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ID番号 : 08788
事件名 : 遺族補償給付不支給決定処分取消等請求事件
いわゆる事件名 :
争点 : 急性心機能不全で死亡したハンバーガーチェーン店社員の親が遺族補償給付等を求めた事案(労働者側勝訴)
事案概要 :  勤務時に急性心機能不全を発症し死亡したハンバーガーチェーン店社員Aの親Xが、労基署長が決定した遺族補償給付及び葬祭料不支給処分の取消しを求めた事案である。  東京地裁は、〔1〕直近6か月間におけるAの時間外労働が月当たり80時間を超える範囲に達していた月が相当程度あったこと、〔2〕業務のシフトは不規則な勤務であって、その性質上深夜勤務を含む業務形態であったこと、また〔3〕サービス残業を行うことが常態化していた勤務態勢であったことが心理的にも長い拘束時間を従業員に意識させるものであり、心血管疾患に対するリスクを増大させる要因となっていたと考えられること、〔4〕本件疾病発症前の頃には業務上の負荷が相当高まっていたことなどの事実から、Aに何らかの基礎疾患が存在していた可能性はあるものの、業務上の過重負荷により自然の経過を超えてその基礎疾患が増悪し、本件疾病が発症したということができるとして業務と本件疾病との間に相当因果関係を認め、労基署長の行った遺族補償給付及び葬祭料の不支給処分をいずれも取り消した。
参照法条 : 労働基準法79条
労働基準法80条
労働者災害補償保険法7条
労働者災害補償保険法12条の8
労働基準法施行規則35条
体系項目 : 労災補償・労災保険 /業務上・外認定 /業務起因性
労災補償・労災保険 /業務上・外認定 /脳・心疾患等
労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /遺族補償(給付)
労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /葬祭料
裁判年月日 : 2010年1月18日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(行ウ)615
裁判結果 : 認容
出典 : 判例時報2093号152頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労災補償・労災保険‐業務上・外認定‐業務起因性〕
〔労災補償・労災保険‐業務上・外認定‐脳・心疾患等〕
〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐遺族補償(給付)〕
〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐葬祭料〕
 二 争点に関する判断
 (1) 業務起因性の判断基準
 労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の死亡等について行われるのであり(同法七条一項一号)、労働者の死亡等を業務上のものと認めるためには、業務と死亡等との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁第二小法廷昭和五一年一一月一二日判決・判例時報八三七号三四頁参照)。そして、労災保険制度が、労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、上記の相当因果関係を認めるためには、当該死亡等の結果が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である(最高裁第三小法廷平成八年一月二三日判決・判例時報一五五七号五八頁、最高裁第三小法廷平成八年三月五日判決・判例時報一五六四号一三七頁参照)。
 本件については、前記前提事実のとおり、一郎が本件疾病により死亡したことが認められるので、本件疾病の発症が本件会社における一郎の業務に内在する危険が現実化したものと評価できるかを検討することになる。
 (2) 一郎の死因及び本件疾病と業務との条件関係〔中略〕
 (3) 本件疾病発症前六か月における業務上の時間外労働時間
 上記認定事実のとおり、一郎の本件疾病発症前二か月~六か月の平均時間外労働時間は、別紙のとおり六四時間四〇分~七三時間四五分であり、全て四五時間を超えている。してみると、上記認定事実の、一般的な経験則に照らせば、業務と本件疾病発症との関連性が強まっている労働時間であるということができる。そして、上記認定事実のとおり、一郎が自宅で行った作業は、持ち帰って行うことについて明示的な業務命令はないものの、パソコン作業等のうち、本件システムに関する作業については、上司である丙川OCの指示によるものであること、直接の上司である丁原店長には、店舗での作業を黙認されているという程度の評価しか受けず、後に休日出勤を止められたという事情からすれば、相当に長時間に及ぶ自宅でのパソコン作業等にも、業務遂行性を認めるべきである。上記判断のとおり、一郎の労働時間の把握は困難であり、特に自宅への持ち帰り残業について、一郎は、業務と関係のないインターネットやゲーム等をも行いながら遂行しているものの、少なくとも一定量の業務をある程度の時間を費やしていたと推認することができるのである。そうすると、本件疾病発症前六か月間における一郎の業務に関する時間外労働時間は、月当たり概ね平均八〇時間を超える範囲に達していた月が相当程度あった蓋然性が高いといわなければならず、業務と本件疾病発症との関連性が強いと評価することができる。
 (4) 一郎が従事していた業務の性質
 上記認定事実のとおり、まずもって、本件会社における業務のシフトは、不規則な勤務であって、その性質上、深夜勤務を含む業務形態であり、しかも、一郎をはじめとする正社員は、所定労働時間を超えて勤務することがほとんどで、勤務実績どおりに時間外労働を申告しておらず、いわばサービス残業を行うことが常態化していた勤務態勢であったことを指摘しなければならない。この業務態勢は、単に交替制の深夜勤務というだけでなく、業務の不規則性や実際の労働時間の長さに、心理的にも長い拘束時間を従業員に意識させるものであり、心血管疾患に対するリスクを増大させる要因となるものである。
 次に、上記判断のとおり、自宅にも持ち帰っていたパソコン上の作業のうち、本件システムの更新に関する業務は、本件システムは一郎が開発したものであること、上司である丙川OCの指示によるものの、直接の上司である丁原店長との関係では、本件店舗で作業することが憚られる環境にあり、しかも、後には休日の出勤を禁止されたことからすれば、そのメンテナンス作業は、一郎自身の責任を感じさせられる作業であって、精神的な緊張を強いられるものであるといわなければならない。
 そして、上記認定事実によれば、平成一二年一一月半ばには、本件会社のパソコンが入替になる予定があり、本件システムの更新が必要になっていたこと、厳密な意味での業務内容とは言い難い面も否定できないものの、時を同じくして、同月中に、本件会社のIOC研修に参加することになっており、一郎は、自宅でもこの研修に参加するための予習を行っていたことが窺えるものであり、これらの期限の設定された業務が重なることは、ストレスを亢進させる事情であるということができるのである。
 以上のような本件会社における業務の内容、一郎に課せられた業務の内容と態様、本件疾病発症前後の事情は、いずれも一郎が、相応のストレスに晒されており、負荷のかかる業務に従事していたことを裏付ける事情であるといわなければならない。
 (5) 本件疾病発症前の業務上の負荷
 前記前提事実及び上記認定事実のとおり、本件疾病発症前一か月間は、一郎の時間外労働時間が算定可能なだけで七九時間三〇分であったこと、深夜にわたる勤務が一〇回、一一回のシフト変更があったこと、本件疾病発症前一週間には、算定が可能なだけでも時間外労働時間が二四時間三〇分で、深夜にわたる勤務が二回、シフト変更が二回あったこと、本件疾病発症日の前日である平成一二年一一月七日正午ころ出勤し、同月八日朝五時三〇分まで一六時間三〇分(拘束時間一七時間三〇分)の間、労働したこと、この勤務は、Oシフト勤務での修正シフトによる通常の労働時間一三時間(拘束時間一四時間)を三時間三〇分超えるものであることという事情が認められる。もとより、上記認定事実のとおり、シフト変更には、概ね休日が挟まれており、休日が一定程度あったことは認められるが、上記判断のとおり、本件疾病発症前の段階では、さらに業務の負荷が増大したものということができる。
 (6) 小括
 前記前提事実及び上記認定事実によれば、一郎には、従前の健康診断で、脳・心臓疾患の原因となる異常は認められず、解剖所見でも特記すべき異常が認められないものであり、本件会社の業務により、負荷の強い業務に長期間にわたって晒され、さらに直前の業務の負荷が増大することにより、自律神経の過度な緊張を来し、疲労蓄積や過労状態の発症に強く関連し、心室細動等心臓刺激伝導系の異常を引き起こした可能性が極めて高いということができる。そうすると、上記認定事実のとおり、一郎には、何らかの基礎疾患が存在していた可能性はあるものの、上記のメカニズムにより、業務上の過重負荷によりその自然の経過を超えて増悪して本件疾病が発症したということができる。すると、本件疾病の発症は、本件会社における一郎の業務に内在する危険が現実化したものと評価でき、業務と本件疾病との間には相当因果関係があることを認めることができるのである。
 なお、上記認定事実の石川意見のうち、業務起因性を否定する結論部分は、業務の過重性についての評価につき、当裁判所の上記判断と前提を異にしており、上記結論を左右するものではない。
 第四 結論
 以上によれば、一郎の死亡は、業務に起因すると認められるところ、一郎の死亡が業務に起因するものではないことを前提とする本件処分は違法であり、取消を免れない。