全 情 報

ID番号 : 08805
事件名 : 地位保全及び賃金仮払仮処分決定認可決定に対する保全抗告事件
いわゆる事件名 : 渡邉金属運輸事件
争点 : 貨物自動車運送会社に整理解雇された者らが、地位保全、賃金仮払を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 :  一般区域貨物自動車運送事業会社に雇用されていた労働者7名が、整理解雇を無効として、地位の保全並びに賃金の仮払を申し立てた事案の抗告審である。  保全異議審の宇都宮地裁栃木支部は、人員削減の必要性があったと認めるに足りる疎明がなかったこと、解雇回避努力が不十分であったこと、人選が恣意的であったことなどを根拠に、整理解雇を無効として労働者らの請求を認めた。これに対し会社が保全抗告申立て。  抗告審である東京高裁は、〔1〕売上高の大幅減少により15名を人員削減するとしたことは合理的であること、〔2〕勤務日数の削減、給与・役員賞与の減額、設備投資の見送り等の措置をとり解雇回避に努めたこと、〔3〕人選も、一般的な査定項目や査定評価基準、査定体制のほか、相手方各人についての具体的な査定についても合理的に行われており、その査定の結果をもって下位の者8名を対象としたことは合理的であったこと、〔4〕組合との交渉、従業員説明会を通して手続は相応に行われたことから、いわゆる整理解雇の4要件を具備しているとして解雇を有効とし、原決定を取り消して労働者の請求を斥けた。
参照法条 : 労働契約法16条
体系項目 : 解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇の必要性
解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇の回避努力義務
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) /整理解雇 /協議説得義務
裁判年月日 : 2010年5月21日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 決定
事件番号 : 平成22(ラ)460
裁判結果 : 認容
出典 : 労働判例1013号82頁/労働経済判例速報2074号28頁
審級関係 : 一審/宇都宮地平成22.2.19/平成21年(モ)第52号 一審/宇都宮地平成21.11.26/平成21年(ヨ)第17号
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の必要性〕
 〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の回避努力義務〕
 〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 〔解雇(民事)‐整理解雇‐協議説得義務〕
 4 争点1(本件整理解雇についての4要件の具備の有無)について
 (1) 整理解雇が有効と判断されるためには、まず、当該整理解雇をするに当たって、人員削減の必要性があったこと、使用者が解雇回避努力を尽くしたこと、解雇された労働者についての人選の合理性があったこと及び解雇に至る手続に相当性があったことの4要件が具備されていることを要すると解するのが相当である。〔中略〕
 エ 以上によれば、抗告人の運転部門において15名の人員を削減する必要性があったことが疎明される。
 (3) 解雇回避努力について〔中略〕
 エ 以上によれば、抗告人は、解雇回避努力を十分に尽くしたことが疎明されるというべきである。
 (4) 人選の合理性について〔中略〕
 ウ 以上のとおり、一般的な査定項目や査定評価基準、査定体制のほか、相手方ら各人についての具体的査定についても、特段不合理な点はみられず、その査定の結果、下位の者から相手方らを含む8名を選んで整理解雇の対象者としたことについては、合理性があることが疎明される。
 (5) 手続の相当性について
 前記2に疎明された本件組合との交渉や、従業員に対する説明会の経緯等に照らせば、抗告人は、本件整理解雇に当たって、労働組合との協議等の手続を十分に尽くしたということができる。
 (6) まとめ
 以上によれば、本件整理解雇には人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性及び手続の相当性の4要件を具備しており、一般的有効要件を満たしているということができる。〔中略〕
 (原決定)
 宇都宮地方裁判所栃木支部 平成22年2月19日決定(平成21年(モ)52号)〔中略〕
 主文
 1 債権者B、同C、同D、同E、同F、同G、同Hと債務者渡邉金属運輸株式会社間の宇都宮地方裁判所栃木支部平成21年(ヨ)第17号地位保全及び賃金仮払仮処分申立事件について、同裁判所が平成21年11月26日付けでした仮処分決定を認可する。
 2 申立費用は、債務者の負担とする。〔中略〕
 4 当裁判所の判断〔中略〕
 したがって、本件整理解雇当時、債務者において一定程度の人員削減の必要性があったことは否定されないといえる。しかしながら、その人員削減の規模については、本件整理解雇により、運転部門の従業員の人数がおよそ半減したことにかんがみると、その規模の相当性を肯定されるかについては検討を要するというべきである。
 エ そこで、債務者が15名の人員削減をしたことについて、合理性が認められるかについて検討する。〔中略〕
 しかしながら、債務者においては、従業員の給与その他の経費節減等を行うことによって上記手法により算出された削減人数を減少させることも可能であったと解され、現に、債務者においては、第3の1(4)イ及びウ(原決定4頁)のとおり、従業員らの給与につき、平成21年1月分(平成20年12月16日から平成21年1月15日までの分)の給与を運転部門の従業員について平均2万3170円、事務部門の従業員について平均2万9990円減額するとともに、全従業員について、平成20年夏季賞与と比べ、同年冬季賞与の基礎額を一律2万円減額するなどの対応をとってきた。さらに、債務者は、本件整理解雇後の平成21年6月に就業規則を変更して賃金を減額するとともに、平成21年夏季賞与も減額した。しかしながら、債務者は、本件異議申立書24頁22行目のかっこ内(第2の23(2)(ⅴ)において、債務者の賃金は同業他社に比べてやや高めであることを自認しているのであって、本件整理解雇の時点において、さらなる給与削減等を検討することによって、人員削減の規模を抑えることも可能であったことがうかがわれる。〔中略〕
 債務者におけるいわゆる傭車の使用状況が、第3の4(2)(原決定10頁)のとおりであり、平成21年4月についてはT社の一時的な生産量の増加に伴う傭車の増加であったとしても、本件整理解雇後のその他の月においても、少なからぬ台数の傭車を使用していたという事後的な状況に加え、平成21年1月当時、債務者の運転部門の従業員は35名であったところ、平成21年4月14日までに7名の従業員が退職することとなったことに照らすと、同日の時点において、さらに8名の従業員を整理解雇することが相当であると言えるような事情があるとも認めがたい。
 さらに、第3の2(原決定5頁ないし9頁)のとおりの団体交渉の経過によれば、第2回団体交渉の時点においては、人員削減による費用効果についていまだ詳細な分析、検討がされていなかったことがうかがわれるのであって、人員削減の方針について十分精査されないまま、15名の削減を決めたのではないかとの疑いも残るところである。〔中略〕
 オ 以上によれば、債務者が、本件整理解雇の意思表示をした日において、それ以前に退職を申し出た者7名に加え、さらに8名の人員削減の必要性があったと認めるに足りる疎明はないというべきである。〔中略〕
 本件整理解雇に際しての解雇回避努力に当たらないというべきである。〔中略〕
 5 以上のとおりであって、その余の債務者の異議申立書及び第5準備書面における主張については判断するまでもなく、原決定は相当であるから、主文のとおり決定する。