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ID番号 : 08731
事件名 : 割増手当請求控訴・民訴法260条2項の申立事件
いわゆる事件名 : 大林ファシリティーズ(オークビルサービス)事件
争点 : マンションの住み込み管理員夫婦が時間外・休日割増賃金を請求した事案の差戻後控訴審(労働者ら一部勝訴)
事案概要 : マンションの住み込み管理員夫婦(X1・X2)が、規定の始業午前9時前及び終業午後6時以後の業務についても指揮命令下にあったとして、割増賃金を請求した事案の差戻後控訴審である。 第一審の東京地裁は、所定休日を含む全ての日の午前7時から午後10時までが不活動時間を含めて夫婦共に労働時間であるとして、未払割増賃金請求を一部認容した(付加金は棄却)。第二審東京高裁は、平日及び土曜日の分については第一審判決を維持しつつも、日曜、祝日については1名分についてのみ認容し、また近隣の病院への通院や犬の運動に要した時間も時間外労働時間から控除する必要はないと判断した。これに対し上告審の最高裁は、平日午前7時から午後10時までの時間は、必要な待機時間も含め労働時間と認定し、土曜日については1名のみ認定し、日曜・祝日については現実に従事した時間に限り労働をしたと認定しつつ、しかし病院に通院したり犬を運動させた時間は労働時間ではなく、結局労働時間はすべて再計算を要するとして破棄差戻した。 差戻審の東京高裁は、上告審判決に沿いつつ、平日は午前7時から午後10時までとし、ただし通院や犬の運動に要した時間を控除した。土曜日、日曜日、祝日については現実に業務に従事した時間に限り時間外労働を認定した(消滅時効にかかる期間を一部再認定。また付加金は棄却)。
参照法条 : 労働基準法36条
労働基準法37条
労働基準法38条
体系項目 : #N/A
労働時間(民事)/労働時間の概念/住み込みと労働時間
労働時間(民事)/労働時間の概念/労働時間の始期・終期
裁判年月日 : 2008年9月9日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ネ)5220、平成20(ネ)2789
裁判結果 : 原判決一部変更、一部認容、一部棄却(確定)
出典 : 労働判例970号17頁
労経速報2018号3頁
審級関係 : 第一審/東京地/平15. 5.27/平成13年(ワ)13444号
控訴審/08355東京高/平16.11.24/平成15年(ネ)3360号
上告審/最高二小/平19.10.19/平成17年(受)384号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-ビル管理人〕
〔労働時間(民事)-労働時間の概念-住み込みと労働時間〕
〔労働時間(民事)-労働時間の概念-労働時間の始期・終期〕
1審原告らは、それぞれ、別紙2の各「総労働時間」記載のとおり、平成11年4月1日から平成12年6月27日までの平日においては、上記の通院時間及び飼い犬の運動時間を除いて午前7時から午前9時まで及び午後6時から午後10時までの間、時間外労働に従事したものである。ただし、平成12年7月3日以後の1審原告の労働は、時間内労働をしていないのであるから、時間内労働として評価されるべきである。〔中略〕
平成11年4月1日から平成12年9月9日までの間の各土曜日については、1審原告らは、別紙2の各「総労働時間」の土曜日欄記載のとおりの時間外労働等をしたものである。〔中略〕
1審原告らのうち1名は、日曜日及び祝日については、管理員室の照明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉その他本件会社が明示又は黙示に指示したと認められる業務に従事した時間に限り、休日労働又は時間外労働をしたものというべきところ、前記認定事実及び弁論の全趣旨によると、1審原告らは、日曜日及び祝日においても、管理室に居住していることから、管理員室の照明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉以外にも、受付業務等による住民との対応、宅配物の受取り、交付、駐車の指示、自転車置き場の整理等をすることが多く(ただし、休日に行われたリサイクル用ゴミの整理については、前示のとおり、これを休日の時間外労働と評価することはできない。)、これについては、管理日報を作成して本件会社に報告していたが、本件会社から制止されることはなかったのであり、かつ、これらの業務の遂行が本件マンションの住民の利益にもなっていたものと認められるから、これらの業務の遂行についても、本件会社からの黙示の指示があったものとして1審原告らは時間外労働をしたものというべきである。そして、上記労働に従事した時間は、前示のとおり各日につき1時間程度を下らなかったものと認められるから、平成11年4月1日から平成12年6月27日までの間の日曜日及び祝日については太郎が少なくとも1時間の時間外労働をし、平成12年7月3日から平成12年9月9日までの間の日曜日及び祝日については1審原告が少なくとも1時間の時間外労働をしたものというべきであり、これによると、別紙2の各「総労働時間」の日曜日及び祝日欄記載のとおりの時間外労働時間となる。〔中略〕
1審原告らの前記1の時間外労働時間に対する賃金は、特別手当の支払により一部弁済され、かつ、一部については労働基準法による2年の消滅時効期間が徒過し、1審被告がこの消滅時効を援用する旨の意思表示をしているから、1審原告の請求できる未払時間外賃金は、平成11年4月分以降のもののみである〔中略〕
1審原告らが1審被告に請求できる時間外賃金の額は、平成11年4月から平成12年9月分のものであり、別紙2「労働時間1999年4月ないし2000年9月」及び「所定外賃金計算書」に記載のとおりである。
 なお、本件会社は、1審原告らに積極的に時間外労働を求めたわけではないこと、一定の時間外賃金相当分(特別手当)を支払っていることから、付加金の支払を認めるまでの悪質性はないから、1審原告の1審被告に対する付加金請求は理由がない。〔中略〕
1審原告の本訴請求は、太郎分の平成11年4月1日から平成12年6月27日までの未払時間外賃金269万4955円及びうち254万0953円に対する退職日の翌日である平成12年6月28日から、うち15万4002円に対する支払期日の翌日である同年7月26日から各支払済みまで商法の定める年6パーセントの割合による遅延損害金、1審原告分の平成11年4月1日から平成12年9月9日までの未払時間外賃金153万7227円及びうち142万0331円に対する退職日の翌日である同年9月16日から、うち9万3025円に対する支払期日の翌日である平成12年9月26日から、うち2万3871円に対する同年10月26日から各支払済みまで商法の定める年6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の部分については理由がないから棄却すべきである。〔中略〕
1審原告は、平成17年9月16日、832万3518円から553万6951円を控除した278万6567円を理由なく受領していることになるから、1審被告に対し、278万6567円及びこれに対する平成17年9月17日から支払済みまで商法の定める年6パーセントの割合による遅延損害金を支払うべきである。
 1審被告の仮執行宣言に基づく給付の返還の申立は上記の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとする。
6 よって、これと一部異なる1審判決を変更したうえ、1審原告の請求を上記4の限度で認容し、その余は棄却し、1審被告の仮執行宣言に基づく給付の返還の申立を上記5の限度で認容し、その余を棄却することとして、主文のとおり判決する。