年度冬期一時金として218万4000円、平成19年度夏期一時金として108万7000円の支払義務を負う。
 ただし、平成18年度冬期一時金の支払時期について、平成18年12月10日(原告主張)、同月11日(被告主張)のいずれかは、証拠上明らかではなく、同月10日が日曜日であることにも照らし、この一時金に対する遅延損害金の起算日は、同月11日の翌日である同月12日とする。