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ID番号 : 08849
事件名 : 雇用契約上の地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 郵便事業(期間雇用社員・雇止め)事件
争点 : 郵政事業会社に雇止めされた労働者が、地位確認及び賃金の支払を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 :  郵政事業会社との間で期間雇用契約を締結していた労働者Xが、会社の行った雇止めを無効であると主張して、地位確認及び過去1年間の月額平均賃金相当額の支払を求めた事案の控訴審である。  第一審岡山地裁は、当事者間の契約関係は私法上の契約であり、雇止めについて解雇権濫用法理を適用する余地があるとしながらも、雇用主が公社から郵政事業会社に変わってから一度も更新されていない以上、適用の前提となる事実が存在しないとして斥け、また民営化以前と以後の雇用契約の連続性・一体性についても否定して、Xの請求を棄却した。Xが控訴。  第二審広島高裁岡山支部は、郵政事業会社との関係になってからは一度も更新をしてはいないものの、公社の時代から4年10か月余に及び更新を繰り返し、公社及び郵政事業会社にとって常時必要不可欠の存在であり、しかもその任用ないし雇用継続は強く期待されていたということができ、また、Xにとっても会社との雇用契約更新について合理的な期待を有するものというべきであるとして、本件雇止めについて解雇権濫用法理の類推適用により無効とし、雇用関係の継続を認めてXの請求を認容した(ただし、将来賃金の請求は却下)。
参照法条 : 労働契約法16条
人事院規則8-1274条
体系項目 : 解雇(民事) /解雇権の濫用 /解雇権の濫用
解雇(民事) /短期労働契約の更新拒否(雇止め) /短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 : 2011年2月17日
裁判所名 : 広島高岡山支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ネ)82
裁判結果 : 原判決一部変更、請求一部認容、一部却下、一部棄却
出典 : 労働判例1026号94頁
審級関係 : 一審/岡山地平成22.2.26/平成20年(ワ)第782号
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐解雇権の濫用‐解雇権の濫用〕
〔解雇(民事)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 (6) そうすると、控訴人としては、被控訴人の職員として、交通事故を繰り返すことにより、第三者に対する安全確保を損なっている点、問題があるものの、なお、本件各事故を理由として、運転者としての適性を欠いているとはいえないのみならず、控訴人の運転適性から見て、その自覚及び被控訴人において控訴人の勤務条件上なすべき配慮により改善は十分可能であり、他方、被控訴人の事業運営上、本件各事故の程度では到底職員としての身分を喪失させるような場合には当たらない一方、控訴人には、職務の遂行上、高い評価が与えられる実績もあったものである。
 そして、前記説示のとおり、就業規則10条1項には「会社が必要とし、本人が希望する場合は、雇用契約を更新することがある。ただし、雇用契約期間が満了した際に、業務の性質、業務量の変動、経営上の事由等並びに社員の勤務成績、勤務態度、業務遂行能力、健康状態等を勘案して検討し、更新が不適当と認めたときには、雇用契約を更新しない。」と定められており、本件雇止めに関しても、上記ただし書きの要件を満たすことが必要であると解するべきところ、被控訴人の主張及び既に認定説示した事情によれば、控訴人には運転者としての適性以外に上記更新が不適当とする事由は認められず、しかも控訴人が運転者としての適性を欠いており、今後の自覚、指導や勤務条件の変更等によって改善が期待できないとはいえないから、上記条項に基づき、被控訴人が本件雇用契約の更新をしない場合には該当しないというべきである。
 なお、以上の説示によれば、本件雇止めについては、控訴人に交通事故の繰り返しがあったとはいえ、それには、公社ないし被控訴人の事業運営上の問題点も絡んでおり、控訴人は十分改善可能であり、しかも被控訴人の懲戒規程及び従来の処分の実情に照らしても、到底雇止めないし解雇すべき場合には該当しなかったこと、控訴人の職務遂行の評価は良好であったこと、被控訴人の就業規則10条1項ただし書きにも該当しないことから、本件雇止めは、合理的理由を欠き、社会通念上相当とはいえないものであって、解雇権濫用法理の類推適用によりこれを無効とし、雇用関係の継続を認めるべきである。
 (7) したがって、本件雇止めは効力を有せず、本件雇用契約期間満了後における被控訴人と控訴人の間の法律関係は従前の雇用契約が更新されたのと同一の法律関係となると解すべきである。〔中略〕
 4(1) 以上によれば、控訴人は、被控訴人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることになる。
 (2) また、控訴人は、被控訴人に対し、賃金から通勤費分を除いた平成20年4月1日から1か月につき26万3832円を、当該月の翌月24日限り支払うべき義務を負うが、被控訴人が、本件判決確定後においても、なお賃金を支払わないと認めるに足りる証拠はないから、本判決確定後の賃金請求については、予めその請求をする必要があるとはいえず、当該請求に係る訴えは却下すべきである。