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ID番号 : 08791
事件名 : 損害賠償等請求事件(ID番号08814事件の第1審)
いわゆる事件名 : 天草中国人技能実習生事件第一審判決
争点 : 外国人研修生らが、受入れ機関等に損害賠償、未払賃金、時間外手当等の支払を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 :  技能実習制度の外国人研修生として来日し、後に技能実習生となった中国人労働者ら4名が、〔1〕第2次受入れ機関である衣料用繊維製品製造会社2社が実習生らの旅券等を強制的に取り上げ、最低賃金を下回る賃金で長時間労働を強制したとして、第1次受入れ機関である協同組合、前記2社及び関係財団らに損害賠償を、また、2社に対しては未払賃金、時間外手当及び付加金の支払を求めた事案の第一審、第二審である。  第一審熊本地裁は、〔1〕実習生らと2社との間には労働契約が成立しており、実習生らには労働者性があるとして、研修期間中を含め未払賃金、時間外手当等及び付加金を支払うよう命じた。また、〔2〕2社には違法な長時間労働があったとして不法行為責任を認め、さらに〔3〕第1次受入れ機関の監査・指導注意義務違反を認め損害賠償を命じたが、〔4〕関係財団の責任は否認した。これに対し第1次受入れ機関(協同組合)のみ控訴。  なお、第二審福岡高裁でも、第一審の判断を支持し、控訴人(協同組合)の控訴を棄却した。(平成22年9月13日福岡高裁判決・平成22年(ネ)第255号。ID番号08814)。
参照法条 : 民法709条
出入国管理及び難民認定法19条
労働基準法9条
労働基準法10条
最低賃金法2条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事) /労働者 /研修期間の外国人研修生
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
労基法の基本原則(民事) /使用者 /財団法人 国際研修協力機構
雑則(民事)/付加金 /付加金
裁判年月日 : 2010年1月29日
裁判所名 : 熊本地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)1711/平成20(ワ)660
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1002号34頁/判例時報2083号43頁/判例タイムズ1323号166頁
審級関係 : 控訴審/福岡高平成22.9.13/平成22年(ネ)第255号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐研修期間の外国人研修生〕
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔労基法の基本原則(民事)‐使用者‐財団法人 国際研修協力機構〕
〔雑則(民事)‐付加金‐付加金〕
 2 賃金等の支払請求について
 (1) 研修期間における原告らの労働者性の有無
 ア 労働基準法及び最低賃金法の適用の可否〔中略〕
 (ウ) 以上によれば、原告らは、その研修期間中においても、労働基準法9条所定及び最低賃金法2条1号所定の「労働者」に該当するものと認めるのが相当である。
 イ 被告会社ら相互の関係〔中略〕
 原告らは、被告会社らの共同の指揮監督下で労務を提供していたものであり、したがって、原告らと被告会社ら双方との間において、明示又は黙示の労働契約が成立しているものと認めるのが相当である。
 ウ 小括
 以上によれば、原告らは、研修期間中を含めて、労働基準法及び最低賃金法に基づき、被告会社ら双方(不可分債務)に対し、賃金等を請求することができる。
 (2) 支払われるべき賃金の額〔中略〕
 (4) 小括
 以上によれば、原告らは、被告会社らに対し、原告Aは332万2274円の、原告Bは331万円6274円の、原告Cは310万3828円の、原告Dは311万7160円の各賃金等支払請求権を有する。
 3 不法行為に基づく損害賠償請求について
 (1) 被告らの不法行為の成否
 ア 被告会社らについて
 (ア) 旅券の預り行為及び管理行為について〔中略〕
 Fが、原告らの逃亡を防止することを主たる目的として、原告らの旅券を預かり、これを管理し続けた行為は、原告らの日本における移動の自由を制約し、下記(ウ)の違法な労働状態の継続を助長するものとして違法な行為であるというべきである。〔中略〕
 (イ) 預金口座の開設と預金の払戻し、預金通帳・印鑑の管理行為について〔中略〕
 Fが原告らの逃亡防止を主たる目的として旅券を管理していたことに鑑みれば、Fの上記行為の目的は原告らの財産を管理することにより、その逃亡を防止することにあったものと推認することができる。さらに、Fが、原告ら各自について複数の預金口座を開設し、研修手当と時間外作業代金を別々に振り込むようにしたのは、その後、Fが原告らの預金通帳を無断で廃棄していることも併せると、外部からの監査を受けた際、研修生に残業をさせる等の違法状態の存在を隠ぺいする目的があったものというべきである。
 (ウ) 違法な労働状態の作出について
 上記1(3)によれば、被告会社らは、研修期間及び技能実習期間を問わず、労働基準法36条の要件を満たすことなく、法定労働時間(同法32条)を大幅に上回り、また、休日に関する規定(同法35条)に反して、被告会社らの指揮監督下において、原告らを縫製作業に従事させ、しかも、原告らにノルマを課する等して強い指揮命令下に置いており、さらに、上記1(6)イのとおり、被告会社らは、原告らの労務の提供に対して著しく低額な対価しか支払っておらず、他方で、上記1(4)アによれば、被告会社らは、原告らの研修期間中、原告らに対して、実施すべき研修を実施しなかったというのであるから、被告会社らのこれらの各行為は、違法な労働状態を積極的に作出し、これを継続させたものであると認められる。
 (エ) 日常生活及び休日について
 上記1(8)によれば、原告らの生活していた寮は、台所、ベッド、風呂、テーブル、テレビ、電話機等、原告らの生活に必要なものは最低限整っていたのであって、それ自体が劣悪な住環境であったと認めることはできない。〔中略〕
 (オ) 小括
 上記(ア)の旅券の預り行為及び管理行為及び(イ)の預金口座の開設と預金の払戻し、預金通帳・印鑑の管理行為は、(ウ)の違法な労働状態を継続させるための手段としての側面も有している等、(ア)ないし(ウ)の各行為は、相互に密接に関連しているものと認められ、これらの違法行為を全体として見た場合、原告らの人格権を侵害するものとして、不法行為を構成するというべきである。そして、上記(ア)ないし(ウ)の各行為の内容と上記1(3)ウ及び2(1)イの被告会社らの相互の関係を前提にすると、上記行為は被告会社らの共同不法行為に該当すると認めるのが相当である。
 イ 被告協同組合について
 (ア) 原告C及び原告Dの旅券の預り行為について〔中略〕
 預かる目的の点においては理由があるものの、同手続終了後、原告C及び原告Dの同意を得ることなく、Fに旅券を渡した点においては、同人の違法な旅券管理の継続の原因を作出したものであり、この点において、被告会社らの不法行為に荷担するものであるというべきである。
 (イ) 作為義務違反について〔中略〕
 被告協同組合は、被告会社らに対する十分な監査を行わず、〔中略〕
 被告会社らに対しても、旅券と預金通帳の保管の点を始めとして、何らの指導も行っていないというのであるから、被告協同組合は、上記作為義務に違反したものであるといわざるを得ない。
 (ウ) 被告各受入れ機関の連帯責任
 以上によれば、被告協同組合は、被告会社らに対する監査・指導義務に違反し、その結果、研修期間中はもとより、技能実習期間中も被告会社らによる上記アの違法行為の継続を招いたということができる。〔中略〕
 被告協同組合は、被告会社らと連帯して、原告らに生じた損害につき、賠償責任を負うものと認めるのが相当である。
 ウ 被告協力機構について〔中略〕
 被告協力機構は、国から技能実習制度推進事業を委託され、本件制度の円滑かつ適正な実施を使命とする等、公的な性格を担っていることは認められるものの、あくまでも民法上の財団法人であり、かつ、被告各受入れ機関と異なり、個々の研修・技能実習の実施において、その当事者となるものでもない。〔中略〕
 以上によれば、被告協力機構につき、原告らの主張する法的義務の存在を認めることはできないから、原告らの上記主張を採用することはできない。
 (2) 損害及びその額
 ア 慰謝料について
 被告各受入れ機関の上記不法行為の内容、態様、侵害された権利の内容等本件に顕れた諸事情を考慮すれば、同行為により、原告らの受けた精神的損害を慰謝するには、原告らそれぞれにつき、100万円をもって相当と認める。
 イ 逸失利益について〔中略〕
 ウ 弁護士費用について
 事案の内容、認容額等本件に顕れた諸事情を考慮すると、不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては、原告らそれぞれにつき、10万円をもって相当と認める。
 (3) 紛争解決の合意(和解契約)の成否について〔中略〕
 上記2(3)で判示したとおり、原告らと被告会社らとの間に、上記紛争解決の合意が成立したと認めるに足りる証拠はない。