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ID番号 : 08698
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 日立製作所(帰化嘱託従業員・雇止め)事件
争点 : 電気機械器具会社の嘱託従業員が、契約終了の旨の通知に対し地位の確認、慰謝料等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 電気機械器具等の製造及び販売等を目的とする会社Yで、通訳として業務に従事していた嘱託従業員Xが、会社が契約の更新を13回繰り返した後、書面により最終の契約更新とすることを宣言した上で、最終期間満了をもって委嘱を終了する旨通知したことについて、期間満了後も雇用契約は継続しているとして、地位の確認、慰謝料及び賃金並びに遅延損害金の支払を求めた事案である。 東京地裁は、まず原告Xについて正社員か期間雇用の従業員かについて判断し、賃金の支払方法、X自身の認識いずれの点においても暗黙にも正社員としての契約が成立していたとはいえない、とした。その上で、雇止めの経緯をみても、Yは度重なる交渉にも応じており、脅迫や欺網などをした事実もなく、Xは更新の可能性がないことを理解した上で契約書に署名捺印したと認められるから、XY間の雇用契約は双方合意の上で契約が終了したといえるとして、Xの請求をいずれも棄却した。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/労働者/嘱託
解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
退職/合意解約/合意解約
裁判年月日 : 2008年6月17日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)7863
裁判結果 : 棄却(控訴)
出典 : 労働判例969号46頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-嘱託〕
〔解雇(民事)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔退職-合意解約-合意解約〕
原告・被告間の労働契約の期間が1年であることは、当事者間の労働契約書がいずれも期間1年間のものであることから、否定する余地がない。この1年という期間が、ビザの有効期間との関係でそのように定められたものかは、必ずしも明らかでない。しかし、14年に及んだ原告・被告間の労働関係の中で、これを見直し、期間の定めのない契約に切り替えようという動きのないまま、毎年労働契約が更新されてきたことは事実である。
 原告が被告に採用される前の時点で、原告と面識を持っていたC副社長は、名刺を渡し、自分と連絡を取れる時間を教えるなどしていることから、正社員となれる期待を持たせるような甘い話を原告にした可能性は否定できない。さらに、原告が正社員となれるような趣旨(「転正」「中採」)を手帳に書き付けたのは、原告が自己に都合のよりよいように受け取った可能性もある。しかし、いずれにせよ、同副社長が原告を大卒社員として採用できるわけでも、採用したわけでもなく、同副社長がしたのは、原告を採用担当者に紹介したことまでである。その後は、採用担当者の手に委ねられ、その結果、雇用期間1年の従業員として採用することが決まり、原告もこれを受け入れ、そのような雇用期間の定めで契約を続けてきたのであるから、それ以前の同副社長との会話や、励ましの手紙(そもそもそれが正社員を前提としたものといえるかはともかく)等は、結論に影響しないというべきである。〔中略〕
原告は雇用期間1年の従業員として採用され、その後も1年毎に契約書を作成して契約の更新を重ねてきた。上記判示のように、家族を呼び寄せたなどの原告の行動から、更新が暗黙のうちに予定されていたと考えられなくもない。また、原告の主張する、原告が、正社員にしてくれるよう被告に再三働きかけていたこと〔中略〕は、被告も認めるところであるから、少なくとも当初は原告に正社員になる途が存在したとも考えられる。しかし結局そうならず、上記のように、1年毎に、雇用期間を1年間とする契約書を作成して更新を重ねてきたことは、被告が原告の働きぶりなどを評価して、当初の期待に応えるほどでないとの判断に至ったと解し得る。これらのことから、契約の更新が全く形式的なものとは解されない。〔中略〕
原告の身分は、社会保険、社宅、財形貯蓄、社内預金等の福利厚生等を享受できた点及び月額賃金も最高35万円と低くなく、賞与もあったという点では、正社員的な部分もある。しかし、原告の主張からは、正社員の要素として、期間の定めのない雇用契約であり解雇が制限されるという点が最も重視されていると思われるところ、これが該当しないのは前記のとおりである。そうすると、原告が正社員であるとの主張は成り立たないといわざるを得ない。〔中略〕
原告の主張する原告が正社員であるとの主張は理由がない。もっとも、原告は、雇用期間1年の従業員であるが、その労働契約の更新も計13回に及んでいるもので、その雇用契約の解消に関してはそれなりの保護が考えられないではない。しかし、原告は雇止めが制限されるとの主張はしない、と述べているから、この点はこれ以上検討しない。〔中略〕
原告と被告の担当者等は、複数回の面談を経て、その中で、被告は労働契約を更新しない明確な方針を伝え、これに対し原告も、会社の状況を理解しつつも、自己の生活を考えれば当然とも思われる要望を述べているもので、事態をよく理解して任意に意思決定しているといえる。また、複数回の面談が持たれていることから、原告としては納得のいかない提案が示されたところで、次回までに検討したいと述べて検討したり(原告は法学の大学院修士課程を終えているもので、法的な事項について十分に判断できる能力がある。)、相談できる者に相談することができた。原告本人によっても、原告が他者(弁護士以外の者)に相談していた様子が認められる。したがって、そこに被告が、契約を締結させるよう脅迫したとか、欺罔してそれにより原告が何らかの錯誤に陥ったなどの事情は認めることができない。原告は、これ以上契約が更新されないことを理解して16年契約の契約書に署名・捺印しているもので、一種の合意による契約の終了ともいうべきものである。〔中略〕
契約を更新しなかった事由は、委嘱する業務の減少と、被告が第2、3(2)被告の主張ア及びイにおいて主張するような原告の業務態度が芳しくない(証拠〈証拠・人証略〉)及び原告本人尋問中の原告の供述態度等弁論の全趣旨から認められる。)というもので、全く理由のない恣意的なものとはいえない。
 したがって、いずれにせよ原告・被告間の契約は16年契約も期間が満了していることにより終了し、これを妨げるものはないというべきである。