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ID番号 : 08716
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 日本美術刀剣保存協会事件
争点 : 財団法人の職員らが解雇・雇止めを無効であるとして地位確認・未払賃金等の支払を請求した事案(元職員勝訴)
事案概要 : 財団法人Yに、他の勤務先で定年を迎えた後再就職していた職員X1ら(X1~X3)が、解雇・雇止めを受けたため、労働契約上の地位の確認と未払賃金(賞与を含む)等の支払を求めた事案である。 東京地裁は、まず解雇(雇止め)時に定年の70歳に達していた事務局長X1について、採用時既に68歳4か月であったこと、その際雇用期間の定めもなく、短期の契約であることを確認した雇用契約も締結されていないこと、X1以前の事務局長については定年制の適用について厳格ではなかったことなどから、当事者の合理的意思解釈としては、定年制を形式的に適用しない約定で雇用契約が締結されたものと認定した。 次にX2、X3については、1年間の契約更新が行われていたのは事実としても形式化していたことなど雇止めの事由が認められないことから、X2、X3の責任のみを問うのは相当でないと判断し、たとえ一般的には雇用の延長が期待されない立場であったとしても、いかなる恣意的な理由によって雇止めがされてもよいと解するのは相当でないとして、雇止めの効力を否定し、X1らの請求をいずれも認めた。
参照法条 : 民法628条
労働基準法18条の2
体系項目 : 退職/定年・再雇用/定年・再雇用
解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 : 2008年5月20日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)19133
裁判結果 : 認容(控訴)
出典 : 労働判例971号58頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔退職-定年・再雇用-定年・再雇用〕
〔解雇(民事)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
本件においては、原告丙川及び同乙山は、警視庁をほぼ60歳で退職した後、嘱託として雇用され、雇止め時には年金も受給可能な年齢に達していたもので、若年労働者ほどには雇用継続の必要性も強いとはいえず、前記〈1〉〈2〉のように解雇に関する法理を類推すべきものとはならない。しかし、前記争いのない事実並びに証拠(〈証拠略〉、原告乙山、同丙川)及び弁論の全趣旨によれば、上記両原告はフルタイムで1週間に5日勤務し、他の職員と全く同様に勤務してきたこと、雇用契約の更新を重ねて、勤務期間は約6年に及んでいること、契約更新の手続は毎年行われてきたが、面接や雇用契約書の作成はなく、辞令交付がされていたものの雇用期限満了前ではなく、形式的なものに近いといえること、の各事実が認められ、これらを考えると、期間の経過により当然に雇用契約が終了するものとは解し難い。このような退職高齢者を対象とする雇用契約であっても、契約の終了には、当該契約の性質に見合った合理的な事由を必要とすると解すべきである。〔中略〕
原告丙川及び同乙山については、期間の定めのある雇用契約を締結したものであるところ、契約の終了には、当該契約の性質に見合った合理的な事由を必要とすると解すべきである。上記両原告は警視庁をほぼ定年で退職した後、嘱託として雇用され、雇止め時には年金も受給可能な年齢に達しており、若年労働者ほどには雇用継続の必要性も強いとはいえないが、他方、上記両原告はフルタイムで1週間に5日勤務してきたこと、更新を重ねて、勤務期間は約6年に及んでいること、契約更新の手続は毎年行われてきたが、形式的なものに近いといえること、を考えると、雇用継続の期待は強いといえる。そして、前記2に判示したとおり、このような雇用契約においては、恣意的な理由によって雇止めがされてよいと解するのは相当でないところ、本件においては、被告主張の事由はいずれも認められないか、雇止めの事由として考慮することは不適切であって、雇止めは恣意的な理由に基づくものといわざるを得ないから、上記両原告の雇用契約は終了していないものというべきである。
 イ 上記両原告の雇用契約は、1年ごとの期間の定めのあるものであるが、上記判示のように雇用継続の期待は強いところ、上記両原告の採用時の求人票には「定年70歳」と記載されており(〈証拠略〉。両文書は、「当庁OB」などという記載もあり、警視庁の者が作成したと考えられる。しかし、E専務理事の印が押捺されていることもあり、記載内容は被告の担当者の意向に沿ったものと考えられる。)、上記両原告はこれを労働条件として被告に就職していることからすると、上記両原告には70歳までの雇用継続の強い期待があり、実質的に70歳を定年とする雇用契約が締結されているとも考えられる。そうすると、その時点までの雇用契約上の地位の確認につき、確認の利益があり、かつ賃金及び賞与の支払請求について理由があるとも考えられる。
 ウ 被告は、上記両原告について、終期を定めず賃金支払請求が認容されることは、退職事由が生じた場合にも債務名義が残り不当であると主張する。ところで、定年制は、将来の雇用の限度を定めたものであるが、それまでの雇用を法的に保障したものではなく、雇用契約の性質上、労働者がそれ以前に何らかの理由で解雇される可能性もあり、また、定年制自体が、雇用者側の雇用方針であるから、人事政策上の事情等により変更される余地があるものである。そうであれば、これと類似する状況である本件において、たとえ終期であるとしても、70歳までの雇用契約上の地位を確認し、その時点までの賃金及び賞与の支払請求を認容することは、あたかもその時点までの雇用契約上の地位を保障したかのような状態となることから、相当でないというべきである。したがって、上記両原告についての、特に終期を定めず、上記時点までの地位を確認し、賃金及び賞与の支払の請求を認容すべきである。債務名義が残る点は別途解決を図るべきである。賃金及び賞与の額並びに支給日は、証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨により、認められる。
 被告の本案前の主張はいずれも理由がない。