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ID番号 : 08728
事件名 : 残業代支払請求控訴事件
いわゆる事件名 : Aラーメン事件
争点 : 会社解散後も同じ屋号でラーメン店を営む元会社代表に元従業員が未払時間外手当を請求した事案(元従業員勝訴)
事案概要 : ラーメン店を営む会社Aの元代表Yが、A社解散後も同じ屋号を使って個人営業でラーメン店を営んでいるという事情の下に、元従業員XがA社解散前の時間外賃金が未払であるとして支払を求めた事案の控訴審判決である。 第一審の仙台地裁は、解散前のA社とYとの間に雇用関係を含む営業譲渡があったとして、時間外手当の支払を命じた(付加金の支払も認容)。これに対しYが控訴。 第二審の仙台高裁は、概ね第一審の判断を肯定しつつ、解散会社AとYとの間には実質的同一性が認められ、A社営業権については実質的同一性を有するYがこれを事実上包括的に承継したものというべきであり、さらに、従業員の労働条件に何ら変化がなく、A社から解雇通告を受けたり、解雇予告手当の支払を受けたりしておらず、新たに雇用契約の締結もしていないという事情に照らせば、A社とYとの間で事実上の営業の包括的承継に伴い労働契約も承継することが黙示に合意されていたものと認められ、Yも特段異議を述べていないことから、A社からYへの労働契約の承継に黙示の承諾を与えていたと認められるとして、Yの控訴を棄却した。
参照法条 : 労働基準法37条
労働基準法114条
会社法24条
商法17条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約の承継/営業譲渡
裁判年月日 : 2008年7月25日
裁判所名 : 仙台高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成20(ネ)158
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労働判例968号29頁
審級関係 : 第一審/仙台地/平20. 3.18/平成18年(ワ)758号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約の承継-営業譲渡〕
1 当裁判所も被控訴人の主位的請求を認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり原判決を訂正し、控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の当該欄説示のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の訂正)
(1) 原判決9頁8行目「訴外会社」から同頁14行目「営業譲渡に伴い、」までを「訴外会社と控訴人との間には実質的同一性が認められ、訴外会社の営業については実質的同一性を有する控訴人がこれを事実上包括的に承継したものというべきである。そして、かように訴外会社と控訴人との間に実質的な同一性が認められ、上記第3の1(1)オ及びカ認定のとおり、訴外会社の解散の前後を通じ、被控訴人を含む従業員の労働条件に何ら変化がなく、被控訴人が、訴外会社から解雇通告を受けたり、解雇予告手当の支払を受けたりしておらず、控訴人との間で新たに雇用契約の締結もしていないという事情に照らせば、訴外会社と控訴人との間で、上記の事実上の営業の包括的承継に伴い訴外会社と従業員との間の労働契約も承継することが黙示に合意されていたものと認められ、被控訴人も、特段異議を述べていないから、訴外会社から控訴人への労働契約の承継に黙示の承諾を与えていたと認められる。そして、その際、訴外会社に生じた既発生の債務を除外したなどの特段の事情も認められない。したがって、控訴人は、」に改める。
(2) 原判決9頁18行目「たこと、」の次に「控訴人は、本人尋問において、経営者として従業員に残業をさせた場合は、時間外手当を支払わなければならないことについても、これを支払わないことが労働基準法に違反することも知っている旨供述していること、」を付加する。
(控訴人の主張に対する判断)
 控訴人は、原判決が、訴外会社の控訴人に対する営業譲渡を推認し、屋号「Aラーメン」の継続使用の事実から会社法24条1項、商法17条1項の適用若しくは類推適用をし、訴外会社の被控訴人に対する未払時間外手当の支払義務を控訴人に認めたのは相当でない旨主張する。
 しかし、原判決第3の1(1)で認定する事実からは、訴外会社と控訴人との間に実質的同一性が認められることから、訴外会社から控訴人に対し単に営業用財産の事実上の譲渡若しくは使用許諾がされたにとどまらず、訴外会社の営業を控訴人が事実上包括的に承継し、これに伴い従業員との間の労働契約も承継することが黙示に合意されていたことが認められ、被控訴人も黙示にこれを承諾していたと認められること、かような訴外会社及び控訴人間の合意及び労働者である被控訴人の承諾により承継された労働契約に基づき、訴外会社の被控訴人に対する未払時間外手当の支払義務を控訴人が負うものというべきであることは、訂正された原判決第3の1(2)説示のとおりであるから、原判決が事業譲渡に際し商号を続用している場合についての会社法24条1項、商法17条1項の適用若しくは類推適用をしたとする控訴人の主張については判断するまでもない。
2 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。