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ID番号 : 08840
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : コナミデジタルエンタテインメント事件
争点 : 電子応用機器関連会社の従業員が育児休業後の降格、年俸の減給等を違法として争った事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 電子応用機器関連のソフトウェア、ハードウェア及び電子部品の研究、制作、製造並びに販売等を目的とする株式会社Yの従業員であったXが、育児休業後復職した際に降格され、年俸を減給された人事措置について、人事権の濫用等により違法・無効なものであるとして、降格・減給後の給与額と降格・減給前の給与額との差額、不法行為に基づく損害の賠償、Xの人格権侵害等を理由とする謝罪及び就業規則の改訂を求めた事案である。 東京地裁は、海外ライセンス業務から国内ライセンス業務への担務の変更、これに伴う役割グレード引下措置、役割報酬減額のいずれも人事権の濫用があるとまではいえないとして斥けたが、成果報酬ゼロ査定だけは裁量権濫用行為によるものとして違法な行為に当たり、過失があるものと認められるとして精神的損害について慰謝料等35万円の支払を認めた。
参照法条 : 憲法14条
労働基準法3条
労働基準法4条
育児・介護休業法10条
男女雇用機会均等法9条
体系項目 : 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
賃金(民事) /賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額 /賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
労働契約(民事) /人事権 /降格
裁判年月日 : 2011年3月17日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ワ)20155
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1027号27頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔賃金(民事)‐賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額‐賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
〔労働契約(民事)‐人事権‐降格〕
 (2) 以上(1)の認定事実(以下「上記認定事実」という。)によると、被告は、原告が本件育休等を終えて本件復職をした際、原告をライセンス部における海外ライセンス業務から国内ライセンス業務へ担当業務を変更するという本件担務変更を行い、これに伴い、当該業務変更により原告が新たに就く国内ライセンス業務についての役割グレードを決定する本件役割グレード引下措置を行い、原告の年俸のうち役割報酬についてはこの決定された役割グレードに対応する役割報酬額となったことが認められ、これらは一連の関係にあるといえる。他方、原告の年俸のうち成果報酬については、年俸査定期間中の原告の成果を査定して決められたものであり、上記の措置等とは連動した関係にあるものということはできない。また、本件裁量労働制適用排除措置も、原告からの本件時短申出に基づき育児短時間勤務の措置を行うことが決定され、被告は、これに伴って、時間管理区分の見直しとして、本件裁量労働制適用排除措置を行ったことが認められるから、上記の措置等とは連動した関係にあるものということはできない。
 本件各措置を構成する以上の措置等がこのような関係にあることを前提として、以下検討する。
 (3) 本件担務変更の無効(人事権の濫用)について〔中略〕
 オ 以上説示したこと及び他に本件担務変更が被告の人事権を濫用したものと評価し得る特段の事情は認められないことからすると、本件担務変更自体をもって被告の人事権を濫用したものということはできない。
 (4) 本件役割グレード引下措置の無効(人事権の濫用)について〔中略〕
 カ 以上説示したこと及び他に本件役割グレード引下措置について権利濫用と評価し得る特段の事情は認められないことからすると、本件役割グレード引下措置自体をもって被告の人事権を濫用したものということも、就業規則等に基づかないものということもできない。
(5) 本件年俸減額措置の無効(人事権の濫用)について〔中略〕
 カ 以上によれば、本件年俸減額措置のうち本件成果報酬ゼロ査定は人事権を濫用したものとして無効であると認められるが、その余の本件年俸減額措置の無効をいう原告の主張は、採用することができない。
 (6) 本件裁量労働制適用排除措置の無効(人事権の濫用)について〔中略〕
 ウ 以上によれば、原告が主張する事由によっては、本件裁量労働制適用排除措置が人事権を濫用したものということはできず、また、その効力を否定する根拠となるものではない。
 (7) 本件各措置の無効(法律違反・公序良俗違反)について〔中略〕
 キ 以上の次第であるから、本件各措置が上記ア~カに掲げる各規定に反する無効なものであるとの原告の主張は、採用することができない。
 (8) 従前年俸額と新年俸額との差額の支払請求権について
 以上(1)~(7)で説示したとおり、本件各措置のうち本件成果報酬ゼロ査定は人事権の濫用に当たり、無効である。
 ところで、上記前提事実(2)イ(イ)bによると、成果報酬は、年俸査定期間中の実績に応じて支給される成果給であり、その具体的な額は、前年度の成果評価に基づく査定によって決定されるものであることからすると、具体的な成果報酬支払請求権は、被告が上記の決定をして初めて発生するものと解される。そうすると、本件成果報酬ゼロ査定しかされていないという本件事実関係の下においては、原告は未だ成果報酬が定まっていない状態にあり、これに関して損害が発生する余地はないというべきである。〔中略〕
 (1) 不法行為の存否について
 ア 上記1の(1)~(7)で説示したとおり、被告が行った本件各措置のうち裁量権を濫用したものと認められるのは、本件成果報酬ゼロ査定だけである。これを公序良俗に反する差別的取扱いとして不法行為に当たるとする原告の主張は、本件査定対象期間における原告の実績に係る成果報酬が支給されるべきであるのにその支給がなかったことを違法とする主張を含むものと解され、この不支給は被告の裁量権濫用行為によるものとして違法な行為に当たり、上記1(5)オ(イ)で説示した本件成果報酬ゼロ査定の内容に照らすと、少なくとも被告には当該行為につき過失があるものと認められる。したがって、被告は、上記不支給により原告が被った精神的損害について賠償義務があるというべきである。
 イ 原告が本件復職前に被告のライセンス部の従業員等と3回にわたって面談をした際の事実関係は、上記認定事実ウのとおりであることが認められる。この事実関係からは、原告が主張する趣旨の差別的発言があったことは認められず、他にこの点を認めるに足りる証拠はない。